第27話 ルーシアへの扉

「一人増えたけど良いのかな? 止めて貰えるのか?」

「分からないけど、きっと大丈夫なのよ」

出た。


みのりの根拠無き自信。

『根拠無き自信』は確かに大切だが、危険でもある。

車に例えるなら、それはエンジンだ。


だが、車はエンジンだけでは成り立たない。

それでは唯の暴走だ。

直ぐに事故を起こしてしまう。


安全運転をするにはブレーキが必要だ。

アクセルが『根拠無き自信』なら、同時にブレーキは『一歩引いて見る姿勢』だろう。

この二つがあって初めて安全運転が出来るというものだ。



それは、RPGのゲームでも言えることだ。

モンスターに一人で突っ走ってしまう野郎はギルドにとって『毒』でしかない。

そんなギルドは直ぐに全滅する。


まぁ、ブレーキ役の奴がいれば別の話だが。

それよりは、一人一人がアクセルとブレーキを持っている奴がいた方が生存率は高くなるだろう。


自信しかない奴。

それは罪だ。

怠慢だ。

『傲慢』という名の大罪なのだ。


我々は、情熱と冷静さを常に持ち合わせていないと生きていけないということだ。


ふぅ、と溜め息を吐く。

「まぁ、取り敢えず行ってみよう。駄目なら駄目でそこら辺の山や道ばたに放り込んでおけばいいだろ。どうせみのりだしそうそう簡単にはやられないだろ」


「ちょっ・・・・それ酷くない? 私だって一応女だし! 乙女だし! そ、そりゃ、そこいらの男共には負けないけどさ。でも、私がどんなに強かったって、女の子に向かってその言い方はあまりにも酷いと思うな」


「そうなのよ。あおいにい。謝るのよ」


「ご、御免なさい」

なんで自分が謝ることになってしまったのかも分からずに、いつの間にか謝ってしまっていた。

なんで俺が謝ることになってんだよ。

可笑しいだろ。


そう思いつつも、刃向かったらまた面倒な事が起こると思ったので何も言わなかった。

宿(というよりは喫茶店)入る。


外から見たら灯りも付いていたし、いかにも酔っ払いですよという感じの人達の声も中から聞こえて来た。

看板を見ると、この店は朝と昼は喫茶店と酒場の中間のような事をやっているらしく、夜になると本格的に酒場と化すらしい。


カランカラン


お店の中に入ると、マスターとその妻、そして、娘が忙しそうに働いていた。

この人達はいつ寝ているのだろうと不思議に思う。


この世界にNPCが存在するという事なのか?


