ド田舎の夏休み

ZEN

6:30〜11:30

 ミーンミーンと、セミの声がうるさく響く夏のある日、私達は教室で汗を拭きながら、ただじっとその時を待っていた。

 キーンコーンカーンコーンと授業終了のチャイムが鳴ると同時に、ただその時を待っていた私達は、溜めていたものを吐き出すように歓喜の声を上げる。


「やったあああ!夏休みやー!!」

「遊びまくれる!!」

「先生バイバーイ!」


 先生の、やれやれといった顔をよそに、生徒が嬉しそうにいつもより早く次々と下校していく。

 そう、明日からは夏休みなのだ。


 ここは田舎でもドが付くと胸を張って言えるくらいのド田舎。

 ここでは電車のことを、汽車と呼び、その汽車も二時間に一本のペースでしかやって来ないので、家に帰るために一時間二時間待つこともよくあった。


 この日は家が目の前にある幼馴染が車で帰るというので、幼馴染とともに一緒に連れて帰ってもらった。


 私の夏休みの過ごし方は大体決まっている。

 足繁く通う場所があるのだが、そう、私は高校生にもなって川へよく泳ぎに行くのだ。小学生だらけだって構いやしない。そう、泳げるのは今しかないのだ!


 泳ぎに行くといえば、普通はプールや海じゃないのかという声が聞こえてきそうなので先に言っておくと、プールは近くに無い!

 小学校の水泳の授業もプールが無かったので、水泳は川でやっていたのである。

 海はというと、砂浜広がる海が近くにはあったのだが、海に入った後に髪が潮でキシキシになるのが不愉快だったのだ。その点川は服に砂がたくさん入る事もないし、川からあがった後も髪がキシキシにならずに済むので、デメリットが他より少ないのだ。


 私は次の日が晴れになることを願って、虫の鳴き声を聞きながらやがて眠りについた。


「起きろー!!!」


 元気良く部屋へ飛び込んでくる弟に強制的に起こされ、一緒にリビングへ降り、朝食をとる。

 夏の朝は早い。太陽もこの時期ばかりはやる気を出すようで、なんならもう少しやる気を抑えてくれても構わないのだが、こればかりはどうしようもない。


 朝食を早々に済ませると、私は自分のへと向かう。私には3人の弟がいるのだが、それぞれにお手伝いとして毎日やるが割り振られている。


 私の朝の仕事は、まず玄関の掃き掃除から始まる。

 ど田舎なのもあり、昼間はいつもドアを開け放っているので、砂や埃が入って来やすい。溜まった埃を外へ掃き出し、玄関口が綺麗になったことを確認したら次の仕事だ。


 私はこれを密かに楽しみにもしている。それが家の前の花壇スペースの花に水をやる事だ。

 私はこの時、家族に見られないように小さい声で花に声をかける。

 不思議な事なのだが、花に水をやるときにおはようなんて声をかけると、昼頃には茎をしゃんと伸ばして皆立派に咲くのだ。逆に話しかけなかった日にはなんだか元気がないような感じになるので、なんだか花が私の話をちゃんと聞いてくれているような気がして、愛着がわき、毎朝の水やりは私の癒しでもあったのだ。


 そして花への水やりが終わると家の前に打ち水をして、家の中に戻り、昼までずっとセミの声を聞きながら夏休みの宿題の消化に務めるのであった。

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