報告番号JDR-0x01 サーペント族「ルーニュ・アマタツ」の場合

 サーペント族は手足の感覚が鈍い代わりに舌先の感覚に優れているとされ、人類に比べて長い舌を有するのが特徴とされています。


 今回、プロジェクトの参加者となったルーニュさんは、住んでいた世界の学校では恥ずかしがり屋で引っ込み思案のためクラスに馴染めないでいたこともあって、環境を変えた方が娘にとってもいいのではないかと思っていた両親がプロジェクトの募集を目にし、娘の同意を待つことなく応募したところ当選を果たしたため、一家で日本へと移住されました。


 娘さんのためなら自分たちの生活を大きく変えるのに躊躇いはない、とおっしゃっているのを聞いた時には親としての深い愛情が感じられました。


 ルーニュさんは成長度合いを計測した結果、小学五年生としてプロジェクトの受け入れ先となっている小学校に転入されました。


 種族の違いによる偏見を無くすため、異世界の知識を幼少期から教えられ、どのような種族に対しても自然に接して馴染める素養を育んだ子供たちが通う、新世代の教育方針を打ち出した先進のモデル校として、政府より認定された学校です。


 きっと、ルーニュさんもクラスメイトに受け入れてもらえることでしょう。


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「給食おいしい?」

「はい、おいしいです」


 転入生の隣席に座る男の子が、初めて会う種族の女の子に興味津々の顔をしながらではありますが、彼なりの心遣いで早く馴染めるよう声を掛けてあげています。


「嫌いな味の食べ物があったら代わりに食べてあげるから言いなよ」

「はい、ありがとうございます」


 食欲旺盛そうなその男の子は、自分が多く食べたいからそう言っているのかもしれませんが、ルーニュさんは丁寧に返答をしています。小学五年生としては随分と落ち着き払った姿が印象的です。


 男の子はもう食べ終わっていて、ルーニュさんの食事している様子を遠慮なく見つめていました。ルーニュさんはその視線を受けて緊張しているようでしたが、マイペースに食事を続けます。


 今日の給食には、デザートとしてサクランボがありました。


 ルーニュさんはサクランボを食べるのは初めてでしたが、似た形の果物は故郷にもありましたので、同じような食べ方をすることにしたようです。


 サーペント族特有の長い舌が口から伸び、サクランボを乗せて前後に動き始めます。


 チロチロ、チロチロと繰り返され動くのは、味と共に香りを楽しんでいるのです。舌の感覚が鋭いサーペント族は、舌から香りも感じ取れるのです。


 その様子をじっと見ていた男の子は、瞬きもせず目を充血させていて、足を閉じてもじもじしていました。


 おしっこを我慢しているのでしょうか。給食の時間なのですからトイレに行っても構わないのに不思議ですね。よっぽどルーニュさんの食事に目が離せなくなっているのでしょう。


 舌の上でたっぷりと転がされたサクランボは唾液が付着し、光沢感が増してより美味しそうに見えました。


 男の子の喉がゴクリと鳴るのが聞こえると同時に、サクランボはルーニュさんの小ぶりな口に吸い込まれました。


「うっ……」


 呻き声を上げた男の子が前傾姿勢になり、頭が食器に当たってガチャリと音を立てました。


「?」


 美味しそうにサクランボをしゃぶっているルーニュさんは、突然机に突っ伏した男の子を不思議そう見つめます。


 こうしてルーニュさんは、初めて食べる給食をひとつも残すことなく食べきりました。どうやらこの世界の料理を気に入ってくれたようです。


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 男の子の様子が気になりましたので、放課後に面会の場を設けて、何かあったのかと質問してみました。


 問いただされた男の子から返答があるまで少し躊躇ったような間がありましたが、あの時と同じように両脚を閉じてもじもじしながら感想を漏らしました。


「舌の動きがなんかえっちだった」


 それを聞いた私は反応に困ってしまいましたが、プロジェクトの成果としては今後が期待できるかもしれません。


 これからも仲良くしてあげてくださいね、と男の子に声を掛けると、なぜか私の胸を見ていた視線を慌てたように顔へと向け直して、元気に「はい!」と答えてくれました。


 どうやら彼には素直すぎる女性への関心を抑えられるような教育をする必要があるようですね。


 以上、ルーニュさんの転入初日の報告を終わります。ご清聴ありがとうございました。

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