異能を使って楽な人生を送りてぇ!

滝米 尊氏

入学編

第1話 入学編

2xxx年に突如として隕石が現れた。各国政府はこの問題に対処すべく核弾道ミサイルなど、普段使う事を禁じている物まで出し、全てを使い切る勢いで使ったが砕けるどころかヒビすら入らなかった。

そして隕石はユーラシア大陸のど真ん中に落ちた。大勢の人が亡くなったが被害はそこで終わらず、衝撃で津波が起き、水辺から遠い地域でも震災などの災害で大勢が亡くなった。


世界は混乱の極みに陥ったがさらに世界中で同時に誰もが想定できなかった事件が起きた。

なんと異能が使えるようになったのである。ある者は焔を操り、ある者は雷を纏い、ある者は魔剣を召喚した。

そして異能を犯罪に使う者達まで現れ、各国政府はあまりの事態の深刻さに頭を抱えた。


だが、政治家は馬鹿には務まる仕事ではないことが証明された。

かのマリー・アントワネットが言った『パンが食べられないならケーキを食べればいいじゃない』理論を実行すべく、政府は異能を悪用する者達には異能を使い熟す特殊部隊を編成し、対処し切った。


各国政府はこれに涙を流すほど歓喜した。やっと家に帰って寝れる、と。

だが混乱がようやく収まることに安心する人々の意思とは関係なく、地球史上最大規模の大変革は未だ始まったばかりであり、そのことに気付いていなかった人類をさらに追い詰めるように新たな事件が起きた。

実は異能が使えるようになったのは人間だけでは無かったのだ。

世界中の動植物の一部も異能を使い始め、あちこちで暴れ始めた。

異能が使えるようになった動植物達は元々気性が穏やかだったものや荒かったもの、そもそも感情といったもの関係なく、近くにいる者を襲うようになった。

しかも一部では巨大化や体の変異までするようになった。このような動物たちはモンスターと呼ばれるようになった。


政府はただでさえ異能犯罪者を取り締まるのに忙しい中、さらに仕事を頼むことに申し訳なさを感じながらも、他に手がない為泣く泣く特殊部隊に出動を命令した。

だがモンスターは犯罪者ほど緩くはなかった。

各国が選抜したエリート達は勇敢にモンスターに挑んだが報告の為に逃がされた者のみが瀕死の状態で戻って来ただけだった。


世界が突然に湧いた力に振り回され同時に起きた様々な事件により滅亡に瀕していた時、各国政府の秘密回線に同時に宛名不明なメールが届いた。

そこには『手を貸そうか?』と、通常では悪戯だと切って捨てるような内容が書いていたが、政府はモンスターによる大災害を止める手立てを用意することができていなかった。

その為、当初は相手が不明瞭な為に会議は荒れに荒れたが時間が経つごとに戦線が押しやられていた為、苦悩していた各国政府はメール相手に要請する英断を下した。

返信をした次の日、顔を隠すほどフードを深く被ったコート姿の者達が前触れも無く各地の戦線に現れ、昨日まで敗戦していたもの達からすれば信じ難い速度で戦線を押し上げていったという報告が上がった。

後にこの戦線を血が止まった場所として、人々はモンスターの恐怖から救ってくれた英雄に対する敬意とモンスターの恐怖を込めてレッドラインと呼んだ。


そして、魔物から人々を救った英雄たちはまたも期末回線を通したメールで国に報酬として、アメリカ、ヨーロッパ、中国、オーストラリア、日本にそれぞれ異能力協会という、異能力者が異能力を使って仕事をしたり、依頼を受けたりする協会を先ほど述べた5つの場所を本部とし、世界中に支部を広げることの許可と異能力者の教育科目を主目にした国立学園の創立の願いを報酬として願った。

