第6話 ショタ好き変態女との出会い5

「す、すごい・・・」

ショタは目の前で起きた出来事を未だに信じられない。

12歳であるショタよりも華奢な女性が、10人ほどの鍛錬された兵士を一瞬で全員倒してしまったのだから。

しかも、宣言通り傷一つ負わずに。

だがこの戦いはこれで終わりではない。

おそらくこの兵士たちの中で最も強いデルバルトが残っているからだ。


ドクとデルバルト、両者の間には張り詰めた空気が漂っている。

そんな中デルバルトはゆっくりと口を開く。

「・・・貴様の戦い方は大体理解した・・・その対処方もな」

「へぇ・・・それは困ったね・・・ちなみにどんな方法だい?」

「フン・・・それは・・・こうやるのさ」

デルバルトは話しつつ片手で悠々と剣を振り上げる。

その手には2メートルほどの身長であるデルバルトと同等か、それ以上の大きさの大剣が握られている。

この大きな剣が当たってしまえば、針金のように華奢なドクは一撃で真っ二つにされてしまうだろう。

しかし、デルバルトのこの行動は明らかにおかしかった。


なぜならドクとデルバルトの間には10メートル以上の距離が離れているのだ。

2メートル以上ある大剣とはいえ、それだけ距離が離れてしまえばいくら剣を振ろうと当たるわけがない。

だがデルバルトがその剣をとてつもない速さで振り下ろした瞬間、その認識が間違っていたことに気づく。

ゴウッ!

とてつもない突風が周囲に吹き荒れる。

「・・・ッ!」

ドクは何かはわからないが自分の身に危険が迫っていることを肌で感じ取った。

即座に身を屈め、真横へと飛んだ。

ドクが地面に手をついたその時

ドゴォッ!!

後ろからすさまじい轟音が聞こえた。

振り返ると先ほどとまで背後にあった木が、バキバキッと音を立てつつ倒れいくのが見える。

「いっ、今のは・・・まさか!?」

ショタは目の前で起きた普通ではあり得ない異常な現象に驚いていた。

「今のは『言霊』ってやつよ」

ドクが嫌そうな顔をしながら言う。

「あなたも知ってるでしょ、生まれながらにして持つ自らの魂に刻まれた文字と、物体の魂に刻まれた文字・・・これらを組み合わせた言葉をこの世に具現化させる・・・それが『言霊』よ。まぁ使える人はなかなかいないケド」

つまり、デルバルトは普通の人間にはない、超常の力を扱えるということである。

それもとてつもない破壊の力が。

「そんな・・・言霊を使える戦士なんて王宮騎士団でも数えるほどしかいないのに・・・」

ショタもこの事実に驚いてはいるが、『言霊』という超常の力に驚いたのではない。

言霊を使いこなす人間がいるということに驚いている様子であった。

(・・・王宮騎士団のことを知っている・・・ってことはやっぱり王族なのかしら?)

ドクは眼前の敵へと警戒しつつ頭の中でショタの言葉の意味を冷静に分析する。

一方ショタは眼前で起き続けるあり得ない現象に頭がついてこられなくなっている。

「えっと・・・じゃあ今までの攻撃も・・・?」

「そう・・・これが俺の言霊『衝波』だ」

表情を一切変えずに言い放ち、デルバルトはさらに剣を横に振るう。

すると再び風が舞い起こり、見えない何かが再び空気を引き裂いてドクへと襲いいかかる。

「チッ」

ドクは立った状態から足を一気に開き、頭が地面につきそうになるほど体を後ろへと逸らす。

見えない何かはドクの体の上を通過し、次は2本の木を同時に切り倒した。

すぐさまドクは体制を立て直し、次の攻撃へと備える。

だがデルバルトはすぐに攻撃へと移らず、剣を肩の上へ乗せ悠々と語り始めた。

「貴様の戦法はその軽い体を活かした素早い動きによる高速戦闘が基本だな・・・その素早い動きで相手を翻弄し手数で相手を攻める。その上かすり傷一つでも与えられれば、その剣に仕込まれた毒で相手を無力化できるというわけだ。全く・・・小賢しいが効果のある戦術だ」

