第8話 ショタ好き変態女との出会い7

「流石に今のは失礼よ~ショタ君!」

ドクは半分笑いながら冗談っぽく怒りを露わにしていた。

だが、ショタは知っている。

さっきの発言の瞬間、戦いのときですら見なかった鬼のような顔をしていたことを。


「で、でもなんで『美乳』剣士なんて呼ばれ方を?」

ショタは殴られた頭をさすりながら、先ほどからどうしても気になっていた質問する。

「うーん、それはたぶんアタシがここら辺にいた山賊をボコボコにしたとき、『て、てめぇみたいなヒョロ男に負けてたまるかぁ!』って言われてカチンときたから、『ふっ・・・よく覚えておくのね・・・あなた達を倒すこの私こと美乳剣士を!』って名乗ったからその時からかな・・・」

「滅茶苦茶心当たりあるじゃないですか・・・なるほど・・・」

ドクが『美乳』剣士と呼ばれるきっかけはわかった。

だが・・・

(どうにも引っかかるなぁ・・・)

ショタの心のもやもやは取れずにいた。

(そんなヒョロ男とか言ってたやつらが、ボコボコにされた相手を褒めるような通り名付けるかなぁ・・・)

そう、普通ボコボコにやられたとすれば「ヒョロガリ女」や「鉄板娘」など相手を侮蔑するようなことを言うはずである。

さらにドクは信じられない情報を追加する。

「いや~あの時は気持ちよかったなぁ・・・倒れる山賊達が次々と『なんて小せぇビニュウだ!』とか『こんなビニュウ初めて見た!』とか褒め称えながら倒れていくんだもん。ついにアタシの時代が来たかって思ったわね、うん」

ドクは自慢減に無い胸を張って自信満々に答えるが、ショタはさらに真実がわからなくなっていた。

先ほどまでの恐怖はどこへやら頭を抱えて考え込む。

「そんなことを・・・?美乳・・・ビニュウ・・・ん?」

しかし、ビニュウという言葉を繰り返していくうちに、ショタは一つの可能性に気づいた。

世間と彼女、認識によるズレの正体。


「もしかして・・・みんなが言ってたビニュウ剣士って『美乳』じゃなくて『微乳』なんじゃ・・・」


「えっ?」


発音上は同じだが、意味は全く異なる。

『美乳』と『微乳』

彼らは決してドクを褒めていたわけではない。

ドクのことを「微妙なオッパイ」または「微粒子並みに小さいオッパイ」もしくは「微々たるオッパイ」と馬鹿にしていたのだ。

「そ、そんな・・・やっと世界が私のおっぱい美しさを理解し始めたと思ったのに・・・」

先ほどとは打って変わって膝をつき、とんでもなく落ち込むドク。

「そうよね・・・この世の中の大多数の男どもは形や美しさ以前に大きさを気にするものね・・・・大きくないオッパイなんてどんなに形が美しくても評価対象にはならないもの・・・」

先ほどまでのハイテンションはどこへやら、尋常ではない元気をなくしている。

(うぐ・・・僕のせいじゃないのに何なんだろうこの罪悪感・・・)

確かにこの件に関しては勝手な勘違いをしたドクが全面的に悪い。

だがショタが開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのも事実である。

話を逸らしてこの場から一刻も早く逃げ出すつもりだったが、ここまで落ち込んだ女性(変態)を置いて逃げるのは流石に気が引ける。

というか、そもそも目的の微乳剣士が目の前にいるのにここから去るわけにもいかない。

「ま、まぁまぁ・・・その・・・世の中の男性みんなが大きい方が好きってわけではないですよ!ほ、ほら!小柄な女性が好きって人もいますし!」

なんとかしてまともに話ができる状態にするため必死でフォローするショタ。

しかし、

「でも・・・そういう人って大体幼い感じの女が好きな、いわゆるロリコン予備軍みたいな人達でしょ・・・?私なんて・・・今年で26だし・・・ロリって感じじゃないし・・・この私のオッパイの美しさを理解してくれる人なんていないのよ・・・」

一度落ちてしまった気分はそう簡単には戻らない。

落ちるとこまで落ちるのみである。

(このまま落ち込まれちゃあ話にならないしなぁ・・・でもまたあんな感じで襲われたら・・・ああもう!仕方ない!)

