会話のセーフライン

 俺は剣士からクラスチェンジして盗賊になった。防御力は薄い代わりに回避力が上がるというより素早さがあがる。装備できる武器は片手用のもので特に適正があるのがダガーなどの短剣と投擲物だ。

 ひとまず結構前にダンジョンでドロップして拾ったそこそこの性能のダガーを装備して、防具は盗賊らしいマフラー的なものをつけたものにしてみた。厨ニみたいな雰囲気がすごいあるけど仕方ないな。


 集合場所にたどり着くと今か今かと出発を待ちわびているガルドが見えた。ヒカリとアオはなにか話しているが遠いのと周りのプレイヤーの会話も相まって聞こえなかった。


「待たせた」

「おう、待ったぜ!」


 5分もかかってないぐらい迷わずに変更してきたんだけどな。5分って人によって全然感覚が変わるよな。


「それじゃあ、出発だ!」

「基本戦闘は俺が囮やるんで2人でよろしく」

「了解!」

「わかった」


 最後に念のために回復アイテムとかを確認してから出発した。

 ダンジョンまでは一応10分ほどかかるらしい。まあ混雑する場合もあるのを考えて街とかからはある程度離れた場所にしかできないようになっていると予想されてるから近い方なんだよな。予想されてるというのは実際に公式からの発表は現状ないからだ。

 ただMMOとかでパソコンの画面で見ながらだとオート移動がないと10分って結構長いイメージがあるな。

 俺がそんな少し懐かしい思い出を頭の中で振り返っていると、後ろでアオが最初の一言を発した。


「ちょっと聞きたいことあるんだけど」

「俺かガルドで答えられることか?」

「うん。ガルドの商人って戦闘だとどうなの?」

「あぁ~。よし、ガルド答えてやれ」


 俺はガルドに説明を丸投げする。俺の周りだとこいつが一番商人を愛していると思うからな。説明だって譲る。


「任されたっぜ。俺が使っているこの商人はぶっちゃけ戦闘だと足手まといだ!」

「そうなの?」


 ヒカリさんは案外周りを気にしてキョロキョロしているから会話には混ざっていない。ここらへんは突然近くにポップする以外の奇襲は少ないんだけど、楽しんでいそうだし水を指すのもあれか。こういう緊張感も楽しさの1つだしな。


「だが、それでもダンジョンなど探索に置いてはメリットがある」

「なに?」

「それは商人は多くのクラスの中でも持てるアイテムの数がトップクラス! だから、俺は回復アイテム系を多めに持ってきたし、ダンジョンで手に入れたアイテムをお前らが持てなくなったら一時的に俺が持つことだって可能なわけだ」

「荷物持ちってこと?」

「否定はしない。だが、意外とこのゲームだと素材とかは重宝するからな」

「へえ……」


 若干熱意が有りすぎてアオが引いてる。

 しかし、思ったよりアオもハマってるのかその後もガルドに質問攻めを始めた。


「ヒカリさんは楽しめてる?」

「え? あ、うん。もちろん!」

「そいつはよかった。ただ、ここらへんはそこまで警戒しなくても大丈夫だよ」

「そうみたいだね」


 なんか後ろで2人で話している腐れ縁に混ざる空気じゃなくて話しかけてしまった。


「ヒカリさんは……演劇部なんだっけ?」

「う、うん。そうだよー」

「そうか。いや、俺って生まれてこの方部活というものに入ったことがないからな」

「そうなんだー。その間ゲームしてたの?」

「まあそうなるな。ずっとゲームしてた感じだ。ネトゲにハマりだしたのは中学の頃だけどな」

「ふーん」


 まずいな。ゲーム初心者が入ってきて嬉しい気持ちが今まで先行していたけれど、この状態になって何を話せばいいかわからない。青葉とか相手ならわりと自分の趣味を説明することに躊躇はしないけど、ヒカリさんにたいしてやったら気持ち悪いと思われるのが怖い。


 結果的に部活の事聞いたけど、俺演劇部についても全く詳しくないからこれ以上続けられないわ。

 自分のコミュニケーション能力は趣味があってこそだと痛感した。

 その後も微妙に俺が気を使いながらも会話しているうちにダンジョンにたどり着くことができた。なんでこんなに疲れてるんだろう。

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