文句なしで面白い。

異世界転生してきた勇者たち――に、虐げられる魔族たち。

この物語は、魔族たちの国がチート勇者の魔の手によって侵略を受けているという世界観となっております。魔族たちは、圧倒的な力を持った勇者たちの手により、殺戮されたり、あるいは虐げられたりしております。

なすすべもなく逃げ惑い、絶望のどん底にいる魔族たち。そんな彼らの前に現れたのは、何の力も持たない一人の少年と――ナチス・ドイツのティガー戦車でした。

痛快な物語に必要なものは、胸糞悪い悪役であると思います。この物語に出てくる勇者たちは、実に素晴らしいほどに胸糞悪いです。魔族を悪だと決めつけ、独りよがりな正義感に酔っており、エロゲーのヒロインみたいな美少女たち(なぜか目は虚ろ)を囲ってハーレムを築いております。そして、何の罪もない魔族たちに対して悪逆非道の限りを尽くしているのです。

そんな勇者たちに対し、主人公とティガー戦車が正義の砲身を向けます。

しかし、ただの勧善懲悪でないところもまたこの物語の醍醐味です。

ティガー戦車を作ったのは、かのナチス・ドイツです。

日本のアイドルがナチスの軍服を着て騒動になった・漫画に出てきたハーケンクロイツが規制された――などという問題は多くの人が知る通りでしょう。ティガー戦車を始めとするナチスの兵器にも、似たような問題は常につきまとっています。

では、異世界で虐げられている人々をナチスの兵器が救うという本作にも、何かしらの倫理的問題が発生するのではないか――という疑念が発生してきます。

実を言うと、この物語の大きな魅力はそこに隠されているのです。いや、全面的に押し出される魅力ではなく、あくまでも物語のスパイスとしての魅力ではありますが――しかし、私はまさにこの点を推したいのです。

それは、虐げられる者の視線と、虐げる者の視線です。

この物語には、特に虐げられる者の視点が丁寧に書かれています。圧倒的な力を持つ者に侵略された・酷いいじめを受けた――。そんな彼らが、虐げる者たちを見返す物語は、痛快であり、感動的ではありましょう。実際、私はこの物語を読んでいる最中、お世辞抜きで目頭が熱くなってきました。

しかし、被害者は汚い心など持たない存在なのでしょうか? 疚しいことなど心に一切抱えていない天使のような存在なのでしょうか?

また、加害者たちの心は?

それを描くことこそ、「人間」を描くことなのだと私は考えます。

だからこそ、この物語は目頭が熱くなるのです。

弾薬が尽き、燃料が尽きても、狂ったように続けられたユダヤ人への虐殺。本当は弱い者たちのために戦いたかった、救いたかったと強く願うティガー戦車が、絶滅収容所へ送られるユダヤ人達の姿を見たとき、奇跡は起きました。

まだ物語は始まったばかりだと思われますし、ここには書き切れないことも多いのですが、とにかく褒めるべき点の多い作品です。ゆえに、この時点でも☆三つです! もっと知られるべき作品です! 是非ともみなさん読んでくださいね!

(7話を読了したあとのレビュー)

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