第2話「犯人は案外身近にいるものさ。」後編

「星の動きが読めないな。」

「今日の気分で行くところをコロコロ変えちゃうから。」

「あ、あの~。私たちは何時までこうしていれば。」


正直言って、周りからの視線がいたいですお二人さん。


お姉さんがストーカーの被害にあってかもしれないと多々野さんの元に相談に来たTelephone Girlさん。そして多々野さんはGirlさんの依頼を引き受け、私の宿探しを引き受ける代わりにこの依頼の手伝いを私に言ってのけた。かくして、今こうやってGirlさんのお姉さんであるTelephone Ladyさんの後を付けて訳なんだけど。


お店の看板とか、電柱とかにうまく身を隠しているつもりなんですけど、行き交う人達が不思議そうに私たちを見つめておりまして、正直怪しい人扱いです、はい。


「星の行動パターンを把握することは事件の捜査において第一歩なんだよねこ君。」

「傍から見たら私たちがストーカーっぽいけどね。」

「それまずくないですか。」


そうなったときはそうなったときでなんとかするさと多々野さんは行くよと声をかけて先に進んで行ってしまう。

本当に大丈夫なんだろうかと肩を落とすとポンと背中を叩かれた。


「ちょっといい加減な所もあるけど、多々ちゃんなら大丈夫だよねこちゃん。」

「Girlさん、なんでそこまで大丈夫って思えるんですか?」


お姉さんがストーカー被害にあっているかもしれないという事は、身内としておちおち寝ていることもできないだろうし、決してこんな呑気にはしていられないと思う。

でも、Girlさんは警察には行かないって言い張るし…。


「ふふ。多々ちゃんが先に歩いててよかったね。」

「うぇ?」

「またぜーんぶ喋ってたよ。」

「嘘。」

「ほんと。」


ねこちゃんって変に無自覚なのねってGirlさんは笑い飛ばしてしまうけど、いや、それ結構まずいのでは。


「事務所の時も言ったけど、多々ちゃんだから信用してるんだ。彼なら絶対なんとかしてくれるって思ってるの。まぁ、ちょっといい加減な時も多いけどね。」

「…。」

「ふふ。まだちょっと納得してないでしょ。顔に書いてある。」


頬を指先でつんと突かれる。そんなに顔に出ていただろうか。地元にいたときはそんなしょっちゅう言われることなんてなかったのに。

都会に来たことで気が緩んで顔も緩みまくってるのかな。


「さ、多々ちゃんを見失なわないよう急ごう?」


手を握られぐいぐい引っ張られながら先に進む。こけそうになりつつも必死についていこうとした途中、あれ、と違和感を覚えた。いつ顔を見たのか、変に見覚えのある人とすれ違ったのだけれど、誰だっけと考える暇もなく、さぁー行こう!と引っ張るGirlさんに着いていくのに必死になった。


「…にゃ~お。」






遅いぞ君たちと多々野さんから少しお怒りを受けた私たちは改めてLadyさんの後を追いかけていた。

随分と人気のない住宅地まで来たものの、特に怪しい人物はこれといって見当たらず。多々野さんはふむと首を傾げた。


「犯人は粘着質ではあるものの、過激ではないのかもしれないな。」

「どういう事ですか?」


考えてみるといい多々野さんは足を止める事なく、先へと進みながら話し続けた。


「これだけあえて目立つようにレディ君の後をつけているんだ。そろそろ誰か僕たちが彼女を追っていると気付いてもいいだろう。彼女を気にかけている犯人であれば尚更、な。」

「目立つようにって、まさかこの格好ってわざとだったんですか?!」

「勿論。」


さも当然と言うように多々野さんは変装しからぬ変装を解いていく。


「目立つ格好の三人組が愛しの女性をこそこそつけていると思ったらなにかしらしでかすタイプだったら実力行使でどうにでもなったんだがな。だが、」


急にくるりと振り返った多々野さんはびしっと指を指示した。私とGirlさんのその後ろを。

ばっと振り返ってみるものの、そこにはこちらをじっと見据える男が立っていた。



なんて事もなく、ただただひゅーと風が吹いただけだった。


「驚かさないで下さいよ多々野さん。誰かいるのかと思ったじゃないですか。」


変に身構えたせいで心臓ばっくばくですよまったくもう!

まったく…。これで誰かが立っていたらもしかしてこのまま解決しちゃうのかもとか思ったのー!


「あれ、おかしいな。誰かの気配を感じたのだが。」

「誰かの気配っつうもんは俺のことか?」

「あでっ!!」


ごつんと多々野さんの頭に黄色と黒の棒が振り下ろされた。

それはそれは痛そうな音が鳴って、思わず私も自分の頭を押さえる。多々野さんはというと、そのまま地面に座り込んでしまった。


「いたたたたた…。」

「た、多々野さん!」

「あー!あなたは!!」


びしっとGirlさんが指差した相手。

多々野さんを殴りつけた棒をこつんと地面に叩き、スーツを少し着崩した、止まれ標識頭の男の人が立っていた。


「昼間っから女連れて練り歩いてるとは言いご身分だな。多々野よォ。」

「そのヤンキー顔負けの声は止まれ君だね!」


ごつんと二度目の鈍い音が響く。問答無用で棒を振り下ろす様は慣れているというかなんというか、これまた怖い人が現れたもんだ。


「なんでこんな所にへたれさんがいるのよ!」

「おめぇの減らず口も相変わらずだな。誰がへたれだ姦し娘。」

「誰が姦しよ!」


知り合いなのか、Girlさんと止まれ標識の人は言い合いを始めてしまった。


「まぁまぁ二人と、」

「多々ちゃんは黙ってて!」

「すっこんでろ箱野郎。」


止めようと間に入ろうとした多々野さんだが、見事一刀両断をされてしまいやれやれと頭を振った。


「こわいこわい。」

「あ、あの大丈夫なんですか止めなくて。」

「黙っててに加えすっこんでろとまで言われてしまったからね。しばらくしたら落ち着くだろう。…多分。」

「多分って…。そもそもあの標識の人って一体何者なんですか。」

「彼は止まれ標識君。あんな怖い人だけど警察官だよ。」

「警察!?」


想像しなかった単語に驚きを隠せない。だって、さっき多々野さんも言ったようにヤンキー顔負けなのに警察官って…。


「ちなみに彼はガール君のお姉さん、すなわちレディ君の…はっ!そうか、君だったのか…。君だったんだね止まれ君!」

「あ゛ぁん?!」

「多々野さん?」

「君が、君がレディ君のストーカーだったんだね!!」


見損なったよ止まれ君ときっと叫ぼうとしたのでしょう、この方は。けれどそれよりも前に標識の人が再び問答無用で振り下ろした棒によって、今度こそ多々野さんは地面に倒れ込んでしまいました。

真横で風を切るような棒捌きに私はただただ身体の震えを押さえるのに必死でした。

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