御剣学園シリーズ

夕闇 夜桜

①早瀬さんを捕まえるのは


 私立御剣学園。

 どこにでもありそうなこの学校には、七不思議には及ばないながらも、有名な話が五つある。


「早瀬ぇぇぇぇええええ!! 今日もサボりやがったなぁっ!!」


 その内の一つ、学園一のサボり魔・早瀬はやせ観月みづきと彼女を追う生徒会長と風紀委員長、そして――


「……最近、僕まで隠密スキルが上がってる気がするんですが」


 転校初日に運悪く校内で迷った挙句あげく、うっかり早瀬さんと遭遇して、知り合ってしまったことで、彼女と関わるようになるのだが――その時転校してきたばかりの『転校生』には、そんなこと知る由もなく。

 そんな彼女と関わるようになって、二週間が経ったのだが、気付いた時にはもう、珍しい『転校生』だったというのもあって、ある意味クラスで目立っていることに気付いた。


「つか、よく早瀬さんと一緒に居られるよなぁ……あ、巻き込まれたの間違いか」

「というか、よく会長たちに気付かれないよね」


 というのはクラスメイトたち談。


「良いことなんじゃない? 私にも教えてほしいなぁ」

「いや、取得方法が不明なので、教えられませんよ。あと、早瀬さんが取得できたとしても、会長と風紀委員長には見つかると思うんですが」


 現実逃避もここまでにして、そろそろ現実と向き合おう。

 ちなみに、僕は授業をサボってない。今は休み時間だから問題ない。


「単位、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよー」


 おそらく大丈夫じゃないとは思うのだが、本人がそう言うのなら、信じておこう。


「早瀬ぇぇぇぇええええ!!」


 少し離れた場所から、風紀委員長の声が聞こえてくる。


「そろそろ、この場所もバレそうだから、移動するよ」

「授業に出るという意志は無いんですね」

「私を誰だと思ってるの? 私は、『サボり魔の早瀬さん』だよ?」

「いや、それは出ない理由にはならないでしょうに」


 何を言ってるんだ。この人は。


「じゃあね。深見ふかみ君」

「はい。まあ、頑張って逃げてください」


 もし捕まったとしても、彼女の場合は逃げ出しそうな気がするが。


   ☆★☆   


「え!? 捕まったの!? あの人!?」

「そうなんだよねぇ」


 そうクラスメイトと話していたのが数分前。


「早瀬ぇぇぇぇええええ!! 今日という日は絶対に許さないぞぉぉおお!!」

「……」


 どうやら予想通りに脱走したらしい。


「懲りないよねぇ。何が彼をそこまで駆り立てるんだか」

「一回でもまともに授業を受けてる所を見せれば、あんなムキにさせることも無いと思うんだけど……」


 そこで、先程声がした方に目を向ける。


「どう思います? 早瀬さん」

「えー。体育とか体を動かすのならともかく、じっとしてるのはなー」


 運動系なら良いのか。


「あ、早瀬さん。っけ」

「おや。生徒会長様」

「彼は人質か何かかい?」


 人質……。


「いや、違うよ? これでも彼は私の友人だ」

「……」


 そう言ってくれた早瀬さんに対し、喜ぶべきか。生徒会長に目を付けられたことを悲しむべきか。


「友人、ね。君に友人が居たとは驚きだ」

「心外だな。私にだって、友人ぐらいは居るさ。学外に、だけど」

「あ、早瀬!」

「風紀委員長まで来ちゃったか」


 そう二人と話して、僕の側から離れていく早瀬さん。

 そんな彼女が向かった先は――


「外ぉっ!?」


 何の躊躇もなく、飛び降りていった。


「……」

「クソッ! また、逃げられたか!」

「ありゃ、やっぱりこうなったか。けど、何も知らされてない子とかに見せるような逃げ方じゃないよねぇ」


 硬直する僕に、「君、大丈夫ー?」って声が聞こえるけど、それどころじゃない。

 硬直が解けて、真下を見てみれば、早瀬さんが失敗したような様子はない(本当どうなってるんだ。あの人は)。


「早瀬ぇぇぇぇええええ!!」


 風紀委員長が教室を飛び出して、早瀬さんを捜しに行く。


「……」


 逃げることに関しては学園一の、捕まえられても逃げ出すような彼女を捕まえられる日は、いつか来るのだろうか?


「君も、彼女から変な影響は受けないようにね?」


 それは、どういう意味なんですかね。生徒会長。


「大丈夫じゃないでしょうか」

「それなら良いんだけど、生徒会こっちとしても標的ターゲットが増えるのは、喜ばしくないからね」


 あ、冗談でも笑えない。


「……僕も、狙われたくはありませんよ」

「それは良かった。但し、先生方は彼女を捕まえるためなら、どんな手を・・・・・使うにしても・・・・・・容赦ないから気を付けるようにね」


 ――君を使ってでも捕まえようとするだろうね。


 ああ、何てたちの悪い冗談だろう。


「……そうですか。早瀬さん、捕まると良いですね」


 生徒会長にそう言えば、そうだね、と返される。


「さて、そろそろ授業も始まる頃だし、学年もクラスも違う僕は出て行くよ」


 そう言って、生徒会長も教室から出て行く。


「……」


 何だろう。まだ授業があるというのに、どっと疲れた気がする。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る