2日目夜 探偵――立花レン

「……こんなに寝るつもりはなかった」


 時刻は23時50分。

 先程寝たのはいつだろう。一日がこれ程早く過ぎたことが今まであったのだろうか。


「とにかく……見なくては」


 目を擦りながら僕は綾胸エリのチャンネルへと飛ぶ。午前0時開始だからギリギリ間に合った形だ。待機中の画面では放送していないのにコメント欄で盛り上がっている。

 と、それを眺めている内に午前〇時になった。

 放送が始まる。


『……み、みんなこんばんはー! え、エリちゃんだよー』


 綾胸エリが手を広げて跳ねる。動画でも見せていた挙動だ。

 動画で見た彼女と挙動も口調も声も同じ感じだ。


「……?」


 だが……何かが違う。

 何が、というのを言葉ではどうも表せられないのだが……

 でもそれは視聴者も感じていたようだ。


【あれ? エリちゃんどうしたの?】

【具合悪い?】

【体調悪そうだね】


『え? あ……そ、そんなことないよー! 元気元気! エリちゃん元気! あ、そうだ! 今からゼルダ配信しようか! また12時間やっちゃうよー』


 やめてくれ! 悪夢再び! ねかせて ――などとコメントが盛り上がる。どうやらただの思い過ごしだったようだ。

 午前0時も過ぎているし、心配も杞憂だったようだ。


 ――と、安堵した、その時だった。


「あっ……」


 僕の目は見開かれた。

 綾胸エリのその背後。

 そこにまたいたのだ。


 ――あのピエロが。


【何だあのピエロ?】

【デスBAN?】

【あれデスBANじゃねえか!】

【え? 何でエリちゃんの放送に?】

【エリちゃん逃げて!】


 コメント欄でもピエロについて言及している。

 だけどそのコメント欄の忠告も虚しく、


『うーん。残念だけどみんなの要望もあってゼルダ配信はやめ――』



 ガンッ!!


 大きな音と共に配信が切れた。

 あの時と――ヤエギの時と同じだった。

 悪い予感は当たってしまった。


 綾胸エリは、ピエロに殺されてしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る