この違和感の正体を知りたい

 カーテンのかかるBOXが立ち並ぶプリデコゾーンにたどり着いた。

 恐らく夏樹はモンスターハウスに迷い込んでしまった気持ちになっていると思う。かくいうあたしはそんな気持ちになってる。


「あ、空いてる! ふたりともこっちこっち」


 このゾーンに関してはさっきまでとは立場逆転で光莉がベテランになって先導してくれる。

 緊張してしまうけど、よく考えたら学生が友達とプリをとることは変なことじゃない。緊張することではないはず。でも緊張してしまう。

 ボックスの中に入ると一応想像通りの空間が広がっていた。ただ思ってたよりは広くて足まで全身写す構図でも撮れるようになっているみたい。なんか上半身ぐらいを写すために狭めになっているかと思ってたけど、あれはただ近くで撮ってただけなのかな。


「ほらほら、ふたりともカメラの前移動移動!」

「お金って外でいれるんだ」

「これはそうみたいだね。カメラがそこにあるから、もっとよってよって」


 光莉はそう言ってあたしと夏樹を引き寄せる。

 たしかに光莉が指さした方にはカメラと画面があって、今どう写ってるかが見られるようになっていた。それと同時にあたしたちを急かすようにアナウンスが流れてくる。


「ほら、青葉ちゃん真ん中!」

「な、なんで!?」

「だって私と鷲宮くんがこうしてでかけるきっかけになったりしたのも青葉ちゃんだから! つまり私達3人は青葉ちゃんを中心にできた友達なんだよ!」


 言ってることはわかるけど、そんなに大層なことしてないし真ん中とか目立つじゃん。


「ほら、もうすぐ一枚目撮られちゃうから。鷲宮くんももっとひっついて」

「こ、こうでいいのか?」


 顔をアップということじゃないから顔が近いってことはないけど、腕でも組めそうなレベルで体は近い。というか光莉はあたしの右腕に組み付きながらピースして笑顔になってる。夏樹はといえばどうしていいかわからない不器用な笑顔を浮かべていて、それを見てあたしは思わず笑ってしまった。


「な、なんだよ」

「いや……ふふっ、夏樹。緊張し過ぎだって」

「し、仕方ないだろ。初めてなんだから」


 なんか夏樹のその姿見てたら緊張が解けた。

 あたしは夏樹を腕を引っ張ってこっちにつれてくる。


「おま」

「別にあたしとあんたなんだから意識することもないでしょ。今のままじゃ枠ギリギリだし」

「まあそうだけどな……はあ、まあいいや」


 あたしのこの行動に夏樹も脱力したのかいつもどおりの感じになって、左手でサムズアップしてる。いつもピースじゃないんだよね。


「イエーイ、みんな仲良し!」


 光莉がそういったところで一枚目が撮られた。

 その後もポーズを変えたりしながら最大枚数撮ったけれど光莉が譲らなかったせいで、全部あたしが真ん中になっていた。

 落書きとかに関してはあたしと夏樹は専門外で光莉に任せた。まあ、さすがにあたしは横から覗いてやばいやつは止めたけどね。

 光莉は途中であたしと夏樹ハートで囲おうとしてたし。


「えー、だめ?」

「だめ」

「ちぇー、じゃあ3人仲良しってことで大きなハートにしよっと!」


 まあそれくらいならいいかな。

 ただ光莉はあまり目をいじったりはしないタイプらしい。どちらかといえば周りを装飾したり文字を入れたりのほうが好きだとひと目でわかる落書きだった。


 数分後。シールが印刷されて、スマホの方でも光莉経由でデータが送られてきた。


「青葉って改めてみるとこんな顔してんだな」

「い、いきなり何」

「いや整ってる顔立ちだなってさ。いつも一緒だし写真も見ないから気づかなかった」

「そ、そう……」

「青葉ちゃん顔赤い」

「うっさい!」


 たまにふと思い立ったことを口に出すのやめて欲しい。それと光莉もいじってこないで。


「それじゃあ……帰ろっか」

「そうだな。そろそろいい時間だからな」

「…………」


 ゲームセンターからでたところで光莉と夏樹がそう話している。

 あたしはそれに直ぐに反応できないでいた。


「ね、ねえ、ちょっと光莉借りていい?」

「うん? まだなにかある感じか?」

「う、うん。光莉ちょっときて。えっと、夏樹は……あとで連絡するから好きなところ見てて!」

「了解した」


 あたしはそうして光莉を引っ張ってなつきと一度別れた。

 夏樹が見えなくなったところで一度止まる。


「ど、どうしたの?」


 さすがの光莉もあたしのこの行動には驚いた様子だ。


「いや、ちょっと最初のよった店いこうかなって……」

「え!? うそ! 青葉ちゃんそれほんと!?」

「ひ、光莉からみても、似合ってたならいいかなって。それに一着ぐらいはそういうの持ってたほうがいいと思うから……」


 なんか言ってて恥ずかしくなってきた。


「うん、もちろん似合ってたよ! それに、さっきアクセサリ買ったしもう少し細かいところまでコーデできると思うしね!」

「だから、まあお願いしたいっていうか」

「了解! 鷲宮くん待たせないように決めて買っていっちゃおう!」


 あたしは光莉に協力してもらって午前中に試着した服と他にもうひとつ別のワンピースも選んでもらって買った。夏樹はあたしが袋持ってるのを見たら「あとで見せろ」とか言ってきた。


「そんなにみたいの?」

「ま、まあな」

「なんで?」

「あんまり見たことないからってだけじゃ駄目か?」

「駄目じゃないけど……機会があったらね」

「楽しみにしてる」


 そんな会話をしてから同じ電車に乗って駅で別れて帰宅した。

 自分の部屋に戻ると無意識に写真立ての前にあたしはきていた。


「うーん。光莉のせいでなんか最近意識してる気がする」


 プリデコの時は緊張が溶けたばっかりだったり夏樹のほうがガッチガチで笑えたからあんなことできたけどさ。

 改めて考えると腕を引くとか何やってたんだろう。


 そういえば最後買い物してる時に光莉にまたからかわれたな。あたしが鏡見てたら「鷲宮くんに可愛いって思ってもらいたくなった?」とか聞いてきたし。でも、なんか最後はあたしからあんなこと頼んだしで言い返せなかったけど、仮に言ってもらったらどういう気持になるんだろう。


「……お風呂入ろ」


 あたしは一度考えるのをやめてお風呂に入ることにした。だけど、その答えは寝る時になってもでることはなかった。

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