第十五話 休息
既に日は、僕らの周囲を覆う木々の間に隠れようとしている。日没前に拠点となりうる洞窟を発見できた僕らの運は悪くないのだろう。
周囲を探索した結果、『探知』に水の音が引っ掛かり洞窟から遠くない位置に川も見つけることが出来た。後は食べ物があればと思うのだが生憎『鑑定』を駆使しても、見つかったのは食べても無害な草だけ。まともな栄養源になりそうなものは見つからない。
そうこうする内に辺りはすっかり暗くなってしまった。僕らはいったん洞窟へと集まる。
「皆さん、お疲れさまでした。外は日が暮れて出歩くのは危険な状態です。活動はここまでですね」
「はあ。今日は、疲れたな」
洞窟の入り口で火を囲み、僕らは一息つく。見つけた山菜を川で洗って適当な木の枝に刺したものを火のそばへ並べていく。
日没いっぱいまで食料となる物を探したのだが食べられる木の実や果実は見つからず、キノコなどは毒を含むものや可食部の極端に少ない物ばかり。川では魚が泳いでいるようであったが動きが素早い。
『操身術』を持つマスミがつかみ取りに挑戦するも速度が足りず惨敗。他に魚を捕まえられる可能性があるのは『身体強化』を持つマオだが、単独行動ができない現状だ。皆の前で女性を裸にするわけにもいかないだろう。
今、山菜を火であぶっているのは殺菌の為だ。『鑑定』で食べられると確認してはいるが、スキルでもついている菌までは判断してくれないだろう。僕らは一本ずつ枝に刺した山菜を手に取る。
「……おいしくない」
「まあ、普通の草だもんな」
よく山菜はてんぷらにして食べる絵をテレビでは目にするが当然ここには油も、調味料もないのだ。草によっては味がするものもあるが、味というより単なるえぐみである。ただの草がおいしいわけがない。
だが、他に食べ物は無いのだ。胃袋に収めるしかない。『鑑定』により食べても安全と分かっているだけましというものだろう。
「明日はぜったい、おいしい物食べようね」
マオの切実な言葉に僕らは深くうなずく。
「休むにしても見張りは立てなければなりませんよね。どういうローテーションにしましょう」
エイムの提案。確かにこの魔物蔓延る森の中だ。無警戒ではいられないだろう。
「はいはーい! 僕が決めてもいい?」
マスミが無邪気な声を上げる。その声色を聞くに嫌な予感がするのは僕だけだろうか。
「何かいい案があるのか?」
「うん。三交代制にしたらどうかな? ニイトは『探知』持ちだから向かってくる敵に対しては早い段階から気付くことができるよね。だからニイトは一人で一つのローテーションを受け持ってもらって、あとのメンバーで二人一組を作るんだ。四人中三人が戦闘スキル持ちだから突然襲われても対応できるでしょ?」
「なるほど。二人組はどういう組み合わせにしますか?」
「うん。この中で一番戦闘力が高いのは『身体強化』を持つマオだと思うんだ。だから戦闘スキルを持たないエイムと組むのがいいんじゃないかな?」
「そうすると僕と組むのは、マスミか?」
「そうなるね。よろしく、サイチ!」
「……ああ。よろしく」
笑顔で手を差し出してくるマスミに僕は自身の笑顔が引きつっているのを自覚する。何が悲しくてマスミと一夜を過ごさねばならないんだ。コミュニケーションの苦手な僕はすでに頭を抱え始めていた。
「見張りの順番はどうしますか?」
「うーん。そういえば時間を計れる道具が無いんだよね。『鑑定』で時刻的なものは分からないの?」
「無茶言わないでくださいよ。時間が分かりそうなものと言えば星の動きとかでしょうが対象が遠すぎて『鑑定』が発動しません」
「じゃあ、例えばこの木の枝。先っちょに火を付けた場合燃え尽きるまで何分ぐらいかかるとかは分からない?」
「それは……無理そうですね。太さや長さは大体わかりますがそれが単純に燃え尽きるまでの時間と比例するわけじゃないでしょう」
「ああ、それでも長さや太さは分かるんだね。じゃあ、枝が何本分燃えたら交代、みたいな感じにしようよ」
僕らはさっそく枝の一本に火を付け、燃える焚火の中心から少しだけ離れた場所に置く。一本が燃え尽きるまでどのくらいかかるのか見るためだが時計の計測方法が体感になるのは仕方がないことだろう。
「それで、明日はどうするの? 俺様としてはガンガンメダルを集めたいんだけど」
「魔物との戦闘はもちろんですが、やはり生活基盤を整えるのが先決でしょう。ざっと思いつくだけでも食料、衛生、けがの治療、拠点の防衛体制など課題は山積みです」
エイムの言葉に僕は頷く。生活面をおろそかにすれば、病院設備もない環境だ。すぐに僕らは動けなくなるだろう。そして今は魔物と渡り合うのがやっとの現状だ。長距離を移動するよりもこの洞窟を拠点に地道に力を付けるべきだ。幸いエイムの『鑑定』があるため食料や使える道具を探す手段はあるのだ。早急にここで生活していく基盤は整えてしまいたい。
「そういえばスキルは強化できるって言ってたよな。『身体強化』とかはどう強化されるのか想像できるが『鑑定』はどうなるんだろうな」
僕の問いにエイムが『鑑定』を発動する。
「得ることができる情報の量が増えるのではないでしょうか? 現状だと例えばサイチさんの情報で見ることができるのは、名前、年齢、性別、保有因子、スキルだけです。『鑑定』を強化すれば例えばレベルとか、身長体重なんかの詳細情報が見れるかもしれません」
「なるほど。知らなくて痛い目を見ることを避けられるなら優先的に『鑑定』のレベルを上げたほうがいいのかもしれないな」
「ちょっと待ってよ。スキルの強化にはメダルが必要なんだから、まずは戦闘系スキルを上げたほうがメダルを集める効率も上がるでしょ。それにまだ俺様以外のみんなは二つ目のスキルを取得していないんだから、どのスキルを上げるかはスキルを取得してから決めたほうがいいんじゃない?」
「まあ、それもそうか」
僕はマスミの言葉にしぶしぶ納得する。うん。マスミから言われると素直にうなずけないのはなぜだろう。
その後もスキルの考察をする内に灯していた枝が燃え尽きる。体感で六分と言ったところか。
「じゃあ、そろそろ休みましょう。四時間つまり、枝四十本が燃え尽きたら交代として見張りはどの班から行いますか?」
「多分二番目の見張りが途中で起こされるから一番大変だよな。ニイトはけが人だし、体力的にはマオが一番低いだろうから僕とマスミの班が二番目に見張りをしたらどうだろう」
「俺様も別にそれでいいや」
「ではまずは私たちの班で見張りをしましょうか。ニイトさんは最後の見張りをお願いしますね」
「ああ。気を遣わしちまって悪いな」
「ニイトはしっかり休んでてよ! ここでの生活はこれからも続いていくんだから無理しちゃだめだからね」
エイム、マオを残し寝床……と言っても枯草を地面の上に敷き詰め、その上に見つけた大きな葉っぱを乗せただけの簡易ベッドだが。そこへと潜り込む。
横になると疲れを自覚する。急速に瞼は閉じていく……
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