Chapter9 Challenge to the new world and pronunciation【新しい世界と発音への挑戦】

9-1 Pronunciation【発音】

 クリスマスが過ぎ、学校は冬休みに入る。


 当初の目的にしていた模擬試験でいい点数が取れて、僕らの英語の勉強は新たなステップに進む段階である。既にジェシーが来て四ヶ月が経って、半年以内に英語ができるという目標まではあと二ヶ月しかない。


 この四ヶ月で英語を扱うベースはできたが、残りの二ヶ月でさらに知識を上乗せしつつ、ジェシーとコミュニケーションができるだけの実践力を養わないといけない。


 模擬試験の後、翔とはお互いの試験の反省をしながら、今後の方針をいつものファミレスで話し合っていた。


「とりあえず、この四ヶ月である程度の英語をするベースはできたと思うよ」


「そうだね。今までの模試は当てずっぽうか、白紙のままで出すことが多かったけど、ちゃんと全部埋めれた上に、めちゃくちゃ点数もよかったからなあ」


 翔も僕も模試の成績に分かりやすく勉強の成果が出たことを喜ぶ。


「それで、今後はどうする?」

 

「うーん、今までのことを継続していけばいいんじゃないか……? 読解力も語彙力も順調に付いてきているし、あとはその量を増やしていけば、英語力も上がっていくと思うよ」


 模試で点数がとれると、逆に何で点数がとれなかったのかも以前より鮮明になる。今回、点数がとれなかった原因は、英文解釈のちょっとしたミスや、語彙力不足により単語がわからないところがあったというものが多い。

 

 しかし、英文解釈の精度や速度、語彙力は今のやり方でもだんだんと伸びているのを実感できているので、今のやり方で問題なく思う。

 

「譲二は、今回の模擬試験で何か気になることはなかったか?」


「気になったこと? うーん、まあ全部、前よりは出来るようになっていたし、それが実感できたくらいで、特に気になるところは……、しいて言えば文法の問題はちょっと難しかったとこくらいかな」


 文法問題の対策は、最近になって学校指定の問題集を使って勉強しはじめたところで、模試の問題で点が少し低めなのはそこまで気になってはいなかった。


「俺も、大体のところができるようになったけど、リスニングの出来は気になったんだよね」


「リスニングかあ……。確かに難しかったなあ……」


 高得点が取れたことに舞い上がっていたが、リスニングの点数は他の問題と比べて特に悪かった。試験の時も、読解問題より自信なく答えた場所も多い。


「試験の点数もそうだけど、俺達は英語が話せることを目的にしているから、やっぱりリスニングって重要だと思うんだよね」


「そうだな。ここまで文法とか英文解釈とか単語とかやって来たけど、リスニングって特別なにかしてないから、僕も気になってはいたよ」


「そうだろう?」


「でもさ、ある程度は、力はついているよ。他の分野に比べると見劣りするかもしれないけど、それなりに点数はとれているし、たぶん、英語の音をたくさん聞いたり、音読をいっぱいしたりしたことに効果があったんだよ」


「それで、譲二は英語をしゃべれるって言えるのかよ?」


「それは、きついね」


「そうだろう。やっぱり、リスニングや会話についてもそれ専用の勉強は必要だと思うんだよ」


「そうかもしれないけど、単純に量が足りないだけじゃない? もっと音読していればリスニングも目に見えて成果がでてくるんじゃないかな。それが明らかになるのが他より遅いだけでさ」


「もちろん、それもあるし、それも継続してやらないといけないと思うよ」


「じゃあ、他に何をやればいいと思うんだ?」


「発音の練習だ」


「発音の練習……」


 思わぬ翔の言葉を僕は反芻する。


「お前さ、英語の一つ一つの音がポンと出てきた時にそれを取ることが出来る?」


「いや、難しいな……」


 ある程度英語の音についてこれるようになった自信はあるが、単独の音が出てきてもそれを英語としてとれるかは自信がない。


「でも、そんなの日本語なら簡単にできるだろう? 『あ』でも、『そ』でも、『ん』でもそれ単音で聞きとることができるだろう?」


 翔に言われるまでもなく、これらの音はそれ単独で聞きとることができる。


「一つ一つの音が楽に聞き取れないのは問題ってことか……、でも、やっぱり英語はスピードが速すぎるから難しいんじゃないか?」


 英語に少しは慣れてきた自信があるが、やっぱり今でも英語の音は早く感じてしまうし、それがリスニングの大きな障害になっているように思えた。


「それは関係ないよ」


 翔は自信満々に応える。


「どうして?」


「英語も日本語も同じ人間が話して聞く言語なのに、そこまで猛烈なスピードの差があるはずがない」


「まあ、それはそうだけど、翔は英語を速く感じないの?」


「感じるよ。でもさ、それって韓国語でもドイツ語でも一緒だよ。ジェシーにとっては日本語も速く感じるんじゃない?」


「そういえば、最初は速く感じたって言っていたよ」


 ジェシーと初めて映画に行ったときにジェシーはそんなことを言っていた。それに、他の言語を聞いたときを考えてみれば、どの言語でも何を言っているのかわからないのもさることながら、その早さを測ることすら難しいレベルである。


