Sランク〜天災級〜へと至ったトカゲ

時雨

第1話

 草陰からガサゴソと物音がする。

 そこからひょこっと顔を出したのは小さなトカゲの頭。

 トカゲは左右を見渡し、何もないことが分かるとゆっくりと進んでいく。

 トカゲは進みながら辺りを見渡している。

 それは獲物になるものを探しているのだが、どうやら見つからないようだ。

 しかし、諦めることなくトカゲは進んでいくと、前方に何か見えた。

 見えたものは10cmくらいの大きさのある、丸い水色のゼリーのようなもの。

 それは、所謂いわゆるスライムという魔物だ。

 スライムは、魔物の中でも最弱といってもいいほど弱い魔物だが、全長——尻尾を含めても——20cmを少し超えたくらいしかないトカゲからしてみれば、スライムは巨大な生き物だ。

 スライムを捕食しようと噛み付こうとしても、逆に捕らわれ餌食となるのが目に見えている。

 だからか、トカゲはUターンし、その場から離れる。

 スライムも、トカゲには興味がなかったのか、追うことはしてこなかった。



 トカゲは、スライムから離れたはいいが、獲物となるものが見つからない。

 時間が経ち、夕暮れに染まり始め、このまま食事にありつけないのかと諦めかけていた時、前方にキラリと光る物が目に入る。

 トカゲは、その光っているものに近づいていく。

 そこにあったのは、1cmほどの小さな魔石だった。

 魔石とは、魔物の魔力が体内で結晶化したものだ。

 魔石の大きさは、魔物によって異なり、強い魔物ほど大きく鮮やかな魔石となる。

 しかし、ここにあるのは1cmほどで薄い青い色をした小さな魔石だ。

 この大きさとなると、最弱と呼ばれるスライムの魔石だろう。

 おそらくなんらかの理由で力尽きたスライムがいて、魔石だけが残ったと思われる。

 トカゲは、その魔石をじっと見つめると、何を考えたのか口を開けパクッと咥えると、そのままゴクリと飲み込んでしまった。

 魔石とは、先ほど述べたように、魔物の魔力の塊で、魔物以外が口にすれば毒でしかない。

 そんなものを食べてただで済むはずがなく、しばらくするとトカゲは倒れてしまい全身が震え始めた。

 どうやら、先ほど口にした魔石が溶け出し、トカゲの体を侵し始めたようだ。

 このまま放っておけば、そう経たないうちにトカゲは命を落とす事になるだろう。

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 トカゲは、口を開け舌がダランと垂れ下がり、時折ビクビクと痙攣していたのだが、それがなくなる。

 命を落としたかのように見えたのだが、しばらくすると、トカゲは目を開き、開いていた口を閉じて立ち上がる。

 トカゲは立ち上がると、フラフラとしていたが、足を前に出し歩き始める。

 どこへ向かうのかと思ったのだが、近くにあった石と石の隙間に入り込むと、目を閉じ眠り始めた。

 トカゲはそのまま目を開けることなく深い眠りに落ちていたのだが、体に大きな変化があった。

 10cmほどしかなかった体が一回り、いや、二回りほど大きくなっていた。

 おそらくだが、トカゲが取り込んだスライムの魔石が、成長を促し二回りも大きくなったのだろう。



 トカゲが寝込んでから、数日経つとようやく目を開けた。

 体が大きくなったトカゲは、石の隙間にピッタリとはまり込んでしまったのか、足を動かすもののなかなか抜け出すことができなかったが、懸命な足掻きによってどうにか抜け出すことができた。

 今まで石の隙間にいたため分からなかったトカゲの体の大きさは、石から抜け出したことにより鮮明となり30cmは超える大きさとなっていた。

 多分だが、ここら一帯では——トカゲとしてはだが——一番の大きさとなっただろう。

 石から抜け出したトカゲは、体が大きくなったことなど全く気にもせず、歩き始める。

 どうやら、お腹が空き獲物を探し始めたようだ。

 獲物を探し始めてしばらくすると、前の時と違い簡単に見つけることができた。

 見つけた獲物は、小さなアリだ。

 トカゲは、見つけたアリへと近寄りパクリと食べてしまう。

 しかし、1匹だけでは物足りないのか、近くにいた他のアリたちも次々に咥えては飲み込んでいく。

 そして、近くにいたアリを全て平らげると、また歩き始める。



 しばらく歩くと、今度はスライムが現れる。

 このスライムは、以前見たスライムより小さい、とトカゲは思った。

 実際は、以前見たスライムとあまり大きさは変わらず、ほんの僅かに——1mmか2mm程度——小さいくらいなのだが、それなのに小さく見えたのは、トカゲが大きくなったためなのだが、そのことに気づいていない。

 トカゲは、しばらくじっとスライムを見つめていたかと思うと、いきなり走り出しスライムに噛み付く。

 以前のトカゲならば、スライムに噛み付いても、僅かに噛み跡を残すことができたかどうか、という程度だっただろう。

 だが、体が大きくなった今ならば、その程度では済まない。

 トカゲは、スライムに噛み付くと、ブチッという音とともにスライムの体の一部を噛み千切った。

 流石にこれにはたまらなかったのか、スライムは飛び跳ねてトカゲから距離を取る。

 一方のトカゲはというと、噛みちぎったスライムの体を飲み込み、再びスライムめがけて走り出す。

 スライムは、そんなトカゲを見て慌てて逃げ出したが、トカゲの方が速い。

 二者の距離はどんどん縮まり、ある程度まで縮まるとトカゲは跳んでスライムに噛み付くことに成功する。

 そうなれば、トカゲはまた、スライムの体を噛みちぎり飲み込む。

 スライムは、食われた分の体積を減らし、体が小さくなってしまった。

 その影響か、先程よりも動きが鈍り、移動速度が遅くなる。

 そうなると、トカゲはスライムを追いかけるのが容易となり、簡単に追いつき食らっていく。

 そして、スライムの体を半分近く食べるとトカゲは満足したのか、逃げるスライムを追わず、別の場所へと向かった。

 向かった先は、木の根元にある隙間だ。

 木の隙間は直径で50cm程はあり、トカゲが入っても余裕があった。

 トカゲは、木の根元の隙間に入り込むと目を閉じて、深い眠りに落ちていった。

 眠りについたトカゲは気づかなかったが、また、体が大きくなっていく。

 以前と比べると、体の成長は僅かばかりではあるが、それでも1cm近く大きくなる。

 体の成長が僅かだったのは、魔力の塊であった魔石ではなく、体の方を食べたためだろうか?

 それとも、他の理由があったのためだろうか?

 理由ははっきりとはわからないが、僅かばかりではあるが体が大きくなったことは間違いない。

 それと、以前と比べて違いがもう一つある。

 以前は数日も寝込んでいたのだが、今回はまる1日と経たずにトカゲが目を覚ましたことだ。

 目覚めたトカゲは、また腹を満たすために木の根元の隙間から這い出し、獲物を探し出す。

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