第6話 祝福の鐘が鳴り響く…

私が、あの喫茶店で澤村 あやめに出逢ったのは奇跡か?それとも、偶然か?必然だったのか?それとも、神様のいたずらか?悪魔のささやきだったか?未だに、あの時を思い出すと不思議な気持ちになるが、止めどなく涙がこぼれ落ち、温かい気持ちになるのだった。


相沢 智子(32)は相沢慎一(62)父親の溺愛を受けながら、母親の変わりに、父親が主夫となり大事に育てられた。

大変な苦労の末に、順調に育てられた。

たまに、父親のお姉さんが母親がわりには来るが、父親の方針でたまに来るだけだった。

母親は私を生んですぐに亡くなってしまい、母親の顔は私が母親を思い出すと困るので、父親が泣きながら焼いてしまったとの事。

しかし、大切な一枚だけは残してくれて、亡くなった6月15日だけは忘れない為に、玄関に飾るのが、恒例になっていた。


「そう言えば、智子は今月に結婚するんだよねぇ?お父さんには、吉岡さんは挨拶に来たの?」

「先週、吉岡さんが挨拶に来ましたよぉ!本当に大変でしたよぉ…」

「そうなんだぁ…叔母さんには、吉岡さんから事前に連絡が入ってお父さんは…それを聞いて電話ごしに泣いちゃって、大変だったのよぉ…智子が智子が…結婚するんですよぉ。最初は、笑いながら、話をしてたのに…酒を飲みながら、上機嫌だったから、嫌な予感はしたけど…途中から、大泣きしてねぇ…知っていた?」

「そうなんですかぁ?」

「そりゃ、そうよぉ…智ちゃんの為に、仕事を替える程愛情たっぷりに育ててもらいながら…慎ちゃんが悲しむわよぉ。」

「でもなぁ…恋人でもないのにべったりだとねぇ…」

「良いじゃないのぉ!うちはまったく、逆よぉ!帰っても、挨拶なしに自分の部屋に閉じ籠るし…長男は結婚してから、正月とお盆に帰るだけだし、次男は顔さえ出さないし…この年齢まで、家に入れて大事に育てられ、お小遣いまでもらえのはあなただけよぉ…」

「私も、何度も断っているけど…貰わないと拗ねるから大変よぉ!前も、もう知らないって…おねいみたいになるし…」

「そりゃ、主夫業もいたについて、32年ともなるとねぇ?でも、化粧水と乳液をつけてファンデーションまでつけて、若さを保っているので、私以上に女心が解るので関心だなぁ…でも、外では男ではあるから、いつもは女性が寄ってくるよねぇ…私も、弟でなければ恋するなぁ…未だにカッコいいからなぁ…」

「そりゃ、家の父親は相変わらずカッコいいよぉ!60歳を過ぎているようには、見られた事がないなぁ…たぶん、40代にしか見られないかも…茂さんもびっくりしていた…」

「でもなぁ…慎一も今年で62歳だから、無理は出来ないでしょ…まぁ〜ねぇ?前も、デートに合流するから、茂さんもびっくりしていたけど…すぐに兄弟みたい溶け込んでいるから、案外うまくいっているみたい。」

