第43話 子作り

 ペタペタと僕の身体に誰かが触れている。

 温かい何かが腕や脚、それから胸やお腹へと触れて、その感触で僕の意識が覚醒した。

 ぼんやりとした視界に、僕の部屋の天井が映る。照明が点いていないけど明るいし、そんなに時間は経っていないみたいだ。

 だけど、相変わらず僕に触れる何かは止まらない……って、ちょっと! どこを触っているんだよっ!


「……な、何!?」

「あ、優君。起きた……」

「その声は、琴姉ちゃん!? 何を……って、何で僕の手足が動かないのっ!?」


 首は自由に動くみたいだけど、どういう訳か手足が動かない。

 何とか上下左右に首を動かしてみると、僕は自分のベッドに寝かされ、何故か手がロープか何かで縛られていた。しかも、どういう訳か服を着ていない。

 脚も動かないので、おそらく同じように縛られているのだと思うけれど、この感じだと、下半身も脱がされているみたいだ。


「ねぇ、琴姉ちゃん。これはどういう事? 一体、何をしているの?」

「……優君が悪い……」

「何がっ!? ねぇ、説明してよっ! 僕が悪かったのなら、謝るからさっ!」


 動けないまま、琴姉ちゃんに向かって叫ぶと、視界に琴姉ちゃんが映る。どうやら、先程まではベッドの上でしゃがみ込んでいたらしい。


「って、琴姉ちゃん!? どうしてパンツを履いてないのっ!?」


 普段は最低限の衣類――キャミソールとパンツを着用していた琴姉ちゃんだけど、何故かパンツを履いていない、ほぼ全裸の格好で近寄って来る。

 僕が寝ているベッドの上で仁王立ちしているから……あぁぁぁ、ダメだってば! 見えちゃう! というか、見えてるっ!


「優君。これ……どうやったら大きくなる?」

「はい?」

「優君から聞いて調べた子供の作り方では、これがもっと大きい……。どうすれば良い?」


 これ……って、話の流れからすると、間違いなくアレの事だよね!? というか、僕が眠っている間の変な感触って、もしかして琴姉ちゃんなの!?


「ちょっと、待って。子供の作り方……って、琴姉ちゃんは一体何をする気なの?」

「今から子供を作る……」

「子供を……って、何を言っているのさっ! 琴姉ちゃん、一体どうしちゃったの!?」

「……優君がミウちゃんと遊ばせてくれない。見る事も出来ない……。だったら、自分で可愛い女の子を作れば良い……」


 え!? 何を言っているの!? 確かに、ミウちゃんの状態が状態なので、会えないようにしたけどさ。

 だから自分で子供を作る……って、発想がぶっ飛び過ぎているよっ!


「待って! ミウちゃんとなら会えるし、一緒に遊べるから!」

「本当? いつ?」

「……た、多分、明日には」

「無理……。もう我慢出来ない。あの可愛いミウちゃんに今すぐ会って、スリスリしたい」


 どうしよう。ミウちゃんに会わせられない理由を話しても納得してくれるとは思えない。

 かと言って、見せる訳にはいかないから、何とか琴姉ちゃんを説得しないと。


「あのね、琴姉ちゃん。子供を作るっていうのは、好きな人とじゃないとダメなんだよ」

「大丈夫。私は優君が好きだから……」

「えっ!?」

「お仕事もちゃんとする。家の事は優君にお願いするかもしれないけど、大丈夫。優君は出来る子……」


 琴姉ちゃんからあっさりと好きだと言われてしまい、一瞬思考が停止してしまう。

 従姉弟で幼い頃に時間を共にした琴姉ちゃんが、久しぶりに再会したら凄く綺麗になっていて、僕の事を好きだと言ってくる。

 でも、それでも僕は明日香の事が好きなんだっ!


「優君。優君との子供を作るために、これを大きくして……。私が調べた資料では、ベッドに縛り付けられた男の人のこれが、勝手に上を向いてた……」


 琴姉ちゃんは一体何を見たんだっ!

 何を参考にしたのかは突っ込まないけど、だから僕はベッドの上で縛られていたのか。


「……って、あれ? そもそも、どうして僕はベッドの上で眠っているの!?」

「お茶に睡眠薬を混ぜた……。本当は眠っている間に子供を作ってしまおうと思ったけど、分からなかった……」

「睡眠薬……って、どうしてそんな物を持っているのさっ! それに、そんなの飲ませないでよっ!」

「大丈夫。私が自分で作ったから危険性は無い……。それより、これを大きくして欲しい……」


 そう言って、琴姉ちゃんがベッドから降り、僕の視界から消える。

 良かった。あのまま琴姉ちゃんの裸を見ていたら、どうなっていた事か。

 しかし、睡眠薬を作ったってアウトじゃない!? 詳しく無いけど、法律とかあるよねっ!?

 そう言えば、数日前に琴姉ちゃんからサプリメントだって言われて何かを飲まされた後、急に眠くなった事があったけど、あれも睡眠薬だったのだろうか。

 頭が良いのは知っているけれど、モラルや常識をもう少し学んで貰わなければ。


「ちょ、ちょっと琴姉ちゃん!? 何しているの!?」

「どうしたら、これが大きくなるかと思って観察を……」

「ダメだって! じっくり見ないでっ! ……ダメ! そんなとこを触ったら、本当にダメなのっ!」

「……あ。なるほど。これが正解……?」


 はい、正解です……じゃなくて、ヤバいヤバいヤバい。

 いくら明日香への想いで抑え込んでいても、直接攻撃には堪えられなかった。

 このままだと、洒落で済まない事になる。

 何とか、何とかしないとっ!


「琴姉ちゃん。ダメだよ。琴姉ちゃんの気持ちは嬉しいけれど、僕には好きな人が居るんだ」

「知ってる。だけど、大丈夫。一夫多妻制が認められている国もある……」

「日本では禁止だよっ!」


 琴姉ちゃんが耳を貸してくれず、僕も大変な事になってしまっている。

 これで、もしも琴姉ちゃんが妊娠でもしようものなら僕は責任を取るだろうし、そうしたらミウちゃんは元に戻らなくなってしまうし……そうだ。ミウちゃんだ。これで、琴姉ちゃんも考えを改めてくれるはず!


「琴姉ちゃん」

「優君、どうしたの? 協力してくれる気になった……?」

「違うよ。そうじゃなくて、琴姉ちゃんは僕のトラウマを忘れたの? 前に話したよね。僕が小さな子供が苦手だって」

「聞いたけど……?」

「琴姉ちゃんは僕に家事や育児を任せるつもりみたいだけど、子供が苦手な僕が子育てなんて出来ると思う? 両親から構って貰えない子供が、ミウちゃんみたいに可愛くなると思う?」

「……それは、でも……」

「琴姉ちゃん。優子が保育士の本をいっぱい持っているから読んでみて。子供には、両親からの惜しみない愛情が必要だって、きっと書いてあるから」


 ミウちゃんは、リナさんと僕の子供である川村優太から、沢山の愛を貰って育ったはずだ。

 それは子育てをした事のない僕にだって分かる。

 琴姉ちゃんだって自分の子供が生まれたら、きっと物凄く愛するだろう。だけど、琴姉ちゃんは子供を作るって意味をもっと深く考えて欲しい。自分の子供に、全力で愛情を注げるように。

 僕の想いが全部伝わったのかは分からないけれど、


「……分かった。先ずは読む。子供を作るのはそれから……」


 琴姉ちゃんがゆっくりと部屋を後にした。

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