第43話「ちゃんと話せて良かったです」

「ちょっとティザン。何を言ってるの? CTGは1人1アカウントだから別キャラは作れないのよ。それに生態認証とかが定期的にされて本人か確認されるんでしょ?」


 ニョニョの疑問は至って普通なもので、誰もが僕の発言に抱く疑問だ。


「そうなんだけど、実は裏技があって、本来の使用者が協力してくれれば、問題なく出来るんだよ。とくに伊之助さんの場合は」


 僕はそこで、一度言葉を区切ると、類家るいけさんの出方を見た。


「ふむ。まぁ、目的は達した今、隠す必要はないかの」


 その喋り方は完全に伊之助さんのそれだった。


「では、どうやって類家を使用したか、説明してもらおうか?」


「まず、アカウントは本当に類家さんのモノです。これなら1人1アカウントでも問題ないです。そして生態認証ですけど、これは眼球で行われるのは最初に説明もあるし、誰もが知っている事です。なら、ヘッドマウントディスプレイだけ常に類家さんが着けていれば?」


「でも、それじゃ、何も見えな――あっ!」


 ニョニョは否定しようとした瞬間、気づいた。


「そうか。伊之助さんは目がっ」


「うん。そうだね。視力をほとんど必要としない伊之助さんだから出来た入れ替わりだね。たぶん、会場を『女王陛下』のギルドスペースにしたのも、勝手知ったる場所で、見えなくても動けるから。ですよね?」


 僕は最後には類家さん、もとい、伊之助さんへと問いかける。


「ほほぉ。流石、アリーが選んだだけはあるの。全部正解じゃ。どうだ? いっそ、そのままアリーの婿にならんか?」


「へっ? い、いや、何を言ってるんですかッ!?」


 僕は両手を振って慌てて、なんとかしようとしていると、アリーが助け舟を出す。


「お爺様。残念ながら、彼にはもう相手がいますわ。ねぇ?」


「そうそう。僕には心に決めた人がって、ええっ!?」


 ついついそう答えてしまったけど、伊之助さんは、その言葉を信じたのか、残念そうな顔を見せ肩を落とした。


「う~ん、残念じゃ。物言いからアリーと同じ位の年代だと思ったのだがのぉ」


 ゲーム内での見た目は当てにならないから、どういう会話をしたかは確かに年齢を推測するのに利用する要素だ。

 まぁ、だいたい外れるんだけどね。


「さて、話を戻すが、いつ私が入れ替わっていると気づいた?」


「いくつか気づくチャンスはありました。まずは、類家さんに存在感が感じられなかった時がありました。あれは、そのときに交代していたからですね。それから、アリーが類家さんと話すときだけ、『様』を付けずに話していたのも気になりました。そこで、もしかしたら類家さんも試験を行う方の立場なのかと思っていました。

 他にはその立ち方です。僕はこれでも記憶力には自信があるんです。類家さんの立ち方とイーノさんの立ち方はピッタリ同じで、もしかしたら同一人物ではないかと」


「立ち方なんて、ほぼ変わらないと思っていたが……」


 伊之助さんは、現在ただ立っているだけの僕らを見比べ、腕を組んでいたり、体が傾いていたりと差異を見出し、納得は出来ないものの、僕の言い分を理解はしたようだ。


「それが覚えていられるかはともかく、確かにわずかに差はあるかもしれんのぉ。全く、アリーといい、キミといい、廃人プレイヤーはどこかオカシイの」


「あら、ワタシをこの奇人や、あの野蛮人と一緒にしないでくださる?」


 たぶん、奇人は僕で、野蛮人はスティングだなと思ったけど、絶対アリーもどっこいどっこいの変人だ。

 でも、ここは沈黙を貫くのが吉だと判断して、僕は植物の様に静かに見守った。


 アリーと伊之助のやり取りが終わると僕は再び口を開いた。


「それから――」


「ぬっ。まだ、あるのか? ふむ~、かなりザルだった様だの、入れ替わり作戦は」


「ええ、僕が確信したのは、番匠谷さんのパソコンを調べ上げていた点と最後だけ『イーノ』じゃなかったからです。おまけで、あのチャンネル移動はギルドメンバーじゃないと思いつかないし、試せないですからね」


「ふむ。確かに、ここでの出来事を元に番匠谷が犯人だと分かったからの。最初の殺人が一番、雑だったからの。あんなのは発送元をちょいと裏から手を回して調べれば一度番匠谷の元を経由したことが分かったしの。確かに類家になっていればすぐに分かることじゃの。迂闊うかつだった。最後も、あれじゃろ、類家の元に居るから『イーノ』で入れないからということじゃろ。まるまる正解じゃよ」


 伊之助さんは、苦笑いを浮かべ、まるで観念した犯人が手錠をはめてくれと言わんばかりに両手を突き出す。


「え? いや、別に何も悪いことしてないですし、そもそも捕まえる事とか出来ないですし、ただ、僕は断頭PKされたイーノさんが元気なのか確認したかっただけですから。ちゃんと話せて良かったです」


 僕は営業スマイルではなく、自然とこぼれた笑顔を伊之助さんへ向けた。


「そうか、それは心配かけたの」


 伊之助さんは軽く頭を下げ、礼をすると、すぐにアリーの元に駆け寄る。


「おい。アリー。なんじゃあの好青年! 本当にお前結婚とかしないのか? いや、むしろ、私が養子として迎えるのが――」


 なんか不穏な会話が聞こえた気がするんだけど。


「セーフティ解除!」


 アリーが宣言すると、外に群れていたゾンビが中へと入ってくる。


「ほら、貴方達、用は済んだならさっさと行きなさい。報酬は後日払うわ」


「えっ、ちょっ、なんじゃ、これ、なんかダメージ受けてるっ!! 何これ、怖いんじゃがーーっ!!」


 伊之助さんの断末魔を背に僕らはログアウトした。


 こうして、次期会長を巡る長い戦いは幕を閉じた。

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