第33話
魔の森の主は、少し歩くと立ち止まり振り返る。
『へぇ。今ので死ななかったんだ。思ったよりも頑丈ね』
爆煙が薄れると、そこにはカラミティの姿があった。
ただし、身体中は傷だらけで、頭左側は吹き飛んで無くなっていた。
そんな状態にもかかわらず、カラミティは生きていた。
しかし、その様子はどう見ても、虫の息にしか見えない。
森の主は面白がるようにカラミティを見ていると、カラミティの傷口が蠢き塞がり始めた。
『ふーん。まるでヒュドラみたいな再生能力ね。でもね、そんな再生能力があっても倒す手段はいくつもあるのよ。例えば、傷口を焼く』
森の主がそういうと、どうやったのかわからないが左前脚が切り飛ばされ、体勢を崩す。
慌てて再生させようと力を込めるがうまくいかない。
切り飛ばされた場所を見ると、真っ黒に焦げて炭化していた。
これでは一旦、焦げてしまった場所を取り除かなければ、再生ができない。
焦げ付いている部分を取り除こうと思ったところで、森の主が再び口を開く。
『再生が追いつかないほど、傷を与え続ける』
次は、全身に痛みが走り、血が吹き出る。
どうやら、一瞬で全身を切りつけられたようだが、傷は深くない。
これなら、すぐに治すことはできる。
そう判断し、全身に付けられた傷を後回しにし、左前脚の対処をする。
炭化してしまった部分を取り除き、左前を再生させてから、全身に付けられた傷を治す。
その間、森の主は何もせず黙って見ていた。
『傷は治せたみたいね。じゃあ、最後に、即死するような強烈な一撃を与えることよ』
それを聞いた瞬間、カラミティは瞬時に体を小さくした。
体長30mを超える大きさから20cmほどの、魔物へと化す前の大きさに。
側から見れば消えたようにしか見えなかっただろう。
とっさに判断ではあったが、カラミティのとった行動は最善の手であった。
森の主はカラミティが小さくなったのと同時に、直径10mは超えるであろう光線をカラミティ目掛けて放った。
その光線は、カラミティの僅か数cm上を通って行った。
光線は1〜2秒で消えてしまったが、光線が通った跡が森の外まで続いていた。
その距離は少なくとも十数kmはあった。
カラミティは、それを見てあまりの凄まじさに目を疑った。
どれほどの力を持てばこんなことができるのか、と。
しかも、森の主はことも簡単に行ったことから、まだ全力ではないのだろう、ということもわかった。
彼我の力の差が、隔絶に離れすぎている。
どうあがいても勝てようがない。
大人と赤子どころか、象と蟻ぐらいの力の差を感じる。
蟻1匹が何をしたところで、象を倒せるはずがない。
傷一つ負わせることすらできないだろう。
そのことを悟ったカラミティは、逃げるために小さくなったまま動きだす。
『変ね。当たった感触がしなかったわ。何かして、避けたのかしら?』
その言葉を聞いたカラミティはヤバイ、と感じた。
ただのトカゲの範疇を超えない速度で駆け出し、森の主から離れる。
だが、次の瞬間身体が動かせなくなる。
なぜだと、身体を見ると身体中に草が巻きついていた。
ただの草であれば、引きちぎることなど容易にできるのに、この草はそれができない。
それどころか、体を持ち上げられ、森の主の前まで運ばれた。
『あなた、こんなことまでできたのね。ここにきてから、そこまで小さくなったことがなかったからわからなかったわ』
森の主は、草に拘束されているカラミティをジロジロと見ていたが、満足したのか頷く。
『あなた、面白いわね。私を楽しませてくれたから、解放してあげる』
森の主がそういうと、カラミティを拘束していた草は解け、背中から地面に落ちた。
慌てて起き上がり、森の主を警戒して見る。
『そんなに警戒しなくても大丈夫よ。あなたのことを気に入ったから今は殺さないであげる。それと、私に攻撃しないのなら、この森では何をしてもいいわ』
何をしてもいい?
それはつまり、他の魔物を自由に食らってもいい、ということ?
カラミティがそう考えると、それを読み取ったのか森の主は頷く。
『ええ、好きなだけ食べていいわ。まあ、この森に住み着いている魔物全てを喰らったところで、私には届かないでしょうけどね』
その言葉に、カラミティは疑問を持った。
カラミティと名付けられてから、自分でも驚くほどの著しい成長をしている。
ならば、ここに住んでいる魔物を全て喰らい尽くせば、あるいは、と。
『ふふっ。もし、そう思うのなら、試してみればいいわ。私に届くほどの力を得たと思ったのなら戦いを挑んで来なさい』
そうだな。
もし、この者に届くほどの力を得たと思ったときは、戦いを挑んでみよう。
『その時を楽しみにしているわ』
そういうと、森の主は再び来た道を歩き始める。
が、少し歩いたところで立ち止まり振り返る。
『そうそう、名乗るのを忘れていたわね。私の名前は、セフィロト。生命の木を意味するわ』
それだけいうと、また前を向いて歩きだす。
今度は立ち止まることなく、カラミティの前からいなくなった。
セフィロト、か。
とんでもない奴だった。
しかし、ここでは何をしてもいい許可をもらえたのは僥倖だった。
ここならば、人族に追われることはないだろう。
これからは、のんびりと過ごすとしよう。
とりあえずは、消耗した体力を回復するために、サイクロプスを食べることにするか。
カラミティはサイクロプスの住処へ向かって、体を大きくしながら歩き出した。
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