断章 それは、二人の記憶の欠片のお話

第5話 高校時代・その後の二人

 「……誠人君、起きて」

 「あいて」


 昼休み。コーヒー牛乳と総菜パン3個といういつも通りの昼食を食べ終え、ヘッドホンをしてお気に入りの音楽を聴きながら机に突っ伏していると、弱い力で誰かに頭を叩かれた。

 なんだ、と思って顔を上げると、月島が無表情で1枚のプリントを差し出してきた。


 「あ? なにこれ」

 「委員会のお知らせ。先生が、渡してくれって」

 「なんでまた?」

 「誠人君、朝の放送聞いてないでしょ」


 月島が呆れを通り越して、出来の悪い弟を見る目で俺を見てくる。だが、全くその通り。俺は朝のHRを寝て過ごしている。

 だって、眠いし。しょうがないじゃないか。


 「とにかく、渡したから」

 「おい、ちょっと――」


 俺の制止の声にも耳を貸さず、月島は教室を出てどこかへと行ってしまった。

 あの日以来、俺と月島は微妙な距離感のまま、高校生活を送っていた。以前と同じく全く喋らない日もあれば、廊下でばったりと会えば一言、二言話したり。

 だが、周囲の人間には俺が変わったように見えるのだろう。好奇の目で見てくる奴もいれば、嫉妬まじりに睨んで来る奴もいる。


 「なんなんだ、ったく」


 月島いわく、クラスの連中には俺と共通の趣味があって話すだけ、と説明しているらしい。もっとマシな理由を考え付かなかったのかと思わなくもないが、俺が周囲に説明しようものならそれだけで悪手になるので、頭が上がらなかったりする。

 だが、これ以上月島に借りを作るのもごめん被りたい。


 ――煩わしいのは、ごめん被りたいんだけど。

 そう思いながらプリントを裏返すと、いくつかの注意事項の下に役職が書かれていた。

そこには、


 《美化委員長:月島華》

 《副委員長:寺崎誠人》


 と書かれていた。

 ……。まじか。

 結局、次の週から俺は、月島の監視下で借りを量産する羽目になったのだった。

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