「それに、試しに英語のテンポがゆっくりの音楽を聞いてみろよ。英語であってもゆっくりな音楽は本当にゆっくり発音しているんだけど、たぶん全然聞き取れないぞ。つまり、問題なのは話すスピードじゃなくて、音を知らないことなんだよ。それに、語彙や表現を知らないっていうのもあるな」


 家に帰ったら、適当にゆっくりの英語の音楽を聞くとして、聞き取れる自信は全くない。つまり、話すスピードは重要な原因じゃないというわけだ。


「うーん、じゃあ、語彙や表現はこれまで通り勉強していくとして、発音についても詳しく勉強する必要があるな。でも、音って何があっているかを正解にするのって難しくない?」


「それな!」


「それなって、なにが?」


 翔が急にテンションをあげたが、何に納得したのか僕には分からない。


「それだよ。日本人が発音をなんで意識しないのかの答え。単語とか文法とかってはっきりと白黒つけれるけどさ、発音って何が正解かって判断しづらいんだよ。極端な話、今の俺達の日本語英語のままでもそれで意味が通じるのならそれが正解かもしれないよ。点数化しづらいから問題にもされにくく、学校でも全く教えてくれない」


「それは変な話だよな。みんなカタカナ英語みたいなものしか話さないし」


 僕も中学に入学したての英語を習い始めた頃に、少しでも英語っぽくしゃべろうとしたところみんなの好奇の目を引いたから、それ以来、日本語英語でしゃべるようになった覚えがある。


 僕だけではなく、最初の英語の授業の時でもそうだったが、今でもジェシーが英語をしゃべると、僕とは真逆の意味ではあるが、それだけでみんなの目を引く。


「それで、そう言うくらいだから何かやり方は考えてあるの?」


「発音についての本って少ないけど、何冊かはあるみたいでさ。一冊はもう用意したよ」


 翔はそう一冊の本を鞄から取り出す。発音についてだけ書かれているらしいその本は、僕達が最初にやった文法の本くらい分かりやすく、取り組みやすそうな本に見えた。


「まだ、流し読みしかしてないけど、たぶんこれはアルファベットみたいなものだよ。発音の数だってアルファベットの数と同じくらいしかないから、覚えるのもそんなに難しくないんじゃないかな」


「それに、お前にはジェシーちゃんがいるじゃん?」


「え?」


「今までは俺達が外国人に日本語を教えられるわけじゃないからと敬遠していたけど、発音に関しては出来るならネイティブに教えてもらった方がいいよ」


「そうだな。ジェシーなら発音した瞬間におかしいとか指摘してくれるだろうな」


 いつかはしっかりジェシーに英語を教えてもらおうとは思っていたが、確かにジェシーなら発音の良き先生となってくれるだろう。


 僕にはどの発音が正解かなんて判断しがたいが、ジェシーならそんなものは瞬間でわかる。


「でも、翔はどうするんだよ?」


 僕にはジェシーがいるとして、翔はどうするのかと気になる。


「俺か? 冬休みの間だけジェシーちゃんにはうちにホームステイしてもらう」


「おい」


 冗談だとは分かっているが、さすがに看過できない。


「冗談だよ。でも、さすがに本とCDだけじゃ何が正解かわかりにくいから、発音に関してはネットで動画とか見てみたり、オンライン講座とかを使ってみようかなと」


「そうか……」


 身近にネイティブがいないのなら、そういう手段を使うしかないか……。翔がそう言うのなら、翔には翔のやりかたがあるとして、もしそれでダメだったら、ちょっとくらいジェシーに見てもらうことをお願いしてやろう。ホームステイはダメだけど。


「じゃあ、この冬休みは互いに発音を中心に勉強してみるか」


 今まで、似たような英語の勉強の仕方をしてきた翔と違う手順を踏むのは少し不安ではあるが、ジェシーと英語を勉強するのも楽しみである。


「そうだな……。それともう一つ、お前、TOEGGって知っているか?」

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