それらの準備に時間はかかりはしたが世界中の者達が英雄達に感謝をしていた為、反対する者はおらずスムーズに計画に乗り出した。





世界からモンスターによる大災害が去ってから200年後


東京都 早稲田町

この俺こと、久遠 晴人(クオン ハルト)は高校受験で国立太陽学園に見事合格した。

そして、桜が舞い、どこか甘酸っぱい香りがし、様々な想いを抱き締めて新たな一歩を踏み出す季節、つまり入学式の日がやってきたわけだ。

そんな俺は今現在、中学の頃に野球をしていたせいか、健康的に焼けた肌に爽やかなイケメンという親友の結衣崎 悠人(ユイザキ ユウト)に学園へ向かって両手両足を拘束され、首根っこを掴まれて引き摺られていた。


「なぁ、ユウちゃん」

「おい、気持ち悪い呼び方をするな」

「なぁ、you ちゃん」

「別にネイティブにしろとは言ってないぞ!いつもいつも、おちょくりやがって!!偶には真面目にできねぇのかお前は!!」

「今日も元気いっぱいだなー」

「お前のせいでな!」

「あの鳥」

「鳥かよ!」


本当にユウトは元気だな。

これだからおちょくるのをやめられない。


「あ、ユウトー」

「今度は何だ……」

「漏れそう」

「何ぃぃぃぃ!?」

「嘘だ」

「ほんと、少しでいいから真面目になってくれよ」

「ユウト」


俺が真面目な表情をするとその雰囲気で察してくれたのかユウトも気を引き締めたような表情になる。


「この拘束をーーー」

「ダメだ」

「まだ全部言ってないぞ」

「言わなくても分かるわ。拘束を外せって言ったんだろ」

「確かにそうだが……」


ああ、手首とか尻が痛い。

痛いを通り越して少しづつ熱くなってきているようないないような。

しかし、こんな快晴の時にコンクリの上で人を引き摺るとか摩擦でケツに火がつくぞ。

いやまじで。


「なぁ、ユウト。両手両足を縛って引きずるのって中世のヨーロッパでは重い刑罰の時だけなんだぞ。俺は誓って悪い事はしていない」

「ああ、確かにしてないな」

「じゃあ何でだよ」

「しそうになったからだ」

「俺が何をしようとした!俺は宇宙一と言っても過言ではない程の正義感溢れる男だぞ!俺はどんな悪事も許さない!」

「じゃあ、お前は仮病で入学式を休もうとしたお前自身を許せないな」


偶に休むくらいいいじゃないか……。


「お前、偶に休むくらいいいだろって思っただろう」

「何?!なぜ分かった!?はっ、まさか2つ目の異能が発現したのか!

流石だユウト!そんなの聞いた事ないぞ!

世界で初めてなんじゃないか!?これで世間の注目を独り占めだな!」


さすがイケメン!なんでもありだな!


「お前が中学のほとんど休んでおきながら偶に休むくらい良いだろって毎日毎日懲りずに言ってたからだろうが!だけど今回はダメだからな!

お前がどれだけ望んでもお前の母さんと俺と社会が許さねぇ!」

「チッ、心の中でも褒めたが心を読む異能を使えなかったか。てか地味に許さない人多いな」


学園に行くのめんどいなぁ。これが昔は良かったって気持ちか。

あ、もう見えてきた。


「太陽学園デケェ」ガチャッ

「何感動したように見せかけてさりげなく拘束を外してんだよ……。クソッ、今度こそ解けないように拘束してやる……。てか、なんで知らないくせにこんな有名校に受かってるんだよ!?

このキチガイめ!」


ユウトには変わった性癖があるんだな。

てか、そんな校門の前でブツブツ言ってたら人にぶつかる、ってなんか不良っぽい大男に絡まれた。


「おいテメェ、道のど真ん中で何ブツブツ言ってんだよ!そんなにブツブツ言うんだったら端の方で、やれよ!」


大男がユウトに向かって横に飛ばすように殴ったけど、ユウトは今気づいたみたいだな。

目を見開いてる。けど、流石元野球部、反射的に左手でガードしている。


「いきなり暴力とか危ないだろう」

「テメェがブツブツと言いながら道のど真ん中に突っ立ってんのが悪りぃんだろうが!」


ごもっともで。


「あ、そりゃあ悪い事をしたな。おい、ハルトもあやま、ってなんでそんな野次馬のところにいるんだよ!」

「いや、男と男の誇りをかけた熱きバトルが始まるのであった、みたいな展開に巻き込まれたくないんだよ。めんどくさい」

「いつどこでそんな場面があった?!そもそも元はと言えばお前がキチガイなのが悪いんだろう!

