第二十一話 【臓】
カエル型の魔物であるハングドフロッグから、因子【伸】を手に入れた僕ら。現在スロットの空き枠は僕、ニイト、マオの、計三枠である。一度付けたメダルは取り外しできないため僕らは慎重を期してスキルの取得を後回しとし、新たなメダルを求め森の中の探索を続けていた。
「おい、これも魔物なのか?」
先頭を行くニイトが見つけたのは巨大な花だった。僕らはその花を囲むように近づいていく。
花弁は普通の花と比べ非常に分厚く、大きさも僕が両手を伸ばしたぐらいはありそうだ。ニイトはこれを魔物だというが、なるほどその花弁は風もないのにうにょうにょと動いている。花の動きが『探知』に引っ掛かったことでニイトは警戒しているようだ。リビングウッドの例もある。植物だからと油断して近づけば手痛いしっぺ返しを食らうこととなるかもしれない。
僕はその巨大な花を警戒しつつエイムに『鑑定』を頼む。
「見た目は地球の多肉植物のようですが、確かに生物の反応です。名前は
エイムの緊迫した声に僕は慌てて体を反て……あれ? なぜだろう。『硬化』も発動させていないのに体が硬直し思う様に、動かない。
「サイチさん!」
エイムの声。僕は何とか応えようとする、が。体が揺らぐ。硬直した体では受け身も取れず僕は地面に倒れてしまう。ドサッと、隣では僕と同じようにニイトもその場に崩れ落ちる。
「ニイトさんまで! サイチさん、ニイトさん」
エイムの叫び声が遠くに聞こえる。ああ、ダメだ。眠気が……
*
「っ……あれ? エイム。僕はどうしてここに」
ガバと体を起こす。魔物は? 慌てて周囲を確認する僕であったがけれども目を覚ましたのは見覚えのある洞窟の中であった。体も倒れる直前に感じた硬直した感じは抜けており今は普通に動くようだ。
「サイチさん、ニイトさん。目を覚まされたのですね。お二人は魔物にやられたのですよ。ここへは私達でサイチさん達の身体を運んできました」
サイチの説明に隣を見ればニイトも目を覚ましたようだった。僕らは体を起こす。
「ごめん。みんな迷惑を掛けちゃって」
「俺も事前に『探知』しておきながら対応できなかった、すまねえ」
しゃがみこむ僕とニイトを心配そうに見つめる面々。僕らは頭を下げる。
「いいんですよ。初見の魔物です。他の誰が同じ目にあってもおかしくなかったんですからね。先の花型の魔物。あれは名を
どうやら僕らは魔物のスキルで眠らされてしまったようだ。スキルにかかった影響だろう、頭がずきずきと痛む。あの後、魔物はマオが遠距離から投石でマオが倒したそうだ。マオは【臓】の因子を持つメダルを掲げて見せる。
「【臓】の因子かよ。俺としてはあまりいい思い出はねえな」
メダルを見たニイトが渋い顔をする。【臓】の因子を使い取得した自身のスキルが原因でニイトは目を焼かれたのだ。トラウマが残って当然だ。
「サイチさん達にはほんとに感謝だよ。あの時、二人が来てくれなければもっと大変なことになってたもんね」
「ああ、あのままだったら俺はあそこで退場していたかもしれねえからな。この因子には正直いい思いはねえよ。でもよ、俺達が相手をするのは魔物とは言え立派な生物だよな。酸を生成するって言うのは強力であることは確かだ。なんとかスキルとして使えねえかな」
「別に無理をしなくともこのメダルは他のスキルの強化に使うという選択肢もありますよ」
心情をおもんばかったエイムの発言に、けれどもニイトは首を横に振る。
「いや、他に強い因子があるなら別だろうけどよ今の状況でぜいたくは言っていられねえよ……マオ。その【臓】の因子、俺にくれねえか?」
「えっ、それってもしかして」
マオは手にしたメダルを見つめる。恐る恐ると言った様子で差し出されたそれをニイトがしっかりと受け取る。
「ああ。この【臓】の因子。これで俺がスキルを取るよ」
ニイトの言葉に僕らは目を見開く。
「ニイト。また、最初の空間での二の舞を演じるつもりか? 確かにスキルで生成することのできる酸は生物であればほとんどの敵に効くだろうけれど、それはスキル保持者自身も例外じゃないということは前に取得した時に学んだだろう」