「ところで、慎ちゃんには、素敵な女性は紹介出来そうなのぉ?」

「そうだねぇ…うちの父親がカッコいいから、紹介は出来そうだけど…」

「それなら、一度、叔母さんから写真を見せてもらっても良いかなぁ…?」

「はい、良いですよぉ!それなら、来週、茂さんと昼間に横浜で逢うので午前中なら新幹線に乗ってお伺い出来ますよぉ。」

「そうなのぉ?それなら、茂さんには浜松に来てもらって、遅めのランチをしましょう?何なら、浜松でうなぎでも食べて楽しめば良いわぁ。」

「そうしようかなぁ?連絡してみます。」


「茂さん、ごめんねぇ、仕事中だった?」

「智ちゃんか?どうした?来週なんだけど…叔母さんがランチに招待してくれたので、良かったら、浜松に来れる?」

「そうなんだぁ…姉さんからのお誘いは絶対だから、もちろん行くよぉ!」

「実はねぇ?午前中に叔母さんと父親に付き合う人を選んでもらうのぉ!」

「へぇ、そうなんだぁ…俺も参加したいなぁ…」

「でしょ?でも、先に女性同士で話あってからねぇ…」

「なるほど、だから、遅めのランチなんだなぁ…でも、早めに行けると思うから来週の土曜日、12時に浜松駅で大丈夫かぁ?」

「そうだねぇ…たぶん、その頃なら叔母さんとある程度絞れているかなぁ…」

「解った、来週の土曜日の12時ねぇ?」


「叔母さん、茂さんと早速、連絡したけど…大丈夫だって。」

「そうなんだぁ…良かった!私も茂さんとは結婚する前に逢っておきたかったら良かったわぁ。それじゃ、浜松駅に8時30分に来れるかしら?」

「あぁ…大丈夫です。6時52分に新横浜から新幹線で行きますねぇ?」

「ありがとうねぇ…少し、早いけど、話はじめると長いからねぇ…じゃ、待ってますねぇ?」


いよいよ、明日は久しぶりに叔母さんに逢うなぁ…事前に父親のお見合い写真でしょ?

明日の浜松について、父親には内緒にしなきゃ…どうしようかなぁ…?


「お父さん、急に高校の時の同級生の奈津美と浜松に旅行に行く事になったのぉ?」

「そうかぁ、久しぶりに逢うのか?元気かい、なっちゃんは?よし、お父さんから連絡入れなきゃなぁ…」

「もしもし、なっちゃんかぁ?久しぶりだなぁ…元気だったかぁ?たまには、遊びにおいでなぁ…そう言えば、智と旅行に浜松に行くんだってねぇ?」

「はい、そうなんですよぉ…急に決まりまして?」

「そうかぁ、うちの智と楽しんで来てねぇ。そうなんだ、先週逢ったんだぁ…もう、みずくさいなぁ…泊まっていけば良いのに…前は智がいなくても、泊まっていって、一緒にお酒飲んだり、一緒にゲームしたりしたのに…寂しいなぁ…えぇ…結婚していたのぉ!知らなかった!もぅ、ご祝辞弾んだのにぃ…そうかぁ、おめでとうございます。」

「いえいえ、近々、夫を連れてお伺いしますねぇ…はい、それでは。」

「ともちゃん、お父さんは知りませんでしたよぉ…」

「ごめんなさい、デキコンで急に決まったから…1年前に…」

ふぅ…事前に連絡しておいて良かったけど…結婚した事、教えてなかったなぁ…


「お父さん、行って来るねぇ…

だから、いらないって」

「これでなっちゃんに美味しい料理食べさせて、それに、ジャーン、冷凍みかんが出てきました。やっほい!」

「はい、はい、解りました。

持っていきますよぉ!」

「はぁ〜もう、子離れしてもらわなきゃなぁ…さすがに、疲れるなぁ…でもなぁ…ほっとけないから困ったなぁ…

今は何時かなぁ…5時30分かぁ…これなら、駅前に喫茶店があったから、朝食を食べてから行こうっと…

あれぇ?駅前の喫茶店が…リニューアルの為に閉鎖かぁ…ついて、いないなぁ…

他にお店はないかなぁ…あれぇ、こんなところに喫茶店なんてあったかなぁ…

「花言葉喫茶?」 まぁ、良いかぁ…入ろっと」


「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ?」

「あれぇ?お嬢ちゃんはここで店番ですか?店主はいないの?」

「はい?」

「私が店主ですけど…」

「えぇ…、えぇ!嘘でしょう?どう考えても、中学生…いやぁ、小学生でしょ?」

「ひどいなぁ…中学生はまだしも、小学生とは?ちゃんと、20歳は過ぎてますよぉ…四捨五入では、30歳の方が近いくらい…」

「そうなんだぁ…羨ましいぐらい」


「ちょっと、聞いて、聞いて、今ねぇ?私が中学生に見えたみたい、嬉しくて電話しちゃった!」

「はぁ?2週間前にも同じ事聞いたよなぁ…」

「ひどい!妹が可愛くないんですか?」

「そりゃ、可愛い妹だから、気にはしているよぉ…」

「なら、喜んでよぉ!」

「解った。すごいなぁ…やっぱり、俺の妹は世界一だぁ…パチパチ」

「よし、許そう。」

「そう言えば、お兄ちゃんの手伝いはどうなった…」


「すいません、すいません、すいません!