「意味が分からない理由で人のせいにするのは良くないと思いまーす」

「このヤロー!」


自分がやった事を人のせいにするってどうよ。自分がやったことの責任は自分で取らなきゃダメでしょうが。

あ、無視されたと思ったのか知らないけどこっちにも来た。


「ぎゃーぎゃー、うるせぇ!」


まーた右の大振りか。

よくもまぁ、これでここに受かったな。

実技試験とかあったがあんなのでも受かるほどここの受験生に求めるレベルが低いのだろうか?

……しまったな、これを知っていたらもっと手を抜いて楽をしたのに。


「よっと」


ガードでもいいけど長くなりそうだから背負い投げで意識飛ばしてみた。

手加減ミスったから骨逝ったかもしれないけど、まぁいいだろう。


「相変わらずすげぇな、ハルト」

「うちにいたらこんなの楽勝だって」

「まぁ、そうかもな。ところでさっきの背負い投げ、あれって下手にやると命にかかわるほどの重傷を負うはずなんだけど、無傷にするって凄いな」


え?


「たぶん骨逝ってるぞ?」

「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!どうすんだよアホが!

あーーー、早く保健室に連れて行かないとっ!」

「一応、俺の異能での補強して痛みはあるけど、自力で動けるぐらいにはしてあるから大丈夫大丈夫」

「自主的に行けるなら大丈夫だろうが骨を折ってしまった責任があるから連れて行った方が良くないか?」

「子供じゃないんだからあのくらい大丈夫だろう」


それに内臓に当たらない方向から力を入れて折ったから後遺症とかは全くないし、痛いだけだからな。

これ言ったら滅茶苦茶煩そうだから言わないけど。


「あ、やべもう時間が来そう!急ぐぞ!」

「えー、そんなに急いでもいい事ないぞー。もっと人生はゆとりを持たなくちゃ」

「うるせぇ!さっさと行くぞ!行かなきゃお前の家族にチクってやる!」

「さぁ行くぞ!入学式に遅刻なんて恥ずかしい事出来ないからな!」


ユウトは何トロトロしてんだよ!置いて行くぞ!




「はぁはぁはぁ。ギリギリセーフ!これでチクられずに済む!」

「はぁはぁ、本当、はぁはぁ、良かったよ」


俺も息が上がっているがユウトの息の上がり様はまさに死にかけって感じだな。

少し面白いかも。


「あの程度の全力疾走で疲れてるようじゃまだまだだな」

「はぁはぁ、うるせぇ、はぁはぁ、はよ席、はぁはぁ、探せ」


俺も早く座りたいから到着してすぐに周りを見渡したがどこを見ても黒髪黒髪金髪黒髪茶髪って感じで席が見つからないんだよな


「探すも何も全部埋まってるぞ。俺らの座席は無いみたいだな。

ん?先生が持ってるプラカードに学年以外が書いてるぞ?」

「なんて、書いてんだ?」やっと治った

「『座席が足りなくてすみません。手配した椅子の数間違えました』って」

「それで良いのか国立学園。他にはなんも書いてねぇのかよ」

「『お詫びにグラマスなお姉さんさんメイドや少女漫画から出てきたみたいなイケメン執事にご奉仕されながら見るか、我々教師達と同じように普通の席で見るか選べます』って書いてる。」


あ、それ見て蜂蜜の匂いに誘われるクマみたいに何人もの生徒が行った。

罠だとわかっていても掛かってしまうものってあるよな。

俺も高級羽毛を使ったフワフワ枕とベッドがあるって言われたら異能を全部使って最速で行っただろうからな。


「ユウト、贄がちょうど席を空けてくれたからよく見えるように前から2番目に行こうぜ」

「やっとお前もやる気になったか!お前の好きな所にしていいぞ……!」


俺がそんな事するわけないだろうに、泣くほど喜ぶか。

しかし本音を言ったら激怒するだろうなぁ。

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