第22話「そう見えるでしょ!」

 シーフは罠の発見・解除を得意とし、また素早い動きで相手を撹乱かくらんするジョブだ。主に活躍の場はダンジョンやギルド戦での斥候せっこう。固有スキルは罠解除だ。

 戦闘においては、そこまで強いジョブではないのだが、手数の多さと地の利を得易い機動性で上級者では恐ろしく強い立ち回りをするプレイヤーもいる。


 僕と『文字化け』はお互い出方を伺うようにジリジリと円を描くように動く。


 この位置ではニョニョを守りづらい!


 先に僕は動き、体を低くしながら相手へと突撃する。


「ずいぶんと基本に忠実な戦法でくるじゃねぇか!」


 確かに身を屈めての攻撃は基礎の基礎だ。

 当然相手は対処してくる。

 だけど、今はそれでいい!


 この場合の対処は左右のどちらかに避け、反撃するのが正解だ。『文字化け』もその通りに行動し、僕へとダメージを与える。


「ぐぅっ!!」


 僕は衝撃で転がりながらも、背後にニョニョを隠せる位置を取ることが出来た。


 そんな僕を見て、『文字化け』は眉をひそめた。


「テメー、今のわざとか?」


 わざわざ相手に付き合って真実を語ることはない。僕は、「さぁ?」と言ってとぼけて見せる。


「屈辱だ。ふざけんじゃねぇぞ! このオレがッ! 強者と戦う時に、女を人質に取るように見えたのかッ!!」


「何言ってるの? 断頭PKをやるようなヤツだし、そう見えるでしょ!」


「そうね。完全に見えるわ」


「…………」


 僕とニョニョの言葉に、『文字化け』は言葉に詰まり、静寂が場を支配した。


「……確かに、それもそうだな」


 『文字化け』は独り納得して、悲しく頷くと、僕へ回復薬を投げた。


「今の攻撃は無しだッ! それ使って仕切りなおしだッ! いいなッ!!」


 僕は回復薬を使うと十全な状態で相手へと挑む。


「あんた、意外と良い奴なのかもしれないな。断頭PKなんてやってなければ、友達になれたかも」


「ハッ! 何言ってやがる。断頭PKをしたからお前みたいな強い奴と戦えるんだろ!」


「ああ、やっぱ、友達は無理かな。だから、手加減なしの本気で行くよ」


 僕は笑みを浮かべると同時に飛び出した。

 今度は姿勢を高くしたまま向かう。


「それがお前の本来のスタイルか? どんな攻撃をして来るんだッ!?」


 僕は相手に突っ込むと思わせて、右へと跳ぶ。


「ハッ! なんだその素人みたいな動きはよぉ!!」


 確かに『文字化け』の言う通り、一見素人みたいな動きを僕はしている。

 けれど、その後が一味違う。


 僕は右に跳んだ後、『文字化け』の目の動きを見つつ、今度は地面を転がる。


「なっ!? あいつ、どこへ消えやがった?」


 僕はキョロキョロと周囲を伺う『文字化け』の視界へ入らないよう移動する。

 背後へと完全に回り込むと、相手の動きを予測して移動し続けると消えたように見える。


 僕は相手を斬りつけダメージを与える。


「なにぃ! ダメージを受けただと。ダメージ箇所は背中からッ!? なら!」


 『文字化け』は振り返えるが、僕はすでにそこにはいない。

 今、僕はヘッドマウントディスプレイの視界ギリギリを見極めた位置、『文字化け』の真横にいる。

 今度は脇腹を斬りつける。


「今度は横だとぉ!?」


 『文字化け』の表情はみるみる困惑したものに変わっていく。


「くっ! いや、知らない技に出会ったからといって取り乱すな。攻略法はまだあるッ!」


 この状況に追い込まれたプレイヤーはだいたい3つの行動に出る。

 1つは諦めて死を待つ。もう1つは闇雲に攻撃をする。そして最後は――。


 僕は『文字化け』の挙動を見ると距離を取った。


 爆弾のアイテムを手に持つ『文字化け』はそれを自分をも巻き込む真下へと投げつけた。

 最後の1つは、自分ごとの全体攻撃だ。

 当然、距離を取った僕は無傷のまま、瀕死の『文字化け』と対峙する。


「そ、そんな……。こいつに勝てる奴なんているのか?」


 その質問に僕は律儀りちぎに答える。


「ボディスーツ型のコントローラーを使っている超上級者は、攻撃された箇所から僕の位置を直感的に割り出して攻撃してくるけど?」


「嘘つけ。超上級者でボディスーツを着てやってる奴なんていねぇよ」


 ほとんどの上級者クラスになると、反応速度の速さから、体を動かすボディースーツより、腕だけでいいコントローラーを選ぶ。

 でも、僕はそんな中、ボディスーツを使い続け、頂点へと達した変人を知っている。


「ギルド『リバティ』のギルマス、スティングはボディースーツだよ」


「マジか? ハッ。テメーもそいつもパネェな」


 苦笑いを浮かべる『文字化け』はどこか満ち足りたようだった。


「ところで、もう断頭PKをやらないって約束してくれる? もし、そうじゃなきゃ――」


 僕は再び、死角へと入ると、『文字化け』の首に触れる。


「HP、一割切ってるね」


 アサシンが断頭を行う条件は、暗殺を行うことだ。

 それを分かっている『文字化け』は一瞬にして冷や汗で体を濡らす。


「わ、わかった約束する。断頭PKはもうしない。だが――」


 『文字化け』が何か言いかけたところで、爆発が僕らを襲った。

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