第3話 目前に広がる闇

「こちら【地球圏管理局防衛部解析隊ちきゅうけんかんりきょくぼうえいぶかいせきたい】準備完了です」

「こちら【地球圏管理局防衛部考察指示隊こうさつしじたい】準備完了です」

「こちら【地球圏管理局防衛部遊撃隊ゆうげきたい】準備完了です」


 それぞれ持ち場へとついた。

 何があっても、すぐに対応できる状態だ。


 【防衛部】では、まず【解析隊】が周囲の状況を調べる。周囲に何か異物が無いか、異常が無いか、8人がかりで調べ尽くす。もし異物、異常が発見された場合には、続いて【考察指示隊】がそれらに対する考察を5人で行う。考察の結果から対処法を練り上げ、【遊撃隊】に伝える。【遊撃隊】はその対処法を基に排除を行う。ただ、その対処法の通りに上手く行くとは限らない。そのため、【遊撃隊】については各員の判断によって行動することが許される。


 …


――司令室


「【解析隊】、状況はどうだ?」


 イグアスが声をかける。


「はい、現在は異物は確認できません」

「事前に連絡があった通り、アルカノイド粒子、ニューカクスタの増幅ぞうふくを確認ができました」

「ありがとう。やはり【ブラッククリスマス】か……。今年はこっちに来たか……」


 イグアスはあごを押さえ、覚悟を決めた表情を見せた。

 機体格納庫へと通信回線を繋いだ。


「【遊撃隊】は一旦機体から降りて待機。だが、いつでも出撃できるように気を抜くな」


 通信を終えると、イグアスは椅子に座り、目前もくぜんに広がる闇を見つめていた。


 …


――機体格納庫


 ここは【遊撃隊】の仕事道具である宇宙用戦闘機体、【Battleバトル Invaderインベーダー Rideライド Destroyerデストロイヤー】、通称【B.I.R.D.バード】が置いてある場所だ。


「ついに7区にも来たか、【ブラッククリスマス】」

「地上はホワイトクリスマスだっつーのによぉ……」


 デューダーがボヤく。


「僕、配属されたばっかりなのに【ブラッククリスマス】なんて、ついてないなぁ……」


 続いてタイガが肩を落とす。


「そういえば、フェルウェインさんは【ブラッククリスマス】経験者ですよね?」


 アックスがベテランのフェルウェインに話しかける。フェルウェインは20年以上地球へと戻っていない、生粋きっすい宇宙狂うちゅうきょうだ。物静かで、仕事はきっちりとこなす、職人肌な人物である。その人柄から【ヴァジュラ】搭乗員全員から信頼されている。上司であるイグアス司令官とは同期である。


「……あぁ。第2区画の【シャンディラ】にいた時だから、7年前だと思う。あのときは隕石が数個程度だったな。【シャンディラ】は【遊撃隊】が3人しかいなかったからちょっとキツかったが、そんなに問題はなかったよ」

「なんだ、フェルウェインさんがいるなら安心じゃないですか」


 その言葉にフェルウェインが反応する。


「タイガ、決して油断はするな。【ブラッククリスマス】で起きることは、いつも俺たちの予想を裏切る」

「は、はい! すみません!」


 フェルウェインの鋭い眼光に、タイガはビシッと背筋を伸ばしながら答える。


「アックスさんは経験ないんですか?」


 アックスはフェルウェインに次ぐ【遊撃隊】歴の長さを誇る局員だ。1月1日で13年になる。


「あぁ、俺は運がいいのか悪いのか、【ブラッククリスマス】は経験がないんだ。他の区画に異動後に、異動前の区画が【ブラッククリスマス】になるってことが多かったよ」

「そうなんですね」


 デューダーとキースがチラッとタイガを見た。


「な、なんですか……!? 僕が【ブラッククリスマス】を運んできたみたいな目で見ないでくださいよ!」

「だってなぁ……?」

「アックスさんの話を聞いたか? 今まで避けて来たのに、タイガが来た途端にこれだぞ?」

「え……それは……」


 デューダーとキースの言葉にタイガは焦っていた。


「おいおい、やめとけって。たまたまだ、たまたま」

「そうだぞ。あまり新人をからかいすぎるな」

「は、はい!気をつけます!」


 ベテラン2人からの言葉に、2人も背筋を伸ばしながら答えた。


「とりあえず、全員機体のチェックはしておけ。何があるかわからない。最高の状態で出撃できるようにな」

「はい!」


 各自の機体のメンテナンスに取り掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る