お嬢ちゃん?」

「はい、ただいま、お伺いします。」

「お兄ちゃん、また電話するねぇ?」


「はい、どうしましたかぁ?」

「あのぉ、申し上げにくいのですが…お水とか?おしぼりはないですか?」

「やだぁ、私ったら、あまりにお客さんが誉めるから電話に夢中になっちゃいました。」

「いやぁ…誉めてないけどなぁ…」

「はい?何か言いました?」

「素敵だなぁ…って!」

「もう、お客さんたらぁ…誉めても何も出ませんよぉ!ワッハッハッ…」

「あちゃ〜…」

「はい、お待たせしました。お水とおしぼりです。えへぇ…」

なんでだろう、怒れない…この不思議な感覚わぁ。


「ところで、メニューはありますか?」

「はい、ただいまお持ちしますねぇ?

今日は6月15日です。今日の花言葉と花言葉の由来をお伝え致します。

「カーネーション」〜「無垢で深い愛」です。

赤いカーネーションは「母への愛」、

白いカーネーションは「純粋な愛」、「私の愛は生きています」

ピンクのカーネーションは「女性の愛」「熱愛」「美しいしぐさ」です。

花言葉の由来〜「無垢で深い」「母への愛」

「私の愛は生きています」などの花言葉は母の日にちなみにます。ふぅ…疲れた。お水、お水、ごくごく、ぷはぁ〜!」

「ちょっと、ちょっと、まだ、私が飲んでいないお水飲むかなぁ?」

「あちゃ〜、目の前にあったから飲んじゃった。」

「新しいお水お持ち致しますねぇ?」

「はい、どうぞ。」

「はぁ…って、ちょっと、ちょっと、食べ物や飲み物のメニューはないのですか?」

「あぁ…メニューというからそっちだと思っていた。メニューはトーストとサラダ、ベーコンと卵にコーヒーです。なお、ベーコンはハムに、卵はスクランブルエッグ又はゆで玉子に変更出来ます。」

「なるほどねぇ…って、メニューはそれだけですか?」

「はい、それだけですよぉ!今日は花言葉がカーネーションだけなので、今日は色を決めて下さいねぇ?決まりました?」

「はい、ちょっと待って…花言葉の意味に何かあります?」

「あれぇ、伝えてなかったでしたっけ?花言葉に関連する言葉を選んでもらって、大切な人に出逢う事が出来て、これからの人生において、逢っておかなければならない人と逢う事が出来ます。昔の人なら、当時の姿になりますし、亡くなった人が若ければその当時ののままにお逢い出来ますよぉ!しかし、当時の年齢が自分より若いと少年や少女と話すので、ぎこちなくなりますけど…」

「まさかぁ…あり得ないでしょ…このご時世に…」

「信じられませんけど事実です。なんなら、中学生にしましょうか?鏡を見て下さい。」

「えぇ…、私だぁ、うそぉ、信じられない…パチィ、いたぁ…夢じゃないんだぁ…」

「でしょ…驚くのは早いけど…」

「ところで、決まりましたか?」

「はい、赤いカーネーションでぇ…」

「はい、かしこまりました。では、素敵なお時間をお過ごしください。」


カラン、コロン!

