第21話.タメ語でいい?

さっき玄関のところまで行ったのに、なぜかリビングまで逆戻りしていた。「この前のお礼がしたいからお茶でも」 と引き止められたのだ。


「あの、この前はどうも」


冷たい麦茶とチョコレートのお菓子を挟んで僕たちは座った。相変わらず暗い顔をしてる。どこか危なっかしい印象が残る。


「別に大丈夫ですよ」


これ以上関わる気もないのでバカ丁寧に返事をする。変に馴れ馴れしくするよりそっちの方が関係を切るのが楽だと思ったから。


「あ、井上くん、タメ語で・・いい?」


ついさっき思った事の真反対のことをしてくるな。真反対すぎて笑いそうだ。


「いいですよ」

「じゃあ、井上くんもタメ語でいいよ! せっかく、同い年なんだもん」


さっきまでの、どもりながら喋っていた佐和田さんはどこへやら、まったく別人のようにスラスラ喋り始めた。


「いや、僕は・・・・」

「ダメ・・・・かな?」


大きい黒目が、悲しそうに少し揺れた。


「・・・・いいよ」


流石の僕も、女の子を泣かせるほど悪趣味ではない。


というか、タメ語で話すのを拒否されそうなだけで泣きそうって、どれだけ不安定なんだよ。


「よかった、井上くん優しそうだから、仲良くなれそう」


「仲良くなれそう」 と言われると悪い気はしない。「そう?」 なんてまんざらでもない返事を返した。僕らしくない。


「今日、親はいないの?」


まだ気分が高ぶってるのか、僕にしては珍しく自分から話題を振った。


「うん、お母さんはパートで、お父さんはもういないんだ」

「あ、ごめん」


「もういない」 という言い方が少し気になったが、なんとなく聞いてはいけないことだったかなと思い、謝るのを優先させた。


「いいよ、あんまり親と話す機会ってなかったから」

「ふーん、じゃあ僕と同じだ」

「井上くんも?」

「うちは共働きなんだ、2人とも朝早くて夜遅い、だからあんまり親と会わない」


なんでこんなに自分のことをスラスラ言ってしまうんだろう。今日の僕は僕じゃないみたいだ。


いったいどうしてしまったんだろう。

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