第35話

リリィは街に着くと、止まっていた宿屋に戻る。

すると従業員から呼び止められる。


「すみません。ちょっといいですか?」


「はい。なんでしょうか?」


「お客様のお仲間からお手紙を預かっていますので、受け取ってもらえますか?」


「手紙?わかりました」


従業員が差し出してきた手紙を受け取ると、早速開いて中を見る。




よう、嬢ちゃん。

この手紙を読んでいるということは、無事生きて戻ってこれたんだな。

全く、驚いたぜ。

俺たちが嬢ちゃんがいなくなったことに気づいたのは夕方近くだったからな。

俺とヴィオは連れ戻すのは不可能だと判断したんだが、アンリが駄々をこねて、宥めるのに一苦労したぜ。

で、俺たちは話した通りに早朝に街を出ることにした。

向かう先は地元の町だ。

嬢ちゃんの住んでいた村の近くの町だから、里帰りするときは寄ってけよ。

そん時にまだ冒険者をやっているかわからねぇけどな。ははっ。


……もし、この手紙を読んでいるなら、手紙でもなんでもいいから連絡をくれ。

ジェフより




手紙を読み終えたリリィは、ため息をつく。

ジェフさんたちに心配かけてしまったなぁ、と。

読み終えた手紙を綺麗に折りたたみ、封筒に戻すと宿を出る。

ジェフさんたちに送るための手紙一式を購入するためだ。


一式を購入すると、ギルドに行き新たな情報がないか確かめるべくその足で向かう。

ギルドに入ると、沢山の人がいて怒号が飛び交っていた。

軽く耳を傾けてみれば、どれも緊急依頼について話していた。

しかし、誰もが詳しいことを知らないようで、そのことについて話しているようだった。


ここにいても詳しい情報は入りそうにないので、担当のエリナの下に行く。


「エリナさん。今大丈夫ですか?」


「あら、今日はリリィさん1人だけ?」


「はい。ジェフさんたちは地元に帰られました」


「そう、なの。……わかったわ。この後はリリィさん1人で活動する、ということでいいのかしら?」


「しばらくはそうなるかと思います。それで、緊急依頼のことですが、どうすればいいのでしょうか?」


「ちょっと待ってください。上に聞いてみますので」


エリナは席を立ち、奥にいる上司と思われる人と話を始める。

しかし、話しはすぐに終わり戻ってきた。


「お待たせしました。緊急依頼ですが、街に留まりいつでも戦闘ができるようにしていただければいいそうです。できればギルドに詰めていただくと助かりますね」


「そうですか」


「あと、これはリリィさん、というか灼熱の剣にでしたが、マスターが話があるそうです。ですので、マスターのいる執務室までご足労いただけますか?」


「はい。わかりました」


リリィは、すぐさま執務室まで向かう。

話というのは、ラミィについてかな?

それとも、森の主について?

どちらにしても、話せることはほとんどないんだけどな。


歩きながら、そんなことを考え執務室にたどり着く。

軽く深呼吸すると、ノックする。


「どうぞぉ」


と、相変わらず言葉尻を伸ばした喋り方をするディアナの声が聞こえた。


「失礼します」


ドアを開け中に入る。


「あらぁ。あなただけなのねぇ」


そういうディアナは、窓辺に腰掛け煙管を手に持っていた。


「はい。ジェフさんたちは、今朝早く街を出て行きました」


「そうぉ。まあいいわぁ。話をしたかったのはぁ、あなただったのだからぁ」


「私、ですか?」


「そうよぉ。あなた、魔の森に行ったそうねぇ」


「はい。行きました」


「どうだったかしら?争いはもう終わっていたのでしょう?」


「はい。私が見た限りでは、争いは終わっているように見えました」


「どちらが勝ったと思うのぉ?」


「正直わかりません。魔の森を貫いてきた光線の後を見ましたが、あれはラミィ、カラミティではできないと思います」


「じゃあ、主が勝ったんじゃないのぉ?」


「それが、いまだにカラミティとの繋がりを感じます。ですので、どういうことなのかわからないのです」


リリィがそう答えると、ディアナは煙管を咥え何度となくタバコを蒸す。


「……そう、そういうことねぇ」


「何かわかったんですか?」


「そうねぇ。考えられることはぁ、二つよぉ。一つ目はぁ、カラミティとは違う魔物とぉ、戦ったぁ。二つ目はぁ、カラミティがぁ、主の下についたぁ。そのどちらかでしょうねぇ」


それを聞いたリリィは納得できた。

そのどちらにせよ、ラミィとの繋がりをいまだ感じることができることに。

ただ、前者だと、今後もラミィは主に狙われる危険がある、ということ。

対し、後者だと、主の庇護下についた、とも見ることができる。

できることなら後者であってほしい、とリリィは願う。


「まあ、どちらにしてもぉ、争いは終わったみたいだからぁ、数日様子を見てぇ、何事も起こらないようなら依頼を解除するわぁ。そのあとは調査を頼みたかったのだけれどもぉ、あなた1人では無理そうねぇ」


ディアナにそう言われてしまったが、それは事実であった。

従魔のリルやアイギス・イージスを連れたとしても、ジェフたちと一緒に行動していたときのようには動けない。

せいぜい魔の森の浅い部分しか無理だろう、とリリィは思った。


「となるとぉ、今後は森の調査はしなくていいからぁ、カラミティが生きているかどうかだけ、報告してちょうだい。10日置きくらいでいいわぁ。ただしぃ、金額は落とさせてもらうことになるけどねぇ」


ディアナの判断は妥当なところだろう。

無理に調査に行かせて死なせるより、確実にカラミティが生きているかどうか、知ることができる方が重要である。

となれば、こういうことになるのはごく当然であった。


「わかりました。それで構いません」


「交渉成立ねぇ。それじゃあ伝えておくからぁ、報酬を受け取っていきなさいねぇ」


「え?今ですか?」


「それはそうようぉ。たった今、あなたはカラミティが生きているとぉ、報告してくれたんですものぉ。ちゃんと受け取るようにねぇ」


「……わかりました」


リリィは部屋を出て、受付に行きエリナから報酬を受け取る。

報酬金額は銀貨5枚。

森を調査した時と比べて相当減ってしまったが、調査と比べて危険度ははるかに少ないのだから、これが妥当なのだろう。

逆に考えれば、大した労もせずに銀貨5枚もらえると考えれば、かなり美味しいとも言える。


今度は、ちゃんと実力をつけてカラミティに会いに行けるようにならないと。


そう考えるリリィだった。

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