第3話

「エクスさんがシャドウに……。なんで、いつもエクスさんばかり……」


 シェインが悔しそうに歯ぎしりをする。百年前も今も、エクスのせいではないのに辛い思いをしている彼のことを思うと胸が痛かった。


「姐さん、気持ちはわかるけど今は……」

「分かってます! ……すみません、ちょっと頭を冷やしてきます」


 額に握りこぶしを当て、ため息を吐くとシェインは祠の外に出た。一人では心配だから、とキュベリエがそれにつきそう。


 シェインが祠の外に出たことを確認すると、レイナが口を開いた。


「ごめんなさい、ずいぶんと久しぶりに会ったものだから私もあの子も抑えがきかなくて……」

「いえ、構いません。シェインさんのあんな嬉しそうな表情とか、初めて見ましたし……」

「そうだね。シェインちゃんが思いっきり泣いてるところも初めて見たよ」

「そうなの? 私たちといたころのシェインは表情がくるくる変わって、いつもタオにべったりだったような……」

「そういえばカーリーたちからそんな話も聞いたな」


 シェインの話をきっかけに、思い出話に花が咲いていく。レイナとパーンが百年前の出来事を話す様子を、アリシアたちは黙って聞いていた。

 一通り話し終えると、ふとレイナが真剣な声のトーンで言った。


「それにしても、シェインに新しい仲間ができたみたいで良かった。あんな形で別れてしまったし、ずっと心配していたの……」


 シェインと別れた時のこと、シェインに自分たちの希望をすべて背負わせてしまったこと、百年もの長い間シェインを一人にしてしまったこと。それを思うと、シェインにはとても辛い思いをさせてしまっただろうと、ずっと後悔していた。


「仲間を見つけて、とは言ったけど、あなたたちみたいな仲間ができるとは思ってなかったの。シェインは幸せ者ね」

「……俺たちは絶対姐さんを一人にしないって約束したからな」

「そうね。シェインさん、ああ見えて寂しがりやだし」

「だーれが寂しがりやですか、姉御も変なことばかり吹き込まないでください」


 ちょうど祠に戻ってきたシェインが不満を漏らす。だがその表情はどこか嬉しそうだった。

 レイナは少し笑うと真剣な表情になり、一行に向けて言った。


「エクスのことを救いたい。けれど私一人では何もできない……。お願い、あなたたちの力を貸して」


 一行が顔を見合わせる。が、答えはもう決まっている。

 レヴォルが答えようとしたのをシェインが遮り、レイナに笑う。


「エクスさんは、シェインの仲間でもあるんです。力を貸してほしいなんて、水臭いこと言わないでくださいよ」

「シェイン……」

「ま、姐さんの仲間なら仕方ねえな」

「こらティムくん! 素直じゃないんだから!」

「一緒にエクスさんを助けようね!」


 祠の中に温かい雰囲気があふれる。レイナとシェインは顔を見合わせると、一瞬泣きそうな表情になってから微笑んだ。


「話はまとまったようですね。それでは……」


 キュベリエが呟くとレイナの体が淡い光に包まれる。調律のときとは違う、確かな強さと温かさを持った光だった。

 光の中から現れたレイナは先ほどまでの赤を基調とした服ではなく、淡い緑色のワンピースのような服を着ていた。その色はレイナが調律をするときに想区を包む光とよく似ていて。蝶がモチーフになった装飾はより一層、調律の瞬間を連想させた。

 レイナが胸元についた赤紫いろのペンダントをぎゅっと握りしめた。


「これが、新生ヒーローの感覚……」

「はい。女神の加護を与えることで新しい力を得た『新生レイナ』さんです。レイナさんはもともと空白の書の持ち主なので運命の書の記述を抜き取る必要が無かったので、その分大きな力が使えますよ」

「そうなのね。えっと、武器は……」


 レイナが腰に手を当てるとそこには細身の剣がかかっていた。俊敏性に優れたような、クリスタルのように透き通った綺麗な剣だった。


「……エクスと同じ、片手剣ね」


 レイナは剣身を愛おしそうにそっと撫でた。

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