第18話 作戦研究会

「もちろん。私は協力するよ、あいつ嫌いだし」


 宮笥みやけ先生は相変わらず鋭くて、かわいい。


「無論私もだ、そのために今日まで準備してきたと言ってもいいぐらいだ」


 海良かいら先生は頼もしい。ごめんなさい、最初チャラいと思ってしまって。


「微力ながらご協力させていただきます」


 歌影うたかげ先生が微力なら私は無力だ。


「もちろん参加するわ、私の選択が結果として人類を苦しめる結果になるかもしれないなんて許せない」


 爾比蔵にいくら先生も責任を感じているようだ。そして、あのとき感情的になってしまったことを後悔している。


「来るべき未来が来ないなんて許されない」


 祖谷そたに先生は相変わらず怒りっぽいが、どれも正当な怒りだと思う。


「やれやれじゃな、こんなん絶対参加するながれやん」


 と言いながら、やる気満々な表情の菱垣ひしがき先生。



「と、みんなやる気満々のところ悪いが、話はそう簡単じゃあないんだよ」

 

海良かいら先生は、真剣な表情で、私達を見回した。


「もし奴の触れてほしくない所に触れてしまった場合、命の危険を考えなければならない。これは地球の覇者の地位を賭けた戦いだ。人一人の命なんて安いものだ」


 命の危険。確かにそうだ。でも、パリキィ氏が本当に我々の敵だとしたら、我々が今生きている事自体、不思議なんじゃないの?


「いいんじゃない? 私はやるよ、だって、私に攻撃してきたら、パリキィが敵だってはっきりわかるじゃん」


宮笥みやけ先生は怖いもの知らずである。強いな。


「確かにそうだ、そもそもまだパリキィ氏が敵かどうかわかっていない段階ですからな。攻撃なんてしたら自ら答えを晒しているようなものだ。だとすれば、奴は安易に攻撃できないんじゃないのか? 少なくとも打ち上げまでは」


「そういう考え方もできますか、まぁ、我々が攻撃される可能性については、頭に入れておいてください。確かに、打ち上げが中止になったらパリキィ氏としても痛手でしょう。しかし奴は悪魔の力を持っている。できるだけ不確定要素のない行動を取りましょう」


 悪魔の力。すべてを予測する力。パリキィ氏が本気を出せば、バナナ特売のweb広告から、私を滑らせて殺すことすらできるかもしれない力。 



 次に私達は、パリキィ氏の能力について話し合うことになった。時計は午前0時を回っていた。だが眠っている場合ではない。


 パリキィ氏の能力については、これまでにも個人間で議論したことがあるので、その話を皆で出し合うことにした。


 まずパリキィ氏は量子コンピュータかそれと同等の計算機構を持っている。さらに、人間より遥かに高い知能を持っている。


 計算能力については祖谷そたに氏が光回路の分析と彼の行動からある程度は予測することができたとのことだ。それによると、計算能力は現在世界最高のコンピューターの1億倍から無限倍とのことだ。


 量子コンピュータと我々が通常使うコンピューターでは計算方法が異なるために、これだけの幅になるそうだ、この無限倍というのは、量子コンピューターの性質をフルに使った計算が必要なときに出てくる差らしい。



「巡回セールスマン問題という単語ぐらいは聞いたことがありますかな? 例えばここには7人の人間が居ます。それぞれが別の家に住んでいるとして、セールスマンが皆の家を訪問するとします。この時、セールスマンが最短距離で皆の家を回ることができるルートを考えるのがこの問題です」


「そんなに難しいことではないように思えるが、7人でも360通りの中から選ばないといけない。これが8人になると2520通り、9人だと約2万通り。10人では18万通り、20人なると6京通りを超えるのです」


「20人ですでに京コンピューターが必要になってくる。これ以上は計算不可能なのです。これが量子コンピュータだと1秒で計算できてしまう。もちろんこれは量子コンピュータに最適な問題のひとつなのですがね」


「しかしこれが使えるということは、かなり厄介だ。つまり、奴は絶えず未来を予測し続けているわけだ。これは我々とは考え方が全く異なる事を意味している」


「我々の場合は、いくつかの計画をあらかじめ用意した後で、うまく行かなかったときに別な計画を検討する。奴の場合は全く異なる。奴にはが無いんだよ。奴は絶えずすべての可能性を計算して最良の選択を実行できるんだ」


「そんなの勝ち目なくない?」


 皆には悲壮感が見える。それはそうだ、絶えず未来を予測できる相手の裏をかくなんてできるのだろうか。


「ところがそうでもないのだよ、奴の弱点は扱わなければならない情報の量だ、これには物理的限界がある。計算能力はずば抜けているが、一度に入力できる情報に限度があるために、その能力を活かしきれないんだよ」


「奴も言っていただろう、ヤツのことを知っている人間は少ない方がいいと。あれは奴の計算能力が世界全体を扱えないことを意味すると思うね、いや、日本全体すら怪しいところだ」



「だったらこの事実を全世界に公表すれば奴は計算できなくなって勝てる?」


「それは一つの案だね」



 次にパリキィ氏がどうやって彼を作った生命体を復活させる計画であるかを考えることになった。


 そもそも、パリキィ氏はなんのために作られたのか。パリキィ氏に自ら移動する機能は搭載されていなかった。一方で、超知性の宿ったコンピューターだけが搭載されているのか? それだけでは何もできないではないか。


 ただ彼らの生きた証をを残すことが目的だったのだろうか? でもそれだと、「帰還」と矛盾する。パリキィ氏自体にある程度外界を操作できる能力が備わっていないと意味がない。


 しかし、パリキィ氏を直接調べた結果、彼の表面はセラミックスに近いが多くの穴が空いているだけで、マジックアームなどが出てくるような機構は見当たらなかったと。


 触手部分も同様だったとのことだ。そうすると、やはりあれはただの置物なのだろうか? 偶然に電磁波で通信できる我々と出会わなければ何もできなかったのだろうか? そうだとは思えないという意見が多かった。



「例えば、我々がもう滅亡するってときに、ロボットに次世代の人類を復活してもらうための設備を残すとする。どのような設備が一番可能性が高いでしょう?」


「我々の場合だと受精卵と人工子宮とか? ん――でもそれができるぐらいの危機なら、ロボットに託すまでもなさそうだね。つまりもっと過酷な環境。既存の文明がすべて滅んでしまうような状況を仮定するべきか」


「つまり、地上のすべてが消し飛ぶレベルの災害を仮定して。地下深くに何万、何十万年か後に復活できる可能性のあるタイムカプセルを置くと」


「そのタイムスケールだと、有機物を入れるのは無理があるね。かと言って、有機物なしに人間を復活させるのは難しい。次に、無機物、ロボットのようなものを地下深くに保存するとする。パリキィのようなものだな、そいつにどのような機能を搭載するべきか」


「生物を作れる機械とかどないやろ?」


 さすがに7人も居るとどんどん話が進む。いや、私は今のところ何も協力できていないんだけど。

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