黒の中

赤紫塔から帰るベニトアイトを見る。

目さえ合わないのにこちらを見つめている。


「滑稽だ」


ぽそりと呟くと窓から離れふわふわとした椅子にゆったりと座る。


その黒い長い髪を先ほどとは違う狐の小姓が綺麗に結う。

キラキラと光るまつげにチラチラと見える赤い瞳

花魁の様な肩を出す美しい着物

艶やかさたっぷりで綺麗な紅を差す。


「姫様、お結ひ上げました。」

「ありがとう。下がっていいわ」


綺麗に整えられた髪を人撫でし小姓を下がらせる。

深々を頭を下げ部屋から出た姿を目で追った後、

空を見上げる。


「リアマ、こちらへ。」


空を見つめたままの姫の元に駆け寄るリアマと呼ばれた大きな狼。


「ダリア、どうした」


真っ黒な毛並みの狼が姫の近くで寄り添う様に座る。


「次はそろそろ戦になりそうでな。その時は先陣を切ることになろう」


姫の名はダリア・レッドベリル。

美しい毛並みの狼を撫でながら言う。


「さっきのやつか?俺が喉を噛み切ってやるから安心しろ。ダリアは戦場に出る必要はない」


平気だと言わんばかりにリアマはダリルの頬に顔を擦り付ける。

リアマに微笑みながらも

ダリルは空を見る。


「リアマ、戦火ではわらわの命に従えるか?」


その発言にリアマは当たり前だと言わんばかりの顔をし


「俺がダリアの命を背いた事あったか?」


と得意げに答えた。





夜は更け

街も眠る朝が来る。


それから何度目の朝だろうか。


日が昇るにつれて

夜の蝶は羽を休め

赤紫城の小姓たちは慌ただしく食事や夜の準備を行う。


いつもは静かな昼の街も

今日は賑わい立ち話に花を咲かす。

着物屋が帯や布を店先で売れば

いつのまにか完売をする。


新しい着物

新しい帯

新しい化粧

新しい髪飾り


蝶たちも蝶を着飾るものたちも

今夜の姫の登場のために、準備を整えるのだった。

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