Arcana Story 〜もう一つの世界の伝説〜

キサラギ

プロローグ 『世界の始まり』


「初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。『光あれ。』こうして、光があった。神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である」








「ーーうん。実にイイ」




 男は突然話し始めた。




「何度読んでも面白えなぁ、ここは特に。なあ、良くねえかよぉ?こっからすべてが始まったんだぜ。ウヒヒ」




「急になんだよ」




 男に問うと、彼は驚いた様子でこちらを見た。




「知らねえのか?『創世記』だよ。『創世記』第一章『天地の創造』」




「それは知ってる。なんで今聖書なんて読んでんだって聞いてんだよ。今はそんな呑気にしてる場合じゃねえぜ。お前には話してもらうことが山ほどある」




「まあ慌てんなよ。俺が何の意味もなくこんなこと言うと思うかぁ?」




 男は丁度今出来上がったスープを器に装うと、また話し始めた。




「色々聞きたいことはあるだろうが、まずは黙って俺の話を聞きな」




「......わかったよ」






 俺も腹が減ったので、スープを装って食べた。正直に言って美味しくはなかったが、今は味なんてどうでも良かった。それよりも今起こっている事態の把握が最優先だった。




「じゃあ、そうだな。うん。おめぇさん。神は信じるか?」




「神?なんだそれ?」




「本当にいるのか、それともいねえと思うのかって話よ」




「......そうだなぁ。あんま考えたこともねえけど、普通に考えたらいねえんじゃねえか?」




「どうしてそう思う?」




「どうしてって、今の時代、神様がいるって本気で思ってる奴なんていねえだろ。なんていうか、非科学的だぜ。あれは人が勝手に考えたものだ」




「なるほど、そうかい。リアリストだねえ、おめぇさんは」




 男はスープを食べ終えると、爪で歯に挟まった食べカスを取りながら、また聖書を手に取って、希望に満ち溢れた表情でこう言った。




「俺は......いると思うぜ」




 男は笑みを浮かべながら楽しそうに、それでいて一点の曇りもない真剣な表情だった。






「この世界は神が造ったんだ。間違いねえ。けど、さっき言った『天地の創造』のように作られたとは言わねえ。いや、分かんねえけど。お前らつまんねえ現代人が、宇宙の原点だって言ってる『ビックバン』だって、きっと神が起こしたに違いねえ」




 俺は言葉を返した。




「そんなもん、なんも理由になってねえじゃねえか」




「確かに仰る通り、これは俺のただの想像だ。だがおめぇさんはよぉ、何もかも説明できるって言うのか?この世界のあらゆることを、その科学とやらで理由付けられんのかよぉ?」




「......できるんじゃ......ねえか?」




「じゃあなんでおめぇさんはそこにいるんだ?どんな理由でそこに存在してる?」




 少し考えて、あまり整理できなかったが、とりあえず答えた。




「そりゃあ、俺を産んでくれた親がいて、育ててくれたからだろ。だからこうして今生きてる」




 男は少し不満げだったが、質問を続けた。






「じゃあなんで人は生きてるんだ?一体なんのために。いつか死んでしまうのに、どうして人は生まれてくる?人だけじゃねえ。犬や猫だっていい。なんで生命は誕生するんだ?」




「それは......なんでっつーか、自然の摂理だぜ。偶然そこにあるんだから、説明しようがねえ」




「ほーらみろよ!科学で説明できねえ、都合の悪いことは全部、偶然だとかいう言葉で片付けるんだぜ」




 男は子供みたいにはしゃいだ。




「この世には説明できねえことがたくさんある。だが、それでいい。それがいいんだぜ。何もかも分かっちゃったらつまんねえもんなぁ。意味も分からねえことが突然起こることだってある」




 男は一呼吸ついて、こう言った。








「それが今だぜ。今起こっていることだ」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る