第34話 侵入作戦


 俺はレッツGのメーターパネルが変化した即席モニタに向かって話しかけた。

「ミミ、まずは警備ボックスまで見つからないようにたどり着いて、屋根に登れ」

『しょうちしました』


 路面をトテトテと走っていくミミ。即席モニタには、ミミの見ている視界が映っている。

 せっせとボックスの屋根に上がったミミを確認すると、更に指示を与える。


「ボックスから見て、前後左右の映像を撮影しろ。静止画でいい」

『しょうちしました』

「悦田はバイクの所まで戻ってくれ」

『わかったわ』


 胸ポケットを見下ろす。

「ファーファ、ミミにお前の持っているイメージで、送っておいて欲しいものがある――」

『――しょうちしました。かんたんなきのうですので、だいじょうぶです』


「アヤトくん、わたしはなにをしましょう?」

 志戸が生真面目な表情で見上げてくる。

「志戸は……合図したらとにかく走れ。それだけでいい」

「ふえぇぇ……」



 ミミが仕事を終えたことを確認して、俺は全員に作戦指示を出した。


「分からないところは無いな? 3、2、1、0で、進めるぞ。志戸、準備はいいか」


 俺は志戸のバイクを、志戸は俺の自転車を押しながらゲートに向かって走り始めた。

 ゲートから50メートルほど手前を通過。走りを止めず、カウントを始める。


「3!」

 悦田が、あらかじめ拾っていた何かの欠片を10メートル向こうのボックスに投げつける。狙いはボックスの側面。


 カツン。


 見事に狙い通り、横の窓に当たった。さすがは悦田の運動神経だ。


「2!」

 ミミが、ボックスの前方正面――俺たちが向かってくる側の窓ガラスに、小さな手を触れる。と、同時に、そこに虹色の光が走った。

 おそらく、ボックスの内側に向けて、窓ガラスを変化させた全画面モニタが出来上がったところだろう。すぐさま、ミミにあらかじめ撮影させておいた、ボックスから見えるトンネルの映像を投影させる。

 

 ――ボックスの中は静かだ。

 よし! 窓ガラスがモニタに変化したことに気づかれていない!! 上手く黒SSの目線を逸らせているようだ。


「1!!」

 悦田がバイクを押しながら走り始める。

 ここで、さっきの音で黒SSが表に出てきたら、おしまいだが……。


 出てこない! よーし!!


 再び、悦田が走りながらサイドスローで小石を投げた。

 

 カツン

 

 並外れた運動神経の持ち主が投げた小石は、またも正確に今度は正面の窓ガラスに当たり、小さな音を立てる。

 と、同時に、ミミが今度は遮断棒側の窓に触れる。虹の光が走る。

 黒SSは静かだ。

 上手くいった! 今頃は側面の窓の内側がモニタに変化して、横から見える映像を投影しているはずだ。


 そう。警備ボックスの中に居る黒SSの目線を外させ、そのタイミングで実際に見える景色をモニタに映した映像に差替えているのだ。

 志戸の言ったところの、目隠しだ。何かの映画で見たことがある作戦だ。


 あとは、ばれない間にゲートをすり抜ける!


「0!!」


 まず、悦田が遮断棒の横を勢いよく通り抜けた。成功。

 次に軽い自転車を押す志戸が通り抜ける。

 そして、志戸の代わりに重量のある原付バイクを押す俺。


 図体のデカイ俺が小さめのレッツGを押しながら走る。ちょっと難しい姿勢だな……足が絡まりそうだ。


 遮断棒の横をすり抜ける。

 瞬間、よろめいた。


 遮断棒に身体が引っかかった! ガシャンと揺らす音が大きく響く。

 クソッ!

 自分の運動神経の無さが恨めしい!


 瞬間、警備ボックスの天井に居るミミが目に入った。レッツGの即席モニタに向かって、とっさに小さく叫ぶ。

「ミミ! 緊急フォロー作戦! 窓ガラスを一瞬光らせろフラッシュさせろ!」

『しょうちしました』


 バシッ!

 そんな音が聞こえそうなほどの閃光が、警備ボックスから一瞬漏れ出た。


「ウッ!」

 黒SSの驚きの声が漏れてくる。


「ミミ、俺のところへ来い! ゴメン! みんな走れ!!」

 小声で叫ぶ。ファーファを経由してミミと悦田のモニタに声が飛ぶ。

 泣きそうな顔の志戸と頭を抱えていた悦田が、弾かれたように奥へと走り始めた。


 屋根から遮断棒の上に飛び降りたミミが、パタパタと俺の方に駆けてくる。ファーファと比べてほんわかした感じがするのは気のせいか。早く来いっ!

 ミミがレッツGの上に飛び乗ってくる。待ち構えていたファーファがミミを抱きとめるのと同時に、俺もみんなを追いかけ始めた。


「なんだ!? 何が起きたッ!」

 背後で黒SSがボックスから飛び出てきた気配がした。

「なッ!?」

 そのまま、何かにつまづいて転倒する音が聞こえる。


 トンネルの暗闇に慣れた目をフラッシュで一瞬盲目にする。


 万一の時にと、ミミに指示していた緊急フォロー作戦だ。

 ファーファの持つスマホのフラッシュ機能。そのイメージをミミに共有させた。

 簡単な機能でミミもイメージしやすいから再現には問題ないだろうと踏んだのだ。


 さらに運が味方をした。

 大型トラックのエンジン音が背後から向かってきたのだ。

 間一髪! あのままではトラックに見つかっていたに違いない。そして、あの黒SSが今の原因を調べるとしても、トラックの応対の後になる。

 俺たちはトンネルの出口めがけて必死に走った。

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