15

「長塚さん、少し待ってくれる? 桐谷君、君は結局何が言いたいの? 彼女の言葉を否定するの?」


 時坂は俺の言いたそうな言葉に興味深そうに見つめてくる。あまりこちらを見つめられても困るんだけど……。


 そう言われると言わざるを得ない俺は笑みを浮かべた。


「言葉通りだ。時坂は間違っていない。そして、長塚もまた、間違ってはいない事だ。例えば、同じ力を持つ同士、ぶつけ合ったらどうなる? 考え方はほかでもいいんだけどな……」


「考え方は別でもいいのね……」


 俺の親切なヒントをしっかりと聞いた時坂はそれを頼りに考えているようだ。そして、長塚も同じような事をしている。


 たぶん、この答えを最初に見つけたのは誰よりも平凡な俺であろう。下にいるほど上の方がよく分かるとはこのことだ。



     ×     ×     ×



 しばらくの間、二人がシンキングタイムに入っている中で俺は自分なりの星砂を作っていた。


「例えば、赤と青の二色の絵の具を混ぜると『黒』になる。塩と砂糖を混ぜると、甘辛くなる。結局は全てがダメになるわね。あれ? もしかして……」


 時坂が何かに気がついた。そして、自分が作った星砂をじっと見つめる。それからしばらく黙り込んでしまう。


「なんだ、難しい事を言っているようで簡単な事を言っていたんだ……。君の考えはよく分かったよ」


「理解してくれたみたいで、どうも……」


 ちょっとうざったい態度をしてくる長塚に対して俺は礼を言う。その逆転の発想を生み出した俺の事が気に食わないらしい。


「つまりは、間違っていたのは手順や材料じゃない。時坂と長塚自身なんだよ」


 長塚は緑の星砂を撫でるように触った。


 だが、星砂はザラザラしており、さらさら感は全くなかった。


 そう、これこそが失敗作ではないというのだ。


「あっ! そうか!」


 長塚の目は緑の星砂の事で夢中になっていた。手に載せて、匂いを嗅ぎ、舌で少し味見をしてみる。


「これは失敗というよりも時坂さん本人の色。つまり、私が青色の星砂を作ったように時坂さんは無意識に緑色の星砂を作ってしまったんだ!」


 やっと、その解答にたどり着いた長塚は首を縦に大きく頷きながら納得していた。そして、俺の方を睨んでくる。


 時坂は何を言わずに長塚が言った言葉を理解して、ホッとしていた。そして、俺を睨みつける。


 なんで、俺が悪者みたいになるんだよ……。


「そういうこった……。分かっただろ?」


「腹が立つよ。魔女に恥をかかせるなんて……」


 俺は溜息を漏らす。


「すまなかったな……」


 そう言って、俺は俺なりに星砂を作り続ける。


「この男、腹立つ」


「……お前に言われたくない」


 最後に時坂がもう一発対空射撃を撃ち込んでくる。それは一発というよりも千本の矢のように見えてくる。


 ぐつぐつと、俺の星砂は沸騰前に来ている。

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