タイムマシンで私は夢を見る

冴木シロ

第1話「落下」

 私、メル・アイヴィーは今、とある球体のマシンと共に空中を飛んでいた。というより、空中に放り出されていた。

 実はこのマシン、タイムマシンで私はこのマシンを使って百年後に向かっている最中だった。しかしそのマシンも今や黒煙を上げて小爆発を起こしている。

 地上には近くに海が存在している小さな村が広がっているが、そこに緑は存在せず、なぜか一面灰色に染まっていた。

 しかしそうこうしているうちに地面まではすぐそこにまで迫っていた。


「……っ! ……っ!?」


 恐怖からか、叫ぼうにも声が出ない。私はただ、声にならない声で絶叫していた。

 ……もうダメっ!

 私は咄嗟に目をつぶった。

 そして地面へ打ち付けられるのを想像していた次の瞬間、身体は柔らかい何かに受け止められた。


「……えっ?」


 予想していなかった感触に思わず声が漏れた。

 助かったのだろうか? 私は体を起こそうとしたがうまく身体に力が入らない。それに意識も遠くなってきた。

 徐々に目がゆっくりと閉じていく。


「……いっ!……か……るぞ!」


 薄れてく意識の中で、微かに声を聞いた。

しかしその声の主を見る前に私は意識を手放してしまった。


*      *     *


「……るは……ぶかな」


 また誰かの声が聞こえる。あれからどうなったんだろう?


「うぅ……ここは?」


 ゆっくりと目を開け、身体を起こす。身体には深緑色のモッズコートが毛布代わりに掛けられている。

青を基調としたテントの中に私はいた。

 そのとき、不意にテントの外から女性の声が聞こえてきた。


「私が見守ってるから、みんなは作業に入っていいよ」


 モッズコートを身にまとい、ゆっくりとテントの扉を開けると、私の前で長い銀髪のポニーテールが揺れた。


「あぁ、気が付いたみたいだね? 意識ははっきりしてる?」


 そこにはモッズコートを着た女性が小さな椅子に座りながら、焚火に当たっていた。


「……は、はい、大丈夫です。あの……あなたは?」

「メアだよ、「さん」とかは付けずに気軽にメアって呼んで。君は?」

「……メル。メル・アイヴィーです……」

「メルね。よろしく!」


 メアは優しく微笑み、握手を求めてきた。

 恐る恐る手を出すと、メアから掴んできた。焚火に当たっていたからというのもあるかもしれないが、彼女の手はとても暖かった。

 するとメアは私の手を掴んだまま椅子から立ちがった。


「君の無事をみんなにも教えてあげないとね」


 そう言うと私を引っ張って、メアはキャンプを後にした。


     *     *     *


 引っ張られながら歩いているが、私の視界にはずっと大量のガラクタやごみで溢れていた。落ちてきたときに見えていた灰色の正体はこれらしい。

 ビニールで覆われたごみ袋や、壊れた車など、もう使われないものが、いくつもの山を作っていた。生ごみもあるのか、かなり臭い。


「メルも運がいいよね。落ちた場所が柔らかいごみ袋の上で。尖ったガラクタの上

だったら生きてたかどうか……」


 どおりで無傷だったのか……しかし同時に串刺しになってしまう図を想像してしまった私は思わず恐怖で身体を震わせた。


「ごめんごめん、怖がらせちゃったね」

「だ、大丈夫……それにしてもメアはこんなガラクタだらけの場所で何をやってるの?」

「私たちはガラクタを撤去してるんだ。まぁ、ボランティアみたいなものって言えば分かりやすいかな? さて、そろそろ着くよ」


 メアが前方を指さした。すると上空で何かが飛んでいるのを見つけた。


「あれは……飛行機?」


 白を基調としていて、先端には小さなプロペラらしきものも確認できた。

 それをぼんやりと眺めていると、急にガラクタの山から男性が顔を出した。


「お、メア! その子気が付いたのか! よかったよかった!」


 黒髪の男性は私を見ると歯が見えるほど笑っていた。


「メルっていうんだ。仲良くしてあげて」

「俺はカイだ、よろしくな、メルちゃん」

「えっと、よろしく……」


 悪い人ではないんだろうけど、あまりにもグイグイ来るものだから反応に困ってしまう。

 するとカイの大きい声が聞こえたのか、他にもメアやカイと同じようにモッズコートを着た人が二、三人やってきた。

しかし集中する視線に恥ずかしくなって、私は視線を下に落とした。

 それを察してくれたのか、メアが困ったように頬を掻いた。


「あー、メルは恥ずかしがり屋だからそんなに見ないであげて……そういえばレナードの姿が見えないけど?」

「僕ならここにいるよ……ただそっちに行くのが面倒だった」


 静かに姿を現したのは茶髪の男性だった。寝ぐせだらけで片方の目は前髪で隠れている。


「そういえばレナードも恥ずかしがり屋だったね」

「恥ずかしがり屋じゃない、慣れてない人と話すのが苦手なだけだ」

「それを恥ずかしがり屋っていうんだよ」


 こめかみに手を添えながらメアは呆れのため息を吐いた。

 そのとき、私はふとレナードが持っていたラジコンのコントローラーのようなものが目に入った。


「そのコントローラーってあの飛行機のやつなの……?」


 いきなり話しかけられたレナードは最初、すごく嫌そうな表情を見せたが、すぐに口を開いた。


「あぁ。ちなみに自動操縦できるから、わざわざ操作しなくても勝手に動いてくれる……一応これで君と一緒に落ちてきた機械の場所も確認できたよ」

「えっ!……そ、その機械はどこにあるの?」

「すぐそこにあるよ」


 レナードは親指で自分の背後を指さすと同時に私は駆け出していた。

 そしてマシンのもとまで着いたとき、マシンの変わり果てた姿を目の当たりにした。

 もはや球体を留めておらず、あちこちデコボコだらけだ。さらに小爆発により穴もいくつもの穴があって、とてもじゃないが起動できる状態ではなかった。


「……これがないと飛ぶことができないのに……どうしよう」


 呟きながら私は、受け入れがたい現実に膝をついた。

 すると肩に手が乗せられた。振り返って見上げると、そこにはメアがいた。


「困ってるなら私たちが何とかしてあげるよ!」

「で、でも、こんなに壊れてるんだよ? 直すなんて……」


 無理だと言おうとしたが、その前にメアが人差し指を立てて、自慢げにチッチッと指を左右に振った。


「それができるんだよ。ねっ、レナード?」


 レナードを見ると、彼はこっちを見ずにマシンを眺めたまま口を開く。


「まぁ、直せなくはないな……」

「……ほ、ほんと? 直せるの?」

「あぁ……でもそれなりに時間がかかる」

「そこで! メルには一つお願いがあるの」


 今度は指を立てて、私の目の前に持ってくる。


「マシンが直るまでの間、私たちと一緒にボランティアを手伝ってくれないかな?」

「そりゃあいいな! 俺はもちろん大歓迎だぜ!」


 私は一度、メアたちの顔を見まわす。

 また飛べるようになるにはマシンを直してもらうことしかない。

 不安もあったけど、私はメアたちが悪い人に見えなかった。

 私はメアに頷いた。


「……一緒にボランティアするよ。助けてくれたし、それの恩返しも兼ねて頑張るよ」

「よーしっ! じゃあマシンが直るまで一緒に頑張ろうね!」


 メアは私に優しく微笑んだ。

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