第5話 事件の結末へ……

 三人はプールサイドの茂みに立ち入った。毒物が投入された、例の隙間である。

「お二人の聴取から考えて、犯人は女子生徒。僕の推測では、犯人は腕時計を脱衣所から盗んだのでしょう。女子生徒なのですから当然です」

「お見事、その通りだと私も思います。犯人はプールの清掃当番で一番にやってきた及川さんが脱衣所に入って着替えているところに入り込み、こっそり腕時計を盗み、スマホなどを使って彼女を指定の場所に呼び時間稼ぎをした。遺体はシャツの下に競泳水着を着用していたことから、着替えていたことが明白です」

「そ、その通り」

 コイツそこまで考えてなかったな、と夏目は内心呆れる。

「で、時計を手に入れた犯人は、毒物をテニスボールに浸透させ、プールの準備が終わり警備員が立ち去る午前六時二十分まで待った。しかし、ここで矛盾が生じます!」

 夏目警部は、珍しく、感心して聞いていた。

「このコンクリートは厚みがあります。そのため、視界が遮られ、プールの時計を見ることができない!」

「なるほどな。どうだ臣尻? この責任、どうとるつもりだ?」

 夏目警部は、挑発しているのではない。怒りに満ちているのだ。

 しかし、臣尻は涼しい顔をしている。


 何故、時計がプールに投げ捨てられたのか。

 何故、時計を盗んだりしたのか。

 何故、時計は進められたのか。


「秦野さん、あなたの着眼点は素晴らしいですが、推理は及第点を与えられませんね。それでは、そろそろ種明しといきましょう」


「及川陽菜と同じ二年B組の、澤部蘭を呼んでください」


□◆□


 澤部蘭──臣尻が目をつけた人物が、プールの前に呼び出された。澤部は、丸渕眼鏡をかけていて、三つ編みの、文化系の容姿をしていた。

「澤部さん。あなたが何故ここに呼ばれたか、もうご存知ですよね?」

「いえ……全く……」

 臣尻に問いただされると、澤部は伏し目がちに答えた。

「では単刀直入に言います。澤部さん。及川さんを殺したのはあなたですね?」

 そのとき、周囲の教員たちと、大竹少年、三村少年は凍りついた。

「何故私がやったと……?」

 臣尻は澤部の回りをぐるぐる歩きまわり、

「まず動機です。二学年の首席は昨年度は及川さんでしたが、それまで中等部時代から、あなたの学年の首席はあなたが死守してきました。主席の記念品は毎年変わります。事情聴取によれば、一昨年度はレリーフ、その前の都市は万年筆」

「……何が、おっしゃりたいんです?」

「……実は教室を探していたとき、交換日記を見つけましてね。これはクラスの女子の間で回されていたようですが、そこに書いてある内容から、あなたと及川さんは深い仲にあったと推察したわけです。しかし、昨年度の学期末試験、あなた、欠席してますね?」

「……それが何か?」

「あなた、及川さんに、『澤部さんが休んでも、私は主席を取るなんてしない』という口約束をしたのではありませんかね。違いますか?」

 その途端、澤部は挙動不審になった。

「……わ、わたしがやった証拠は……?」

「あなた、時計の針を進めたり戻したりした経験、あまりありませんよね?」

「は、はい……」

「そして金属アレルギーで普段時計をしていない」

 臣尻は夏目警部と目配せをして、次の瞬間。

「澤部さん、両手を出してください」

「は、はい」

 澤部はすっと両手を出した。すると。

 

 澤部の手に、手錠がかけられた。

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