第23話 天使の輪
イソギンチャクに似た形をしているこの土器は、土台部分は円形になっており、それが50cmほどの高さまで伸び、そこからは触手のような無数の枝に分かれている。
異物が見つかったのはちょうど土台部分の下から25cm、つまり中心のあたりだ。そこに、土台の円形より少し小さいドーナツ状の、金属らしき物体が見える。直径30cm程度、太さ3cmぐらいの輪。輪っかの内部を見ることはできない。
「縄文人は金属を扱えるのかね?」
「いえ、この時代の日本に金属は存在しないはずです。中国とかにはあったはずですが、まだ日本には伝わっていません。どっちにしろ、ここまでの精度の金属を作ることはできませんよ」
「だろうな、これは明らかに高度な文明が作ったもののように見える」
「輪っかですか。何でしょうね? 今の人間はこんなの使いませんよね」
「何かの部品というわけでもなさそうだが。頭にでもつけるのかね」
「古代知的生命こそが、天使のモチーフであったと?」
「悪い話ではなかろう?」
「うーん、なんとも」
「こには高出力か、中性子線のCTは無いのかね?」
「えっと、あります?」
なかったと思うけども、とりあえず技官さんに聞いてみる。
「ありますよ、高出力のが、最近導入したんですよねー。流石に中性子は無いですよー。原子炉や加速器は扱えないっす」
我々が使うようなX線では透過力が無いので、金属などの中を見ることができない。金属を透過させようとすると、高出力のX線か、中性子線が必要になる。中性子線を扱うとなると、原子炉や加速器が必要になってくるので流石にここには置けないだろう。
「さっそく使うことはできるかな?」
「少しお時間頂きますがよろしいですか?」
「どれぐらいだ?」
「午後3時ぐらいから測定できると思います」
「それでいい、お願いしよう」
「これで中が見えるといいんだがね」
「そうですね、少し遅いですが、お昼にしましょう」
そう言って、部屋から出ようとした時、内線が鳴った。
「みやけという方がご面会を希望しているそうですが?」
「ちょうどいい、食べながら話を聞こう」
売店でお弁当を買って、外で話を聞きながら食べることにした。
「えー、外で? この暑い日に?」
「
真っ黒なドレスのような服を着てきている。
ご丁寧に、黒い帽子、黒い手袋。
「お洗濯する隙がないんだから仕方がないでしょ」
ぶーぶーいう
「あったわよ、あの光る苔なんだけど、自然に発生したとは思えないそうよ。明らかに複数の生物の遺伝子を組み合わせた形跡とかが見つかったそう」
「ではやはり、生物を自由に作ることができる可能性は高そうだと?」
「そう、だからウイルスについて今は検討していると言っていたわ」
「ロケット班は打ち上げ計画の詳細を調べているわ」
ロケット打ち上げ計画は順調に進んでいるようだ。超大型の木星探査機を打ち上げることに関しては、各国とも不思議に思っていないようだ。
木星からなにか持って帰る気なのだろうぐらいにしか思っていないそうだ。日本の技術力ならできるんだろうと思われている。
パリキィを木星探査機と入れ替えることに関しては、秘匿レベルが高く、容易には探れないとのことだ。木星探査機を作っているのが誰なのか、だれもわかっていないと言うのだ。
もちろん政府は知っているのだろう。表向きは、ベンチャー企業共同体が制作しているということになっている。しかし実態が見えない。
こんなことに誰も気がついていないとも思えないが、確かに実物を見ることなんてないのかもしれない。搬入されるまではGCなどでお茶お濁し、木星探査機のコスプレをしたパリキィが搬入される。
だれも気が付かない。それでも、パリキィが着るコスプレ自体は、ちゃんとした測定器などがつけられるはずだし、木星までの推進力を得るための次世代イオンエンジンも誰かが作っているはずである。
日本の何処かではエンジンを作っているはずなのだ。しかしすでにパリキィは種子島に搬入されているはずである。もし秘密裏に組立作業が行われたとするならば、すでに証拠は消されているのかもしれない。この線から探るのは難しそうだ。
ロケットは打ち上げ後、イオンエンジンで加速して、スイングバイを何度かした後、木星方面へ向かう。この際、地球スイングバイも行うが、これは打ち上げから1年後になる。もし地球で何かあったとき、スイングバイを狙って捕まえることも可能だ。
しかしそれ以前に、打ち上げ後のエンジンなどの制御はパリキィに移されるので、実質的には自由に宇宙空間を移動できることになると言っていた。しかも、パリキィのエネルギー源が不明であるため、どれだけの時間宇宙空間を航行できるかも不明とのことだ。
パリキィが地球に戻ってくる可能性についてだが、先の話の通り、制御次第では地球に戻るルートを取ることの可能であるが、地上に降りることができるかについては疑問だと言う。
それはパリキィが偽装されている木星探査機に地上降下用の設備が搭載されておらず、そのまま地球に落ちると大気圏との摩擦で燃え尽きてしまう可能性が高いだろうとのことだ。
つまり地球上で、彼を作った生命体を復活させるという使命は果たせないことになる。最初からエウロパの海を目指しているのかもしれない。
「そんなところよ、この話を聞く限りじゃ、真面目に木星に行こうとしているようにも思えるんだけどね」
「いくら地球上から人間を追い払っても、自分は戻ってこれない、か」
話しているうちに、午後3時になっていた。
「最初からこっちの最新機で測定すればよかったですね」
「しかたかなろう、向こうは土器を測ると思っていたんだ、中に金属が入っているなんて思わないだろう」
「あのう、いったいこれ何なんですか? 縄文土器ですよね?」
技官が不思議に思うのも無理はない。なにせ縄文土器のかなに、未知の金属が入っているのだ。これが本当なら世界を揺るがす大発見だ。
「あー、これね、贋作の疑いがあるのよ」
「あー、贋作ですか、なるほど」
この分野ではよくある話だ、古美術品の本当の価値なんてわかない人が多いことに目をつけて、大量の贋作が作成されては世に放たれている。
それはなにも現代だけの話ではなくて、江戸時代か、もっと昔から行われてきたことだ。だからこそ、慎重にならなければならないし、技官さんも、よくある話だとすぐに納得してくれたようだ。
高出力のX線CTを使って、天使の輪の内部を測定する。時間をかければ、詳細な内部構造も想定できるそうであるが、そんな時間はなさそうなので、簡易測定で済ませることにした。待つこと10分、一枚目、ちょうど輪の中心を水平に切った画像が出てきた。
「これはすごいなまだ構造が残っているぞ」
「なんか大きいわね、もっと細かい構造があるかと思ったけど」
「縄文土器を作るときにはどれぐらいの温度で焼いているんだ?」
「600℃から800℃と言われています」
「あー、そんなに高いんだ。だったら溶けちゃってても仕方ないね」
「それでもいくつかの構造は残っているな、やはり何らかの端末のように見える」
「天使の輪型スマホですかー、私ほしいな」
「似合うのは
「それは言いすぎじゃあないのか?」
天使の輪をつけて街中をさっそうと歩くおじさんを想像して笑ってしまう。
「えっと、
「それあたしにも祖谷先生にも失礼な話じゃない?」
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