第10話 貧乳剣士と烈火の騎士1

ヴィレド歴965年

世界は戦争で満ちていた。


始まりは世界一の大帝国アルヴァルドと、多くの国々と繋がりを持つ世界の中心レイヴィニア共和国の対立であった。

もともと国同士が近くにあり、領土を巡る小競り合いが絶えなかったのだが、ある時期を境に争いは激化し、その影響は主変諸国にまで広まった。

序盤、世界一の軍事力を持つアルヴァルドが優勢であったが、同盟諸国からの援助を受けたレイヴィニアが想像以上の抵抗を見せ、戦争は長期化したのである。

またこの戦争にかこつけ、世界の国々は以前から疎ましく思っていた隣国に対し次々と宣戦布告を行い、世界に戦争が広まっていく。

全部で180ヵ国あるうちのほぼ全ての国が戦争に加担し、その影響で人々の心は荒れ、木々は枯れ散り、動物は姿を消していった。

国ではなく、世界そのものが終わりに近づき、人々の心から希望が消えかけた


まさにその時だった。


「世界中の国々よ!これから先は私たち『クライアス』が争いを管理する!」


そう声高々に宣誓する、白装束の集団が世界中の戦場に現れた。

クライアスは人とは思えないほどの圧倒的な力で、次々と争いを収めていった。

彼らの力の前ではどんな武器も力も通用しない。

歯向かうものに対しても決して相手を殺めず、武器や兵器のみ破壊していく。

その圧倒的な力の前に、国々は争う力だけではなく、その気力も奪われ、一度クライアスが現れた地域では二度と争いが起こらなかった。

ついには世界一の激戦、アルヴァルドとレイヴィニアの戦争すら終結させたのである。


そして世界中の争いを終結させたその日、クライアスは世界に向けて宣言した。

「今日この日をもって、この世全ての戦争は我々が管理する!だが勘違いしないでほしい!我々はこの武力で世界を征服したいわけではない!あくまでいたずらに命を奪う無益な戦争をこの世から無くしたいだけだ!」

その言葉の通り、彼らは他国領土の侵略や略奪は一切行わなかった。

クライアスは世界中の国へ分け隔てなく、救援活動を行った。

ある者は自然を操る力を用い、食料を生産して世界中の国に配り、またある者は人を癒す力を用いて、戦場で傷ついた人々を治療していった。

そういった活動によって、徐々に世界中の国同士が協力し合い、国力を回復させ人々や自然は活力を取り戻したのであった。

世界は滅亡の一歩手前で踏みとどまることができたのだ。

だが、そうして余裕ができると欲が出てきてしまうのが人間だ。

いち早く国力を取り戻した大国は着々と次なる争いの準備を始める。

しかし、それすらも見越したクライアスは次なる一手を世界へ放った。


「世界中の皆の協力によって、世界はようやく平和を取り戻した。願うならばこのまま争うことなく、人という種が滅びるまで永遠に健やかな時間を過ごしていきたい・・・だが!それができないのが人間だ。我々が人間である限り何かを求め欲し、争うだろう!我々はそれを否定しない、なぜなら争うことによって人は進化することができるからだ。しかし、そのために多くの命を犠牲にするのは看過できない・・・そこでこの世界の戦争を無秩序な『争い』ではなく、秩序ある『競技』・・・『ウォーゲーム』へと進化させることを我々は提案する!」


これが戦争という名の競技、「ウォーゲーム」が誕生した瞬間であった。


「このウォーゲームでは戦争を行う国同士が同意することで開始され、自ら戦うことを選んだ戦士たちのみ!戦いたくない一般人を争いへと巻き込むことは禁止とする!また、これらの争いは我々クライアスが責任を持って管理し、破るものには制裁を加える!」


この宣言に世界中は沸き立った。

もう無暗に命の危険に脅かされることがなくなったからだ。

中には、これはクライアスによる独裁ではないのか、と騒ぎ立てるものもいたが、その身をもって世界を救ってくれた恩人たちに対してそのような疑念を持つのはどうなのか、という世論に抑えられた。

そして人々は新たに誕生した娯楽であるウォーゲームに夢中になっていく。

人と人がその身を懸けて競い合い、それでいて誰も死ぬことがない争いは、見るものも参加するものも熱中させた。

参加する国が増えるにつれ、ルールはより公平に楽しめるよう設定されていき、武力を持たない国でも他国と渡り合えるよう芸術や音楽による戦争も行われた。


何よりも人々を熱狂させたのは、「国家順位」の存在である。


国家順位とはウォーゲームによる成績や、国力・文化・観光資源など国として持っている総合的な力を測り、それを順位付けしたものだ。

国家順位一位とはつまり、世界の頂点である証、世界中の国々はこの栄光を求め、覇を競い合う、そんな今までとは違う乱世の時代が到来した。


世界中の王がたった一つの王座を狙って争うそんな時代



そしてここ世界順位ランク外の弱小国、「ウィルゲルス王国」にもその王座を狙う一人の王子がいた。


その名は「ショタ・ユーフィ・ウィルゲルス」、自身の野望のためその身を危険に晒してまで戦う若干13歳の小さき王子だ。

弟である第2王子との王位継承戦のため、自らの剣となる騎士を探して森の中を彷徨い、ドクと名乗る貧乳剣士と運命的な出会いをした彼はいま・・・



「はぁ・・・はぁ・・・ねぇ・・・ほんと、先っちょ、先っちょだけでいいからお姉さんに舐めさせてくれない!?ねぇ!お願い!ほんとちょっとだけよ!ショタ君の乳首がどんな味するのか気になってこのままじゃ夜も眠れないわ!ほんと!お願い!」

「だ、誰か・・・助けてええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」


貞操の危機を迎えていた。

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