3

 アーサーは深い溜息をついた。


「炎帝竜が近々姿を見せるようだな。竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーが動き出すとすると、これは大幅な被害を予測しておいた方がいいぞ」


「ええ、炎帝竜ジークフリート。火の魔導士の中で最強といわれるほどの力ですよね。誰が、その力を手に入れるんでしょうね?」


 魔法界において竜が姿を現すのは異例の事である。


 魔導士ギルドの中で五本の指に入るのが、ミラたちのギルド『レギンレイヴ』である。彼らはイギリスの中央で活動をしており、拠点はロンドンである。他にも魔導士ギルドはイギリス各地に広がっている。


 そして、イギリスで竜が目撃された。


 それはすぐにすべての魔導士の耳に入り広がっていった。竜はいつ、どこに現れるのかも分からない存在。世界中を駆け巡り、見つけ出すのは至難の業である。


 そして、竜の討伐がクエストの依頼として表示されたのは一週間の前の事————


 だが、竜の討伐に迎えるのはS級の魔導士のみである。


「うちのギルドにも竜討伐クエストが届いたが、人間は竜には勝てないとワシは思っている。そう、どんな魔導師であってもじゃ」


「それはそうですけど、私だったらどうですか?」


 ミラは溜めたって言ってみた。


「……ミラよ。お前、竜殺しをするつもりでいるのか?」


「そうですよ。なんとなくですが、自分の実力と竜の実力、どちらが上なのが知りたいんです。マスター、ダメですか?」


「まさかとは思うが、お前、本当にやるつもりでいるんじゃな? 誰の手も借りずに……」


 呆れて言うアーサーに、ミラは澄まし顔で頭を垂れた。


「はい。私の手で本当に殺すつもりですよ。だって、この国が亡ぶのは嫌ですから……」


「なんちゅう大した奴だ。いや、ここは任せても良いかもしれないな」


 そう言って難しい顔をしていたアーサーは、やがて表情を改めた。


 ギルドの紋章が見える。剣と剣が交差して、その間に誰か人の形をしている。


「分かった。このクエストの依頼はお前に任せるとしよう。ミラ、我がギルドの誇りをもって、存分に戦ってこい!」


「マスター、ありがとうございます。でも、誰かに先を越されたら越されたで私にとってはどっちにしろ、メリットなので気にしなくてもいいですよ」


 微笑むミラに、アーサーはこの後の展開を想像していた。


「言っておくが、魔法省に迷惑をかける事だけはやめてくれよ。魔法省は、この世の魔法に関する事を維持している場所だからな」


「はい、はい。分かっていますよ。まあ、少しだけは覚悟しておいてください」


 ミラは微笑んだ。


「このことは誰にも言わないと約束しておいてくださいね!」


「分かっておるわい。あーあ、ワシは何事もなくその元気な姿で帰ってくることを願っている。もしもの場合は、皆に話すからな」


 アーサーは目の前に置いてる酒を一気に飲み干して、眠り始めた。


 ————炎帝竜、竜が集いし時は、刻々と刻まれていく。己の信念を持ち、少年少女はそれぞれの道を歩んでいく。

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