第36話「最後に残ったものが真実だ」

 僕ら一同は食堂へ再集合する。

 それを見た類家るいけさんはおもむろに口を開いた。


「コホン、さて、皆さんお集まりのようですな。すでに2人が脱落していますが、どうでしょうここらで私の推理を聞いてもらえないでしょうか?」


 誰からも反対の声は当然上がらず、類家さんはそのまま話を続けるが、僕はなんだが憮然ぶぜんとしたものを感じた。

 そして、ニョニョも同じ感想を抱いているようで、凛々しい顔の眉間に皺が寄っている。


「今、皆さんはこれまでの2人は『イーノ』こと伊坂伊之助会長によって引き起こされ死亡したものだと思いますか?」


 その質問に答えたのは座谷ざたにさんだった。


「いいえ、絶対にありえないわ。父は悪ふざけが過ぎることは多々あったけれども、悪趣味で笑えないものもあったし、正直勘弁してほしいと思うことも1度や2度じゃなかったし、兄と一緒に何度その鼻っ柱をぶっ叩いてやろうかと思ったか分からないけれど、空気が読めないだけで、明確に害を与えるやり方をする人じゃないわッ!」


 なんとなく、恨みつらみがヒドイけれど、それだけに謎の説得力があった。


「う、うむ。そうなんですね……。ついでに私もそう思います。ではそれを前提として考えるとなぜ、彼らは死んだのでしょうか?」


 類家さんはまるで名探偵のように後手を組んで、僕らの周りを歩きまわる。


「まず第1の社長が死んだ件ですが、どうやって社長を殺したのか? そしてあの料理を送ったのは誰なのかという問題があります。しかし、それを一気に解決する推理があります、それは、社長が自殺したという可能性です。そもそも毒を入れる時間などなかったですし、本当に会長から送られたディナーなら、宛名を細工する必要もない!」


 確かに、簡単に説明は出来ているけど、それだと問題が1つある。


「えっと、すみません。立会人の立場で言うのもなんですが、いいですか?」


 僕が手を上げて、了承を求めると、類家さんは軽く頷いて、僕の次の言葉を促した。


「社長の伊坂さんが自殺した理由はなんですか?」


「ふむ。いい質問だ。それこそが今回の事件の鍵。『ざさばいばる』ではないかな? 社長は謎を解いたようでした。その正解が実は自殺することだったとしたら?」


「いや、それでしたら、座谷さんも自殺するはずじゃあ?」


「そうですか? 専務は社長を次期会長にしたいと考えている節が見受けられた、ならば、自分が自殺しなければ社長が勝者となるのでは?」


 うっ! た、確かに筋は通っているけど。僕はどうしてもに落ちない。


「ティザン。自殺説は簡単ゆえにくつがえし辛いのよ。本来はね。でも今回は次の事件が起きているわ。そっちも説明出来なければ、自殺説は保留となるわ。違うかしら?」


 ニョニョは僕に助け舟を出しつつ、類家さんに挑戦する。

 類家さんは慌てる様子もなく、口を開いた。


「2件目も自殺もしくは事故ではないかと考えています。坂上さんも答えを導き出し自殺した可能性もありますが、部屋の小物がわずかながら動いていました。私はこれは事故でケーブルを引っ掛けて抜いたのではないかと思っています。その時の衝撃でキャラが変な振動を起こし、物が動いたのです。その後電源が切れログアウトした。こう言ってはなんですが、坂上さんはゲームにもうとく、高齢でもありましたので充分にその可能性はあるかと思います」


「そうね。確かにそう捉えるのが妥当よね。でもあたしは別に犯人がいると思って動くわ!」


「貴方がたはどうしても犯人を作りたいようですが、私の推理でしたら、悪意を持って接する者がいない、誰もが幸せな平和な世界ですよ?」


「あなた、本当に社会人? 誰もが幸せな世界なんてないわ! 仮にあったとしてもそれは盲目的に信じた先にあるものではないわ! 頭を捻って、体を動かして、心を強く保って、そういう努力してようやく訪れるかもしれないものなのよッ!!」


 その言葉に類家さんは頭をボリボリと掻いてから、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。


「なら君達は犯人がいると思って動けばいい。私は自殺や事故の線をもう一度洗い直す。そうして最後に残ったものが真実だ。そうだろう?」


「ええ。そうね!」


 類家さんとニョニョの視線はまるで火花を散らすかのように交錯こうさくした。



「ところでニョニョ、あんな啖呵たんかを切ったけど、勝算はあるの?」


 僕とニョニョは立会人用の個室にて今後についての話をしていた。


「勝算ってのは違うわよ。あたし達の目的は座谷さんを守って犯人がいたら見つける事であって、別に類家さんの言った通りでも構わないのよ」


「ん? あれ、確かにそうだね」


「ただ、類家さんの推理が間違っていた場合、つまり犯人がいた場合、好きに行動される恐れがあったから牽制けんせいとしてああ言ったのよ。もちろん類家さんもそれは気づいていたみたいね」


「ああ、そうだったんだ。なるほどね」


「それにあたし達の持ってる情報と、類家さんが持っている情報には大きな違いがあるから、まぁ、あたし達と意見が食い違うのは当然なのよ」


「そうかッ! 僕らは伊坂さんから座谷さんを守るようにって依頼を受けてるし、情報流出の犯人がいる事も知っているからあの推理が間違っているって分かるのかッ!!」


「ええ、その通りよ。でも類家さんも実は気づいていそうな気もしなくはないのよね。全く何を考えているのかわからないわ。今回の推理だって初対面の時とはまるで別人みたいだったしね」


「ミステリー物の名探偵みたいだったよね」


 僕は笑いながら言うと、ニョニョは真剣な表情で、


「そうね。まるで演技でもしているみたいだったわ」


 ニョニョは一度大きな胸が揺れる程、大きく息を吸ってからゆっくりと息を吐き出す。


「まぁ、類家さんについては考えても仕方ないし、切り替えて行きましょ。それより、ティザン……。昨日はごめんなさいッ!!」


 ニョニョは深々と頭を下げる。


「何言ってるの、いつもの事だから全然気にしていないよ」


「いや、でも……」


 ニョニョは困った顔を浮かべて、おろおろと周囲を見回す。


「あっ! そうね。ティザン、今寝なさいよ! あたしが見ててあげるからっ!!」


「ニョニョ、シッカリして! 動揺し過ぎだから、ニョニョが見てなきゃいけないのは僕じゃなくて座谷さんだったから、今は皆のところにいるし、問題ないからッ! ていうか女の子に見られながら寝るとかどんなプレイだよ!!」


 ニョニョは失言に気づき、顔を赤らめる。そして無駄に虚勢きょせいを張った。


「べ、別に間違ってないわよ! ほら美少女に見つめられながら寝るなんて、超幸せ者じゃない!」


「幸せ者だとは思うけど、寝づらいことこの上ないからね! 今度、僕がニョニョを見つめててあげるから、その中で寝てみてよッ!!」


「え……。あたしに変なことしないなら」


「しないよっ!! っていうか寝ること自体はいいのかっ!? くっ、これは完全に僕の敗北か……」


 そんなくだらない話をしながら、折角の寝れるチャンスをガリガリと消費していると、もはや死神の声と化しているアリーの声が全員へと響く。


「皆様、ご歓談やおやすみの最中だったかもしれませんが失礼します。先ほど類家様より連絡がありました。内容は『私は私の推理が正しいことを証明する為に自殺します』との事です」


 こうして2日目にして、残り人数は3人まで減ったのだった。

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