鍛冶師との出会い

 夜になって俺はゲーム世界にナツとして立っていた。


「なにするかな」


 イベントに参加することが決まったのはいいが、それまでの数日をどう過ごすかが決まらない。

 消耗品の補充はすでに終わってるし、装備も現状自分が使いたいと思っている範囲では整ってしまっている。特に金に困ってるわけじゃないから無理に時間のかかるクエストをやる必要もない。つまりやりたいクエストをやって楽しむプレイで十分ということだ。


「遠距離クラスを育てるには遅いもんな」


 いつやっても遅いということは実際にはないけれど、イベントで使えるようになるといった意味では今じゃ遅いし中途半端になる恐れがある。俺はやるなら徹底的にレベルを上げたくて、逆に少しお試しなら少し前のダンジョン攻略で盗賊を使った感じのことをする。

 何するか決めかねてやることのない手でメニューを開いてクラスを確認してみる。


「俺ってものすごい物理前衛に極振りしてるよな」


 育っているのが剣士に戦士や他も両手で持つハンマーやメイスなどの重量武器を持つアタッカーばかりだ。逆に魔法の多くと弓使いなどの遠距離向けのクラスに生産などのクラスは初期レベルのものも多い。

 俺はメニューを閉じてギルドへと足を向けた。


 ギルドにたどり着けば普段と変わらず人で賑わっている。俺はその中でも護衛任務などこの場でメンバーを決めてすぐに始めるクエストを出してるプレイヤーの集まる場所まで移動した。

 今日も商人プレイヤーが護衛任務をだしたり素材を集めにフィールド攻略に行くメンバーを募集しているやつもいる。

 俺は空いているテーブルの席に座ってなんとなくやりたいと思えるクエストがくるか青葉から連絡がくるのを待つことにしようと思った。


 だが、そのどちらでもない事が起きる。

 俺が座っていたテーブルの向かい側の席に見覚えのない女性プレイヤーが座ってきた。

 別にそれ自体は珍しいことでもないし、ただでさえ混んでるからよくあるとすら言える。だが、その人は何故か俺の方をを吟味するように見てきているのだ。

 水色のポニーテールが特徴的な人だな。


「なあなあそこのお兄さん」


 そして最終的に何かに納得したかと思うと俺にそう話しかけてくる。関西弁みたいな雰囲気だな。


「俺か?」

「そうそう。ウチはコノミっていうんやけど。時間ある?」

「まあ、暇してるところではあったけど。俺はナツだ」

「ナツさんな。それでナツさん戦士とかハンマー系のクラスって育てとる?」

「一応戦士も育ててるしブレイカーも育ててるな」


 ブレイカーはハンマーとメイスなどの中でも両手で持つ大型武器に特化したクラスだ。武器の振りがどうしても遅くなって命中率が落ちるぶん一撃当たれば強いというロマンなクラスだ。


「ウチは金属系の武器生産クラスに特化してプレイしてるんやけど。ちょっと武器の性能テスト付き合ってくれる人探しててな。もしよければ報酬もお金か何かしらの武器とか依頼1つ優先的に受けるみたいな形で考えてるんやけど」

「……今日中に終わる感じか?」

「もちろん! まあ、それで更に良ければまた後で暇な時付き合ってもらえるようにフレンド登録までしてもらえたらウチは嬉しいんやけど」

「まあ今日中に終わってしかもそのくらいなら全然問題ない。俺でいいなら受けるぞ」

「よっしゃ! それじゃあ、ちと準備してくるし。見たところお兄さんも今のクラスは剣士っぽいからそうやね。東門から少しでたところにある看板前集合でどう?」

「了解した」


 ひょんなことからであった積極的な鍛冶師のコノミさん。今日は彼女に付き合うことになりそうだが、武器の性能テストなんて初めて付き合うからワクワクしてきた。

 俺は少し漏れそうになるワクワクを抑えてギルドをあとにして走ってマイルームへと向かった。

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