「おお。お帰り」

店長はニコリと微笑んでくれた。

棒読みだけど。


「あ! お帰りなさい。葵さん。ミリルさん」

「お帰りなさい。遅かったですね。あれ? その可愛らしい方は?」

マスターの嫁さんがミリルに気が付いた。


どう言おうかな。

ここは、正直に言うしか無いかな。

「あの、仲間が出来てしまいまして、この子も泊めて頂くことは出来ませんか?」

心臓がバクバクと鳴る。


「う~ん。そうですね。あなた、どうします?」

「別に良いんじゃないか? 今の所、部屋はこの子達しか使っていないんだし、有り余っているんだから。適当な所を使えば良い」

「あ、有難う御座います」

思ったよりあっさりと受け入れられて少し困惑した。


でも、宿主が良いと言っているのだから大丈夫なのだろう。

「それじゃ、ミリル案内するよ」

「え、でもここ酒場じゃ・・・・・・」

「ここは酒場でもあるけど、宿屋でもあるんだよ。取り敢えず付いてきて」

俺とみのりはミリルを部屋まで案内する。


「それじゃ、俺の部屋の隣で良いか?」

「うん。良いよ」

みのりはあっさり承諾した。


部屋に入ってみると、俺の部屋の作りとあまり変わっていなかった。


「ここがミリルの部屋だ。自由に使ってくれ」

「結構、部屋綺麗ね。思ったより掃除されてる」

「それじゃ、俺は自分の部屋に戻るから、何か分からない事があったら教えてくれ」

「うん。分かった。ありがとう葵くん」

俺は自分の部屋に戻った。


扉を開けたら、何かが可笑しいと思った。

部屋が歪んで見えるのだ。


「な、何だよこれーー」 

試しに手をその『歪み』に入れてみる。


すると、その『歪み』があるところから腕が消えたのだ。

「うわっ、な、何だこれ?」

腕を引っ張ってみると、簡単にその『歪み』から抜く事が出来た。


行くか。

特に、腕が傷付けられたわけでも無い。

行ってみる価値はあるはずだ。


ゆっくりと足を前に踏み出す。

俺の体は、その『歪み』に吸い込まれていった。


『歪み』の先には俺の部屋は無かった。

そこには、別世界が広がっていた。


深い霧に包まれ、周りにはモンスターと言うべきなのか、怪物と言うべきなのか良く分からないが、映画などでよく見る『宇宙人』の格好をしている人が沢山いた。

空には巨大なムカデに羽が生えたような怪獣が飛び回っている。

「こ、ここってまさか・・・・・・」

そのまさかかも知れない。


眠かった目が一気に覚める。深い霧。

異人の人々。

見たことも無い変わった街並み。


一言で言うと、異界。

そこは、異世界では無く異界だった。


家も見たこと無い素材で作られている。

家が動くのだ。

目もちゃんとあって、口もある。


もう、何が何だか分からなくなってきた。

「う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

逃げた。


異界すぎる。

別格だ。


他の街とは別格すぎる。

分からない。


何もかも。

街も、人も理解出来なくて、頭の整理が追いつかなくて、恐怖だけが刻み込まれる。


気付くと、俺は自分の部屋の前にある廊下で膝を付いていた。

「あ、あおいにいどうしたの?」

俺の悲鳴を聞いて心配して来たミリルとみのりが飛んで来た。


「見つけたんだ。ルーシアを」

「え、ど、どこにそんなものがあるのよ・・・・・」


「そこだよ」

俺は、『歪み』がある場所を指差した。


「これって、おじいさんが言っていた<ゲート>ってやつ?」

「多分な」

「あおいにい、入ったの?」


「入った。あそこはたしかに他の街とは違う。俺たちの知っている世界とは全く違う。別世界だ」

「具体的にはどんな場所だったの?」

「言えない」

恐ろしくて。


訳が分からなすぎて言えない。

まだ体が震えている。


「なんでなの?」

「それほどあそこは異質だからだ。別世界だ。入ったら、戻れなくなる」

「でも、あおいにいは戻ってきてる」

「俺は、数分しか行ってないから」


あそこに行ったら体が ごとあの世界に吸い込まれる。

決して、あそこには行ってはいけない。

行ったら戻れなくなる。

おじいさんの言うことは正しかった。


「ダメなのよ」

「みのり・・・・・・」

「折角、ここまで来たというのに、こんな所で諦めたらダメなのよあおいにい!」

「そうだよ! そこが例え地獄でも行くべきだよ! 私との約束を忘れたとは言わせないわよ!」

「ミリル・・・・・・」


「行こうよ。葵くん。私達もいるんだよ? 一人じゃ無いんだよ。大丈夫。三人で力を合わせれば行けるよ。それに、他の2人も見つけれてないでしょ? ここで諦めたら一生見つけられないよ。だから、行こうよ」

そうだ。


こいつはいつも俺の足を引っ張ってくれる。

一歩踏み出す勇気を与えてくれる。

「ありがとう。二人とも。俺が間違っていた」

二人は、ニコリと微笑んだ。


全く、この二人は相性が良いのか悪いのか分からないな。


「それじゃ、支度をしよう。お金と、必需品だけは持って行けるようにしよう。準備が整ったら早速行くぞ」

「ラジャ」


二人は、わざとらしく敬礼をすると、自分たちの部屋に戻って行った。

対して、俺はというと、自分の部屋に入ることが出来ないので廊下に一人ポツンと体操座りをして寂しく座る事しか出来なかった。


それから10分くらい経過した。


「あおいくん、お待たせ!」

「待たせたのよ。あおいにい」


みのりは、水色でフリフリのワンピースを着ている。

正直、可愛い。


ミリルも踊り子のように、おへそを出してセクシーな格好をしている。

ちなみに、ブラジャーは情熱を表す派手な赤色だ。血のように真っ赤な赤色だ。


スカートと彼女の細い腰に付けているベルトもオレンジと赤を主にした装飾が施されていた。

彼女の性格にもよく似合うなと思う。


「それじゃ、行くぞ」

「うん。良いよ」

「ちょっと、ワクワクするのよ」


そうして、俺たち3人は『歪み』の中に入って行った。

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