1-4

 ゲームが終了した時には、スコアリザルトで衝撃の展開が待っていた。展開的にはトップランカー有利に見えたのは間違いない。


「どういう事だ?」


「特にプレイヤー同士で戦うモードではなかったはず」


「このスコアは不正では?」


「明らかにレベルがおかしいプレイヤーもいた。これでは――」


「向こうも終わったらしいな」


「同時に終わったのか?」


「それだけ向こうのバトルがあっという間に終わったという事を意味しているのか?」


 ギャラリーの動揺は、別のフィールドで展開されていたバトルの物だろう。ヒーローブレイカーは二つのフィールドで運営されている為、向こうのスコアリザルトの話題の方が指摘されている気配だ。しかし、こちらの結果は周囲が静まり返るような結果だったのである。まるで、向こうとは正反対と言えるかもしれない。


(これが、ヒーローブレイカーの――)


 照月(てるつき)アスカが目撃したのが、向こうではなくこちらだったのはある意味でも正解だった。そのフィールドで行われていたバトルは、もはや二人だけのフィールドと言うべき展開でワンサイドゲームにも等しかったのだが。


「これが、ヒーローブレイカーよ。ゲームと言う概念で一言に纏められる物じゃないけど」


 秋月千早(あきづき・ちはや)が照月の隣に現れるが、驚くような表情ではない。むしろ、目の前の光景に魅了されていて周囲の声が聞こえていないというべきか。


(すごい。これがゲームだなんていまだに信じられない。ネットで情報は知っていたのに)


 実は数日前に、ヒーローブレイカー自体は知っていたのだが、それはどちらかと言うとVR版であってAR版ではない。そうした意味でも今回の光景は、彼女にとっても衝撃的だった。完全な初見だったら驚きは今以上だが、事前に情報を仕入れなければよかったという後悔もある。


「スコアの方は――!?」


 秋月もスコアの結果を見て驚くしかなかった。レイドボスに止めを刺したのは、間違いなく島風のパイルバンカーだろう。それでも、追いつけなかったのは彼女の戦闘パターン的な原因もあるかもしれない。



 スコアリザルトを見て悔しがったのは、三位のプレイヤーだった。表情には見せていないが、あの一撃がなければ自分が二位だったかもしれない。一位の人物は、もはや別次元と言える人物なのでこのプレイヤーも半分は諦めていた。周囲のプレイヤーのレベルを見て、おそらくはある程度の能力を察していたのだろう。それでも、二位のプレイヤー名を見て納得がいかなかったのは言うまでもない。


(大和? やはり、あの大和だというの?)


 一方で二位に滑り込んだ島風彩音(しまかぜ・あやね)は、一位のプレイヤーネームを見て表情を変えずに驚いていた。その人物とは、ヒーローブレイカーでトップランカーと言う称号を持つ大和(やまと)だったのである。彼女を超える人物は未だに現れていない事からも、ヒーローブレイカーがある意味でも壁になっているのだろう。


 人気的には大和の存在で上昇をしているが、一種のワンパターンを危惧する意見もある。それに加えて、一種のマッチポンプ疑惑もSNSで拡散していた。こちらに関しては、どうせ別ゲームへ移動してもらう為の炎上狙い、もしくはライバルつぶしと言う意見が多く、スルーされがちである。


「やっぱり、今のままではいけない。世代交代をするにしても、今の状況でやれば炎上は確実ね」


 島風とは別の場所で、先ほどのバトル録画を見ていたのは大和本人だった。身長はアーマー装着時とは違って一七〇位、それに黒髪のショートヘア、スク水と白衣の組み合わせに巨乳と色々な属性が組み合わさっている。


 その外見でも周囲が誰も指をささず、盗撮を仕掛けようともしないのは、草加市がARゲームを聖地巡礼の目玉にしようという考えもあるのだろう。


(草加市が何を考えているのかは分からない。しかし、この環境は逆に何かを生み出すきっかけになる)


 周囲を若干気にする大和だったが、録画の方に集中しているので不信なプレイヤーがいたとしても気付いていない。もしかすると、気付いていない振りかもしれないが――あえて気付かないアピールと言う可能性も捨てきれないだろう。



 その日の夕方午後五時ごろ、島風と大和のプレイ動画を見ている人物がいた。既にARゲームコーナーの周囲には違う顔ぶれのプレイヤーが多い様に見えるが、ここは草加市ではない。厳密には、足立区の竹ノ塚にあるARゲームセンターである。ARゲーム自体は草加市オンリーではなく、別のエリアでも稼働をしている証拠だ。


「また繰り返すのか――ARゲームとVRゲームの論争は――」


 大和圧勝の結果を見て、私服の女性はつぶやく。私服のセンスはあまり良いとは言えないが、周囲のギャラリーと比べてもそん色はない。逆にセンスを問いかけるとブーメラン発言となるのは間違いないだろう。


「この私、ビスマルクの出番が――来たみたいね」


 彼女の名はビスマルク、このゲーセンへ訪れたのはバイト面接の為だが、面接自体はすでに終わっている。そのついでで動画を見ていたのだが、あくまでも時間つぶしと言うような気配がした。ヒーローブレイカー自体に興味があるような様子はなく、大和と言うプレイヤーの名前を見て何か気になったと言うべきか。

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