「・・・うーん・・・15歳以上の人間に褒められても全くうれしくないんだけどね」

剣を構えつつ、ひきつった笑いを表情に浮かべながらドクは答える。

「なら対処は簡単だ。貴様の剣の届かない距離から攻撃し続ければいい・・・俺の『衝波』は剣を振るうことでその衝撃を離れた相手にも当てることができる・・・つまり俺からは貴様に一方的に攻撃すればいいというわけだ・・・こういう風になッ!」

話終えると同時にデルバルトは再び剣を振るう、しかも今度は縦横無尽に何度もだ。

つまり先ほどとは違い一回避ければ終わりではない。

迫りくる無数の見えない衝撃波を全て回避しなければいけないのだ。

一撃でも食らえば背後にある木のように真っ二つにされてしまうだろう。

かすることでさえ致命傷になりえる。

「やっ・・・やめっ!!」

ショタのそんな言葉も空しく、1秒と間もなく


ドガッ!ガゴオオオオオオオオ!


と、先ほど以上の轟音が響いた。

ガラガラ、バキバキッ

舞い上がった石や土が地面に落ち、複数の木が折れ倒れる。

さらに衝撃によって起こった砂ぼこりが、あたり一面を包み込み何も見えなくした。

「うわっ!」

ショタはとっさに自分の腕で顔を覆う。

何も見えないが一つだけ確信できることがあった。

それはこんな破壊の嵐の中で生きていられる人間などいないということだ。

「さて・・・部下たちには直接当てないようにしたつもりだが・・・まぁ多少怪我したところで問題はないか」

デルバルトは倒れた部下の心配(?)をしつつ、剣を収めようとする。

「・・・ッ!」

だが、不意にその手が止まる。

その目は何か信じられないものを見たように、驚き戸惑っていた。

「げほっ・・・げほっ・・・?」

土煙を吸い込み咳き込んでいたショタも、デルバルトの様子がおかしいことに気づく。

服で顔をぬぐい、段々と晴れてきた土煙の奥を見る。

そこには


傷一つ負っていない、不健康そうな薄い体の女が立っていた。


「は・・・え?・・・お、お姉さん・・・?」

ショタは今日何回目になるかわからない驚きの声を上げた。

「はぁ~死ぬかと思ったわ・・・」

そんなショタとは対照的に、ドクは何事もなかったかのように平然としゃべっている。

とても破壊の中心にいたとは思えない様子だ。

「貴様・・・なぜ生きている!」

ここまでずっと冷静だったデルバルトが初めて声を荒げた。

その表情は先ほどまでは想像できない焦りが見える。

対してドクはあっけらかんと答える。

「なんでって・・・そんなの


全部躱したに決まってるじゃない?」


「「は?」」

デルバルトとショタの口から同時に間の抜けた声が出た。

そこからシーン・・・と辺りが静まり返る。

「え?何?アタシなんか変なこと言った?」

ドクはなぜこんな空気になってしまったのか本気で分からず、困惑しているようであった。

「そんな馬鹿なことがあるか!あれだけの量の見えない衝撃波!全て躱せるはずがない!」

デルバルトは戦いの最中であることも忘れて反論する。

「いや・・・そんなのあんたの太刀筋を見れば衝撃波の範囲くらい大体わかるわよ。まぁその攻撃はもう見たし、当たった木の折れ方から衝撃波はその剣と同じサイズのものしか出せないのも分かったしね」

