第11話

 シャドウの記憶が途切れ、一行は再び霧の中にいた。


「あああああ! これは! 例の! 白雪姫の想区事件のときですね⁉」


 興奮して大声で叫ぶアリシア。そのまま解説へ移る。


「白雪姫の想区に辿り着いた『調律の巫女一行』はそこで『調律の巫女』の過去を知る! また、『調律』という力がレイナ・フィーマンに宿るストーリーテラーの力によるものだと分かって悩む調律の巫女! そこに敵がさらなる追い打ちをかける! 『調律の巫女』史上、最大の苦悩と呼んでも過言ではないこの想区は――」

「おい、落ち着けお嬢サマ。巫女さんもおチビたちも引いてるだろ」


 ティムの声で我に返ったアリシアは恥ずかしそうに髪をくるくるといじる。


「ま、まあ、そんなピンチに“シンデレラの幼馴染”エクス! “桃太郎の相棒”タオ! “角のない鬼”シェイン! “通りすがりの魔女”ファム! “白き盾”エイダ! “青バラの従者”クロヴィス! そして“調律の巫女”レイナ・フィーマン! この七人は協力して教団に立ち向かうのよ!」

「………え?」

「………いま、タオ兄も含まれてました?」


 アリシアの解説にレイナとシェインが不思議そうに首をかしげる。

 一行はアリシアのマニアとしての知識を信用していたのでレイナたちが疑問を持ったことに対して疑問を持つ。


「……そういえば、今の記憶にはタオさんの姿はなかったな」

「それにシェインちゃんが『タオ兄が帰ってくるまで』って言ってたよね。……どゆこと?」


 レヴォルとエレナの問いにシェインが言葉を選んで答えようとする。

 思い出したくない、語りたくない記憶を無理矢理口にする。


「……以前に、タオ兄が『調律の巫女一行』のスパイのようなことをしていたと言いましたよね? それがみんなにバレたのがこの想区なんです。それでタオ兄は『調律の巫女一行』から離脱して、ロキさんたちと……。……こんなこと言いたくはありませんが、あの時のタオ兄はむしろ敵側でしたよ」


 それなのに何故、と頭をひねるシェインを見てパーンが遠慮がちに言う。


「恐らく……ロキとカーリーがその事実を隠蔽したんだろう。『調律の巫女一行』に関する情報をまとめていたのも彼らだったからね。それに僕らも授業ではその話に触れないようにと言われていたし」

「あいつらがそんなこと……」

「意外でしたね……」


 パーンからの意外な解答に、レイナとシェインからため息が漏れる。まさか彼らが敵対していた調律の巫女一行じぶんたちのことをそんな風に庇ってくれているとは思ってもみなかった。


「エクスさんはあの時も仲間だったんだよね? じゃあ何で今はシャドウに――」

「他人の過去をあまり詮索しないでよ……。もうあんなこと、どうでもいいことだ」


 エレナの声を遮り、暗い声が聞こえてきた。

――シャドウ・エクスだ。

 彼を認識した一行は一斉に導きの栞を、レイナは剣を構える。シャドウ・エクスはその様子を嘲るように笑った。


「はは、そんなに構えないで――」

「――ふざけないでください」


 シャドウ・エクスは自分の言葉を遮ったシェインの方を見る。シェインは導きの栞を強く握りしめ、シャドウ・エクスをじっと見据える。


「馬鹿にしないでください。シェインたちだってここまでの道程で強くなっています。なめてかかると痛い目に遭いますよ」

「……なめてかかったことなんて、一度もないよ。昔も……今だって、君たちは強い」


 不敵に笑って見せたシェインに、シャドウ・エクスは言う。どこか寂しそうに、どこか悲しそうに、どこか悲痛に。“シャドウ・エクス”の表情から“エクス”の想いを見たような気がした。

 けれど、そんなことは関係ない。“シャドウ・エクス”を倒して“エクス”を助けると決めたのだ。

 揺らぐことのないシェインとレイナの瞳を見てシャドウ・エクスは顔を歪める。それから、いつものように貼り付けたような笑顔に戻って宣言した。


「さあ――喧嘩祭りを始めようか」

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