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 三〇二号室を飛び出したカルディアは、直ぐ様近くの地下避難区画入り口へと入り込んだ。

 市街地に開いた地下施設への入り口、色とりどりの町並みから灰一色の世界へと入っていく階段。

 それを、カルディアはあっと言う間に駆け下りていく。まるで疾風のような、人ならぬ速度だった。

 その階段の途中で、カルディアは走りながら壁に右手を触れる。一見すると、何の変哲も無い壁だったが、カルディアが触れた瞬間、その壁はがたりと倒れて大穴を開ける。

 それは、第一〇六八コロニー内に張り巡らされている特殊連絡通路網への入り口だった。開けた連絡通路網への穴へと、カルディアはその身を躍らせた。

 特殊連絡通路網は、第一〇六八コロニー内のとある場所へと直通の高速移動システムが働いている。それは滑り台やスライダーのようなものだった。

 滑り落ちていくようにして、カルディアはとある場所へと辿り着く。

 そこは、あまりに広く、あまりに天井が高い空間だった。地下空間に存在する、巨大な箱のような空間。

 カルディアはそこに着地すると、空間の中央に存在するものに目を向けた。

 それは巨大な――あまりにも巨大な、人型の機械だった。

 広大な空間にあって、その人型はなおも巨大だった。まるで、天へとそびえ立つ柱で有るかのように。

 人型と言っても、その姿は完全に人体を完全に模したものというわけではない。

 両肩は大きく張り出しており、両腕両足は太い。まるで、巨人が白い装甲か甲冑を纏っているかのような姿をしている。

 白い柱。巨大な守護像。

 否――そこに有るのは、白い機械の巨人スーパーロボットだった。

 その胴体部中央には、翡翠色をした、宝玉のようなパーツが存在する。

 カルディアは見上げてそこに視線をやると、地を蹴って跳躍した。白い機械の巨人スーパーロボットの大きさは、頭までで四〇メートルほど。その胸部の高さまで、カルディアは一飛びで到達する。人の粋を超えた身体能力という他なかった。

 カルディアが翡翠の宝玉へと触れる。その瞬間、宝玉が波打ち、カルディアの右手が――そしてその全身が、宝玉の内側へと飲み込まれていく。

 翡翠の宝玉と見える物体は、当然の事ながら宝玉ではない。機械の巨人スーパーロボットの内で、もっともデリケートな部品を保護するための、ショックアブソーバーなのだ。

 もっともデリケートな部品――それは当然、主にタンパク質と水分で構成された、対人インターフェイス部に他ならない。

 カルディアの身体を完全にその内へと収めると同時に、機械の巨人スーパーロボット二つの目ツインアイが、宝玉と同じ色に輝く。

 それは巨神像が、意思を受け入れた証左だった。

 同時に、機械の巨人スーパーロボットから声が響く。

第四機関IVエンジン駆動開始。第一〇六八コロニー攻勢防御機構、登録名称コード――パラディオン、起動」

 機械の巨人スーパーロボット――パラディオンから響く声は、カルディアのものだった。

 パラディオンはカルディアをそのパーツとして取り込むことにより、機体として完成するのだ。

 パラディオンは都市防衛機構パラディオン・システィマから送られてきた情報を精査。砲撃による都市の損傷と、撃ち出された砲弾が、都市に居座っている事実を認識する。

 パラディオンは推論する。

 撃ち込まれたものがただの砲弾なら、あのような形状を保ったままで居るのはおかしい。ならば、あれは砲撃ではない――正確には、砲弾によるダメージを目的とした攻撃ではないのではないか。

 では、あの砲撃は何が目的か。攻撃の意図は当然存在したはずだ。

 あの球体がそのまま残っている意味はつまり――

「輸送、か」

 そう考えるのが、妥当であろう。

 砲撃は、あの球体を送り込むために行われた。あの球体こそが、敵である。

 で、有るならば――都市の守護者パラディオンが取るべき行動は一つ。

 この都市を脅かす存在は、全て排除する。

「パラディオン――出撃」

 パラディオンの足元が、がたんと音を立てて揺れる。

 それは、この施設内部に取り付けられた昇降機だ。その用途は、当然、パラディオンを地上へと輸送すること。

 大地が競り上がり、パラディオンは地下から地上へと持ち上げられる。

 機械仕掛けの箱庭から、現実世界へと。パラディオンがレイヤーを越えていく。

 パラディオンが天蓋に近づくと、天蓋が中央部から二つに割れるようにスライドする。パラディオンを、外へと出すために。

 外へ、地上へ。パラディオンが頭を、その身体を表していく。

 パラディオンが立つのは、第一〇六八コロニーの道路の一つ。中央塔セントラルに程近い位置。

 割れた空の下、ビルの谷間に白亜の巨人が立つ。

 その視線の先に存在するのは、当然の事ながら、件の球体である。

 大きさは、パラディオンと大差ない。なんとも巨大な球体だ。

 パラディオンの翡翠の双眼が球体を認識する。排除すべき敵として。

 だが、それは球体も同様だった。パラディオンが地上に立った瞬間、その身の変容が激しくなる。

 まるで巨大な見えざる手によって、捏ね繰り回されて形を弄くられているかのようですら有る。

 ――実際、それは間違っているわけではない。

「――構成材質の状態変容を確認」

 球体の状態を確認して、パラディオンは言う。そして、球体が姿を変えようとしていることを確認する。

 球体の構成材質――ナノマシン・ケイオスが、その状態を変異させている。球体は、別の何かになろうとしているのだ。

 それはつまり球体もまた、戦闘態勢に入ろうとしているのだろう。ならば――

「――仕る!」

 パラディオンは拳を振り上げ、道路を蹴った。同時に、各部――特に、脚部背面のスラスターに点火。

 パラディオンの巨体――その大質量が、スラスターの噴射炎に押し出されて、急激に速度を上げる。巨体の加速に、大気がついて行けずに悲鳴を上げた。

 金属製の巨体が唸りを上げて、ドームの中を疾駆する――

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