ここでショタは一つの賭けに出た。

自分の身を危険に晒すリスクもあるが、このままにはしておけない。


「ぼ、僕はドクさんみたいに・・・その・・・お、おっぱいが小さくて大人な感じの女の人は好き・・・だよ?えっと・・・とっても綺麗だと・・・思い・・・ます。」

「ッッッッ!?!?!?」


ショタは顔を真っ赤にさせながらドクのことを褒め称えた。

この言葉には嘘偽りはない、心からショタが思っていることであった。

適当に慰めるとか、とりあえず褒めておくとかそんな打算は一切ない、ショタの思いそのままである。

そしてその言葉を聞いたドクは感動のあまり


大量の鼻血を出しながら白目をむきつつ涙を流した。


「うっわ・・・」

あまりの惨状に流石のショタもドン引く。

一方、ドクは膝を地面に着いたまま両手の平を空へと掲げ、何かを崇めるポーズをとったまま止まったままである。

「え?あれ?嘘・・・もしかして死んで・・・」

見たことのない状況の人間に、一瞬あの世へと逝ってしまったのではないかと心配したが、

「・・・・・・・はっ!・・・危ない・・・あ、あまりの嬉しさにショック死するところだったわ・・・」

なんとか現世に戻ってこれたようであった。

目を見開き天を仰いだままドクは叫ぶ。

「うふふ・・・そうよ・・・たとえ100人以上の成人男性から何と思われようと・・・たった一人のかわいい子に魅力的と思われればそれでいいのよ・・・そう!私の小さいオッパイはこの子のためにあるのよ!フフフフ・・・・アハハハハハハ!」

もはや狂気、

血と涙を流しながら笑うその姿は、まるで悪魔と契約した狂人のようだ。

「・・・ボク・・・もしかしてとんでもないこと・・・言っちゃった?」

ショタのボソッっと言った独り言は、ドクの歓喜の笑い声によってかき消された。



5分後



「さて・・・なんでアタシのことなんて探してたのかな?」

5分間ずっと笑い続け、ようやく落ち着いたドクは何事もなかったかのように話題を切り替える。

だが鼻血によって顔は血まみれ、さらに流し続けた涙のせいで目は真っ赤に充血していた。

ただでさえ血色の悪いドクの顔がもはや生ける屍のように見えてくる。

(僕はこんな化け物じみた人と話さなきゃいけないのか・・・)

ショタは自らの運のなさを呪いつつ、話を本題へ進める。

「ゴホン・・・改めて自己紹介を、僕の名はショタ・ユーフィ・ウィルゲルス・・・この地域一帯を治めるウィルゲルス王国の第一王子です」




まっすぐドクの目を見つつ放ったその一言には、どこか風格のようなものが漂っていた。

そんな重大なカミングアウトに対してドクは

「へぇーそうだったんだー」

あまり驚いた様子ではなかった。

「・・・あれ?」

想定外の反応の薄さに逆に驚くショタ。

「その・・・あんまり驚かれないんですね?」

「んーまぁねー、服装とか立ち振る舞いからどこかの名家出身だとは思ってし、まぁ王子様ってのはちょっと予想外だったけど・・・」

それにしても目の前にいる人間が王子であることがわかれば、もっとリアクションをしていいものである。

だが、そんなふてぶてしさが逆にドクが只者ではないということを表しているようであった。

「まぁアタシが人を判断する上で重要なのは、そいつの年齢が15歳以下かどうかだし・・・別に出自とかはどうでもいいわ」

「・・・そう・・・ですか・・・」

ショタはその一言に安心したような、むしろ不安になったような複雑な気分となった。

「で、そんな王子様が『美乳』剣士なんていう胡散臭い噂を頼りになんでこんな山奥まで?」

もっともな質問である。

仮にも一国の王子であれば、もっと簡単に人探しをできたであろう。

しかも、探す相手が『美乳』剣士という明らかに誰かがふざけ半分で流したような噂話の人間だ。(実在していたが)

とても王子様が伊達や酔狂で山奥に探しに来るような人物ではない。

しかしながら、何より不可解なのは


そんなふざけた存在を、この王子はとてつもなく真剣に探しているということだ。


その瞳から伝わる情熱や信念から、ドクはこの少年がふざけているようには思えなかった。

ショタは一度うつむき、どこかばつの悪そうな顔を一瞬したがすぐにこちらの目を見つめて答える。

「今僕には・・・王国とは関係ない強い戦士が必要なんです!国とは関係ない僕のためだけの戦士が!そのためには国に顔が知られていない強者を探す必要がありました・・・でも世の中でその強さに噂が立つような人物であれば、国がマークしている可能性があります。だから・・・」