「智ちゃん、智ちゃんなのぉ?私よぉ!私…」

「はぁ?どちら様ですか?」

「お母さんよぉ!逢いたかったわぁ…ずっと、逢いたかったんだから…写真を見ていたでしょ?」

「あぁ…思い出した!お母さんだぁ…!お母さんに逢いたかったよぉ!」

「もう、智ちゃんたら、泣かないのぉ…」

「だって、だって…お母さんに逢いたかったのに…ぬくもりも感じる事が出来なかったから…」

「やだぁ、そんな事はないわぁ…お父さんの身体を借りて、化粧したり、一緒に買い物したり、お父さんとデートしたりしたの?覚えていなかった…?まぁ、身体を借りる時はたいてい眠くなっていたでしょ?」

「そう言えば、そうだったかも…」

「でも、何で亡くなったのぉ?」

「この際だから、伝えるけど…あなたが予定日より早く産まれそうになって急いで救急車で運ばれたのぉ…ところが運悪く、赤信号を無視した車をよけそこねて、電柱に救急車がぶつかって、私は頭を強打して、数時間後に私だけ亡くなって、あなただけが助かったのぉ…緊急だったから付き添いはおじさんに頼んだけど…おじさんも亡くなったわぁ。

おじさんはたまたま、来ていたから申し訳ない事したわぁ。

その後、お父さんと叔母さんが直ぐに駆けつけたけど間に合わなかったわぁ…もう、二人して病院の外まで聞こえるほど泣いてくれたわぁ…もう、嬉しかったけど、智ちゃんが心配で心配で…ずっと側にいたのぉ…」

「お母さん、ありがとうねぇ…知らなかったなぁ…」

「写真を燃やしたのは、私なのぉ。お父さんの中に入ったけど…急に我に返って泣きながら、燃えている写真に手を入れて火がついていない写真を一枚だけ取り出したわぁ…私はそれを見たら、涙が止まらなくなってねぇ…馬鹿な事したなぁ…ってねぇ。こんなに愛してくれいたんだなぁ…ってねぇ。」

「そうだよぉ。私以上にお母さんの一枚しかない写真を肌身、離さずにしているんだよぉ!命日だけ、玄関に飾るけど…」

「知っているわぁ…私が、側にいたかったからねぇ。でもねぇ、智ちゃんの結婚が決まったから、私は行かなきゃならないわぁ…」

「えぇ!何でよぉ!そんなの嫌だよぉ、嫌だからねぇ…やっと、お母さんの存在を認識出来たのに…そんなの嫌だよぉ…」

「泣かないのぉ…これからあなたは母親になるんだから、強くならなきゃねぇ?大丈夫よぉ、私はずっと見守っていますよぉ。」

あのぉ…そろそろ、料理が冷めてしまいますので…

「さぁ、智ちゃん、食べましょう?」

「お母さん、美味しいねぇ…お母さんと最初で最後の食事なんてぇ…」

「もう、泣かないのぉ…ほらぁ、最後に笑ってくれないと心配になるでしょ?それに、お父さんには、そろそろ、幸せになってもらいたいのよぉ!」

「そうだねぇ…」

「大丈夫よぉ!しっかりと私がいい男にしたでしょ?」

「そうだねぇ…カッコいいお父さんです。」

「祝福の鐘が鳴るときは、私はいないけど新しい一歩が始まった合図だから、頑張るのよぉ!でも、無理だけはしないでねぇ?」

「ありがとう、ありがとうねぇ…」

「智ちゃん、最後に抱かせて下さい。」

「はぁ、はい!」

「こんなに素敵に育ってくれて、ありがとうねぇ…」

「もう、お母さん、泣かないでよぉ。」

「ありがとうねぇ。ありがとう。」

それじゃ、私は行かなきゃ…

「ちょっと、お母さん、お母さん、行かないでよぉ…まだ、良いでしょ…」

「だめよぉ。もう、だめなのぉ。」

「泣かないで、頑張るのよぉ!」


「ありがとうございました。何とお礼を言って良いのかぁ…本当にありがとうございました。こんなに愛されていたと思うとまだ、涙が流れていますが…頑張って母親になります。ありがとうございました。」

「いえいえ、私も素敵な時間を共有出来て嬉しかったです。こちらこそ、ありがとうございました。ありがとうございました。お帰りはこちらになります。」


「いやぁ、本当に素敵だったなぁ…私も、素敵なお母さんになれるかなぁ…それにしても何か忘れているような…何だろうなぁ…あぁ…しまった!お客さん、お会計!会計!!」

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