「いや、それなら酸を生成する部位を工夫すればいい。俺が取得した『酸生成』を思えば酸を生成する箇所は副次的に酸耐性を得ることができていた。最初の時は【肌】に装填しちまったから目を焼かれる結果になったが例えば、【口】に装填すれば口腔内に酸性性を得られる。それを飛ばせば十分に攻撃手段になると思うんだ」
「【臓】の因子にどうしてそこまでこだわるんだ?」
ニイトの必死な言いざまに僕は首を傾げる。別に取得するスキルに【臓】の因子を使う必要はないはずだ。【伸】の因子もあるし、これから魔物を倒せば新たな因子を得ることができる。
「なぜって? そんなん決まってるだろ。ここまでの戦い。俺だけ役に立ててねえんだ。攻撃スキルを持たない俺は今まで見ていることしかできなかった。それどころか皆に守られ足を引っ張ってばっかりだっただろ。ライノーの時も、リビングウッドの時も。俺だけ見ていることしかできなかったんだ」
絞り出すように言葉を発していたニイトは険しい目をし、顔を上げる。
「だから。今度は俺が皆を守らなきゃならねえ。それにはやっぱり力がいるんだよ。酸の力は自身の身で体験した俺が一番わかっている。だから、このスキル、俺に取得させてくれ」
ニイトが皆に向かって深々と頭を下げる。僕らはそれを受け互いに顔を見合わせる。
「うっちー。そんなに思い詰めてたんだね。ごめんね気付けなくて。うん。いいよ! 【臓】のメダルはうっちーにあげるよ。みんなもいいよね?」
ニイトの隣に立ったマオが僕らを振り返る。
「ああ。もちろんだ。これからは攻撃にも参加してくれよ」
「あひゃひゃ。ニイトもキザな事言うね。俺様だったら穴が無くても赤面した顔をぶち込んじゃうよ。俺様には戦いたがっている仲間を止める理由は無いね」
「ええ。私も賛成です。ニイトさん、ぜひスキルを取得してください」
「みんな……ああ。わかった。ありがとう。じゃあ、行くぜ! 【口】に【臓】を装填!」
ニイトが口元に持っていったメダルがまばゆい光を放った。メダルの消失を確認したエイムが『鑑定』を発動させる。
「おめでとうございます。スキル『酸生成』取得成功です。口腔内に強力な酸を生み出すスキルだそうで、これも効果のON/OFFが可能なスキルです」
「ああ。ありがとな、みんな。これで俺も戦いに参加できるからよ」
エイムの『鑑定』結果を聞き、ニイトは嬉しそうに笑う。これで全員が戦闘スキルを取得したわけだ。これからはより自由な動きが可能となるだろう。
「うーん」
「? どうしたんだ」
一同がニイトのスキル取得を喜ぶ中、マスミは一人険しい表情を浮かべていた。
「取得しといていまさら水を差すようで悪いんだけど。そのスキル、ちゃんと使えるのかなって?」
「マスミ、それはどういうことだ」
マスミの言葉に、僕は思わず問いかけてしまう。
「だって、酸を生成できるのは口腔内だけなんでしょ? 相手に噛みつきでもしなければ効果は期待できないんじゃないの?」
「言われてみれば、確かに、そうかもな」
僕はニイトに視線を向ける。
「俺だってそんな考えなしでスキルは取得しねえよ。石なんかで器を作って貯めておけばいいだろ。それを戦闘時に投げて使う」
「ああ、なるほど。それなら確かに使えそうだね」
納得したのかマスミは言葉を止める。
「あっ、ではここでサイチさん、マオさんもスキルを取得してしまいませんか」
「ん? どういうことだ」
エイムの言葉に僕は首を傾げる。残るメダルはハングドフロッグから手にいれた【伸】の因子だけのはずだ。
「実は道中で魔物に遭遇しまして。手に入れたんですよ、これを」
エイムの掌に乗せられていたのは【筋】の字が刻まれたメダルだった。
「おい。二人も欠けている状態で魔物と戦ったのかよ」
「申し訳ありません。遭遇した魔物は
「『探知』スキルを持つ俺が倒れちまったからな。みんな、すまねえ」
「いえ。結果的に無事メダルを手に出来たのですからいいのですよ」
「そうだな。じゃあ、僕とマオのスキル、取得してしまおうか」
謝るニイトに僕はできるだけ明るい声をかける。
今ある【伸】と【筋】の因子。いったいどんなスキルを取得するか。僕はマオや皆と相談しつつ自身のスキルを決めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます