第30話

 リリィたちがコボルトを従魔にして、戦力を増やしている中、カラミティは魔の森を悠然と歩いていた。

 この時のカラミティは、巨大な姿ではなく、6mくらいの大きさであった。

 森の中を歩いているが、無意味に歩いているわけではなかった。

 カラミティは近くに魔物の気配を感じ取っており、そこに向かって歩いていた。


 歩いてしばらくすると、お目当ての魔物を見つけることができた。

 見つけたのは、頭と前足が鳥、胴体と後ろ足がライオン、そして、背中に翼をつけているグリフォンと呼ばれる魔物であった。

 グリフォンは脅威度Aランクと言われており、何より厄介なのは空を飛べる、ということだ。

 グリフォンは、カラミティに気づくとすぐさま地を蹴り、上空へと飛び立つ。

 それに対抗するべく、カラミティは体を大きくし、威嚇する。

 グリフォンは上空を旋回して様子を伺い、カラミティはグリフォンが降りてくる瞬間を待っていた。

 しばらくその状態が続くが、グリフォンはなかなか降りてくる気配を見せない。

 そのことにイラついたのか、カラミティはすぐ近くに生えていた木に噛みつき、引っこ抜くとグリフォン目掛けて投げつける。

 しかし、そんな見え見えの攻撃など、意に介さないとばかりにあっさりと躱してしまう。

 それをみたカラミティは、この方法はダメだと悟ると、体を小さくした。

 そのことに疑問に思ったグリフォンは、上空に留まり様子を見ていた。

 体を小さくしたカラミティは、上空にとどまっているグリフォンに近い木を見つけると、一気に駆け上がりグリフォン目掛けて飛びかかる。


 それを見たグリフォンは、ここまで届かないと予想し、落ちたところを狙って襲いかかろうと、体勢を整えていた。

 飛びかかったカラミティは、グリフォンが予想した通り、失速して届かなかった。

 だが、ここで予想外の出来事が起きる。

 失速してあとは落ちるのみ、と思い降下しようとしていたグリフォンは、急に暗くなったことに気づく。

 途端、胴体に衝撃が走る。


 なんだ?なにが起きた!?


 グリフォンは慌てて前足を動かす。

 本来ならば、空中にいるためなにも当たらないはずだったが、柔らかい何かに触れた。


 なんだ?と思っているうちに、光が差し込む。

 それで見えたものは、白く鋭く尖ったものがいくつも並んでいることと赤い壁だった。

 それが視界に入った瞬間、口の中だとグリフォンは理解した。

 と同時に、再び体に衝撃が走り、意識は暗闇に落ちた。


 時は少し戻る。

 カラミティは、グリフォンに飛びかかったのはいいが、失速して届かなかった。

 その距離、十数m。

 だが、失速した瞬間、カラミティは体を瞬時に大きくし、その距離をゼロにしてグリフォンに噛み付いた。

 グリフォンは、カラミティが小さくなったことを見ていたのに、大きくなれると思い至らなかったことが、命を落とす結果になった。

 カラミティは、落下しながらグリフォンを数度咀嚼して飲み込み、地面に着地するときには、また体を小さくしていた。


 Aランクであるグリフォンをあっさりと倒したカラミティであるが、すぐさま次の獲物を探して動き出す。

 その様子には余裕を感じられない。

 それどころか、焦りのようなものを感じ取れる。

 しかし、それはおかしい。

 Aランクであるグリフォンをあっさりと倒したことから、カラミティはこの魔の森の頂点か、それに近いはず。

 なのに、カラミティが焦りを感じているとすれば、この魔の森にはカラミティよりも強い魔物がいるということになる。

 今のカラミティの強さをAランクの中位だとすれば、その魔物はAランクの上位かSランクということになる。

 Aランク上位ならば、Aランク下位の魔物を狩っていればそう遠くないうちに、カラミティも追いつくことができるだろう。

 だが、Sランクだとすれば、追いつくには相当の時間がかかるだろう。

 いや、そもそもSランクにたどり着けるかも怪しい。

 もしかしたら、カラミティ自身がそのことに気づいていて、それで焦っているのかもしれない。


 至れるかもわからない強さを持った敵がいる。

 その差を少しでも縮めるために、魔物を手当たり次第狩り魔石を取り込む必要がある。

 だが、力をつける前にそいつに襲われるかもしれない。

 だとすれば、その時のことを考えて対抗手段を見つけなければ。


 カラミティは、そう考えた。

 今のカラミティができることは、体の大きさをある程度自由に変えられることだ。

 他にもいくつかあるが、どれも効果があるとは思えなかった。


 ならば、罠を張る?

 いや無理だろう。

 そもそもそんな小細工が効くような相手ではない。

 やるならば、有効打を与えるようなものだ。


 カラミティはしばらく考えていたが、これだと思えるものを思いつくことはできなかった。


 仕方ない。

 しばらくは、狩りをして力をつけることに専念しよう。

 もしかしたら、それで何か思い至るかもしれない。


 カラミティはそう考えて、近くにいい獲物がいないか探し始める。

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