「なっ・・・」

「それにあんた部下に衝撃波が当たんないように調整して剣を振ってたでしょ?見た目と違って優しいのね~」

その言葉を聞いたショタが倒れている兵士を見ると、彼らの周囲に攻撃は当たった跡が見えるが、確かに彼らには衝撃波が一切当たっていないようだった。

「攻撃が来ない場所が予測できるなら後は簡単よ。そう・・・


私のこのぱーふぇくとびゅーてぃふるぼでぃーにかかれば、そこにできたわずかなワザの隙間もかいくぐれるってワケ!」


ドクはその病的なまでにやせ細った胸を張って自信満々に言った。

「クッ・・・こんなふざけた戯言を抜かす女に俺の『衝波』が破られただと・・・!」

「オイ何がふざけた戯言だって?」

デルバルトにとって自身の技を攻略されたことはとてつもない屈辱だったようだ。

その表情は怒りと悔しさで塗り固められていた。


「・・・ならば次は貧相な体が通り抜けられぬ程の衝撃波でッ!」

デルバルトが再び剣を振り上げながら叫んだその時、


「アンタ・・・次があると思ってんの?」


ドクの声でそう聞こえた。

その時ショタは初めて”殺気”というものを感じた。

ゾッ、っと体中の毛が逆立つような、次の瞬間自分は死ぬのではないか?そう思えるほどの悪寒が体中を駆け巡る。

そして、殺気を感じたのはショタだけではなかった。

「グっ」

ドクの放った殺気に当てられたのか、デルバルトの動きが一瞬止まる。

その一瞬をドクは見逃さなかった。

「フッ!」

ドクは再び脱力し、頭からから地面に倒れこむ。

その体が地面に着く寸前、音もなく足を踏み出す。

瞬間、ドクはまさしく目にもとまらぬ速さでデルバルトへと近づいてた。

ドクの動きをじっと見つめていたショタからも、その動きを追うことはできなかった。

目を離していたわけではない、ただそこにゆっくりと地面へと近づいていくドクを見ていたはずがいつの間にか姿が消えていた、そんな感覚だ。

その速さに驚いたのはデルバルトも同じ、10メートルほど空いていた距離が一瞬で縮まり、すでにお互いの剣が届く距離となっている。

だがデルバルトはすでに剣を振り上げている、一方ドクは剣を振りかぶってすらいない。

この間合いでこの動きの差は歴然、デルバルトの圧倒的優位であった。

(もらった!)

力いっぱい剣を振り下ろし戦いを終わらせようとする。

だが


わずかでも切られれば終わり


その恐怖がデルバルトの剣を鈍らせた。

このまま剣を振り下ろしていいのか?躱されれば切られて負けるのではないか?

そんな思いが脳裏をよぎる。

そして、その迷いは直接剣に現れた。

ほんの僅かではあるが振り下ろされる剣の速度が緩んだのだ。

ドクはその迷いを読み取ったかのように、剣が振り下ろされるよりも先にデルバルトの懐へと飛び込む。

そして右手に持った剣をその勢いのまま一気に振り抜く!


一閃


その剣は防具の隙間から露出していた手首を切った。

ドクはそのまま体を回転させ、デルバルトの脇から通り抜けていく。

(くっ!切られた!だが・・・倒れたあいつらよりも俺の体の方が大きい、その上この傷の小ささ・・・毒が体に回りきる前にこいつを叩き切れば・・・)

デルバルトが無理矢理にでも剣を振り回そうと考える。

が、すべて遅すぎた。

「ガッ・・・フッ!」

デルバルトの動きの一切が停止した。

指一本すら動かすこともできない。

(こ、これは普通の毒じゃない!こんな速さで・・・体全体が同時に・・・動かなくなるわけ・・・が・・・な・・・)

その上意識までも段々と暗闇へと沈んでいく。

朦朧とする意識の中、デルバルトは切られた自身の手首を見た。

そこには


文字のような見たことのない模様のようなものが広がっていた。


そうそれはまるで

「の・・・ろ・・・い・・・?」


かすれた声でそうつぶやくとデルバルトは地面へと崩れ落ちる。


彼女の剣は薄皮一枚、紙で切った程度の傷しかつけられていない。

剣に毒を塗っていたとしても、そんな小さい傷ではではあの巨体を一瞬で昏倒させることなどできないだろう。

だが、彼女にとってはそれで充分であった。

なぜなら彼女は・・・いや、彼女の剣は・・・


「ああ、ごめん。言い忘れていたわ、私も言霊が使えるの。名前は『呪毒』


どう?私にピッタリでしょ?」


呪われているからだ。


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