ここから、二度目の私が始まった。




 勉強はそんなに得意じゃない。だから、前回と同様に二度目もそうだと思っていた。でも、さすがに小学生なら勉強しなくてもだいたいわかるよね。

 まあ、ほぼ全員が満点なんだけどね……。


 少女漫画やテレビドラマみたいな素敵な恋愛への憧れが、あった。私もいつかはあんな恋愛をするんだって思ってた。


 幼なじみの男の子が意外といけてることに気がついて、ドキドキしたりなんかして、イラストとポエムが満載の黒歴史な絵日記も書いた。

 でもさ、冷静に考えたら鈍い私がカッコいいとか思うんだから、他の子だってそりゃ気が付くよね。

 しかも、私にはもう一人幼なじみがいる。可愛いあずさちゃん。華奢で色白でロングな黒髪ストレートで、いかにも女の子って感じの子。



 私が勢いでうっかり幼なじみに告白なんかしたら、翌日にはクラス中に広まってて、幼なじみが仲の良い友達相手に「嫌いじゃないけど、あんなブスの彼女は嫌だ」とか言ってるのを立ち聞きしちゃってさ。

 そっか、私はブスなんだって気がついた。

 それだけでも酷いのに、あいつは梓ちゃんとくっついた。相思相愛なんだって。幼なじみは三人だ。告白した次の日からは、帰り道で私だけおいてけぼりにされるようになった。



 ここから、私の二度目が始まった。

 どうせなら告白の前に戻れたら良かったのに、神様は意地悪だ。



 前を歩く二人は楽しそうで、邪魔する気なんてないのに、通学路は一本道だから二人が立ち止まると私も立ち止まることになるんだ。

 二人を追い越して帰れたら良いけど、私にはできなかった。


 そしたら、学校であいつに呼び出されてね。私にしてみれば実らなかったとはいえ初恋の相手だったから、ちょっぴり嬉しかったんだよ。

 でも、当然あいつの用事は私にとって嬉しいものなんかじゃなくて、それどころか私が他人に対して臆病になる原因の一つになった。


「嫌がらせとかやめろよ。梓が怖がってんだろ」


 これだ。

 一度目は不意打ちすぎて、心が砕け散ってしまいそうだった。

 初めての恋がどこか遠くなって、まるで他人事みたいに聞こえたのを覚えている。

 二度目の今は……心の準備ができているけれど、やっぱり辛いんだ。


「嫌がらせだなんて……」

「梓が睨まれて怖いってんだよ」


 した、してないっていうやり取りを何度も繰り返して、そのうち悲しくなってきた私は二度目でもやっぱりボロボロ泣けた。大泣きだ。

 あこがれでも何でも、好きなのは本当だったからね。


「な、泣くとか卑怯だろっ」

「う、ひ、無理……」


 胸の辺りがぎゅうってなって、苦しかった。

 中身はもういい年した大人なのに、二度目なのに、こんなに辛いのはなんでだろう。


「ブスで、ごめん……」


「えっ!」


「嫌いじゃなくて、ありがとう」


 言ってから気が付いた。

 そうだ、私はこれを言いたかったんだって。

 二度目でも何でも、辛いものは辛い。でも、これなら一度目よりは悪くない。そう思う込むことにしたんだ。

 



 家へ逃げ帰った私は、ベッドに潜り込んでまた泣いた。

 二度目でもこんなに辛いのに、まだ30歳にはならない。終わらない。

 でも、自分で終わる勇気もない。

 手首を切る? 屋上から飛び降りる?

 いやいやいや、そんなの無理だよ。できない。てか、したくない。


 小学生だったあの頃、私はいつも幼なじみの三人で遊んでいた。だから、除け者にされると私は途端に一人でいるしかなかった。実は友達がいないんだって気が付いたのもこの時だったな。


 今回も順当に一人ぼっちになった私は、朝は早起きをして登校して、放課後は教室に一人で居残りをして、勉強して帰るようになった。

 さすがに小学生の教科書じゃなくて、貯めたお小遣いでこっそりそれっぽいテキストを買った……。


 そうやって、二度目の小学生生活は前の私よりも少しだけ賢くなって終わったんだ。



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