「なるほど・・・だから国が見向きもしないような『美乳』剣士なんてチンケな噂を頼ってきたと・・・」

コクリ、とショタが小さくうなずく。

確かにこのようなしょうもない噂ならば、王国もわざわざ調べはしないし、顔が割れてもいないだろう。

「でもそれにしたってリスクが高すぎない?わざわざ君自身が探さなくても、部下に探させるとか・・・」

そう、問題はなぜ王子自らが、誰も知らない戦士を探していたのかという点である。

自国内とはいえ安全というわけではない。

それに加え王国の兵士がショタを探していたのだ。

ショタのこの行動が、明らかに国としての公式な活動ではないことがわかる。

「・・・実はまだ発表されていないのですが、国王である父が倒れたんです・・・幸いまだ命の危機に瀕しているわけではないんですが、今のままではとても王の職務を果たすことはできない状態で・・・。そこで、次の王位継承者を僕と弟のどちらにするのか、国の古くからのしきたりに従った継承戦で決めることになったんです・・・」

「へぇ~そりゃまた大変ねー」

国の一大事を話しているにも関わらず、ドクには一切緊張感というものがなかった。

まるで友達のどうでもいい悩みを聞いているような、そんな適当さだ。

「その継承戦の中には自らの選出した戦士を戦わせる代表戦というものがあるんですが・・・僕の周りの騎士では弟の専属騎士に勝てないんです・・・」

「へー、弟クンの騎士はそんなに強いの?それとも・・・君の騎士が弱すぎるのかな?」

「いえ!僕の専属騎士はこの国1番の実力者です!弟の専属騎士にも負けません!ただ・・・致命的な弱点があって、そこを突かれると絶対勝てないんです・・・」

「致命的な弱点ねぇ・・・」

「とりあえずそれは置いといて・・・他の一般騎士では歯が立ちませんし、何より王宮内ではどこの誰が弟とつながっているかわかりません。何より、王国に仕えてくれている騎士を王位継承の争いに巻き込みたくないんです」

そう言うショタの目からはとても暖かい優しさを感じ取れた。

(はうっ!その顔は反則だよぉ・・・)

そしてドクはそんなショタの顔を見て勝手にうっとりしている。

「仮に町の有名な戦士をスカウトしたとしても、王宮とのつながりがあれば完全に信用することができません・・・だから・・・」

「だから一人で王宮と何のつながりもなさそうな私を探してたってわけね」

彼は王位継承権という、少年には大きすぎる問題にたった一人で立ち向かっていたのだ。

しかも誰も巻き込まないようそのやさしさを胸に秘めて行動し、こんな山奥まで来た。

大人ですら逃げ出してしまうような重責を抱えて。

だが、ドクには一つの疑問があった。

「でも・・・そこまでして王様になりたいの?」

ドクはショタと会ってまだ1日も経っていない。

だが、彼が権力や名声にこだわるような人間ではないことは理解していた。

そんな彼がそこまでして王位継承戦に臨む理由がわからなかったのだ。

この質問に対しショタははっきり目を見て答えた。


「・・・僕には野望があります・・・個人的な自分勝手でわがままな願いが・・・そのためには王様にならなきゃいけないんです!たとえこの身がどうなったとしても!」


(へぇ・・・)

ドクにとってこの答は意外だった。

彼にはそういった欲というものがないように思えたのだ。

だがそうではない、彼にはれっきとした覚悟と意志がある。

意外な一面を見つけ、驚きながらショタを見つめていると、

(・・・あれ?もしかして・・・)

ショタの手がかすかにふるえていることに気づいた。

王族ということは王宮の外に出ることもそうはないであろう。

見たこともない世界でたった一人、いるかどうかもわからない人間を追手に追われながら探し続けていたのだ。

怖くないはずがない、だが彼は恐怖を乗り越える勇気も持っている。

ドクはショタに対して初めてカワイイ以外の感情を持った。

尊敬という感情を。

「・・・ふふっ、君はスゴイね」

そう言って彼女は少年の頭をそっと撫でる。

ドクはこれまでの欲望むき出しの笑いとは違う、優しい笑みを浮かべて。

「・・・っ」

ショタはその大人っぽい表情に少しドキッとした。




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