第14話 触手だからって恨みを買うのを気にしないとは思うなよ


 ヴァンパイアの意識が戻ったようだ。あんだけ水飲んでも大丈夫なのか。頑丈なヤツだな。


「う……ここは?」

「たわけが。お主のために皆が迷惑したではないか」

「始祖!?触手に操られていたのでは?」

「そんなわけがなかろう!まったく……触手に操られいたのはお主よ」


 そういう時始祖は寄生生物の残骸をヴァンパイアに手渡す。ヴァンパイアがしげしげとそれをみつめている。


「これは一体」

「お主の額に生えておったわ。こちらの二人が駆除してくれたわ。きちんと礼をじゃな」

「いや、ぼくたちは別に……」


 そんなことをエウロパはいうが、ヴァンパイアは片膝ついて頭を下げている。


「ほんっとうに申し訳ない!助けてもらって礼を言わせてもらう!」

「俺たちも大したことはやってないさ。気にすんなよ」

「ありがたい」


 ブレンも内心ヴァンパイアに勝てたのが嬉しいようで、余裕の表情を見せている。現金なやつめ。俺は手持ちの現金少ないけどな。


「……ってやっぱりいるではないか!この下賎な触手が!」

「えっ」

「始祖に絡みついていたではないかこの変態触手が!滅せよ!」


 おいおいおいお前待て、なんでそんなとこだけ記憶残ってんだよ!クッソ危ねえ、キレてやがる。爪を次々突き立ててくるヴァンパイアの攻撃をかわし続ける。危ねえよこいつ!


「うわぁ!おい!だから!違うって言ってるだろ!」

「黙れ下賎の物!この世から消し去ってくれる!」

「ふざけんなあんまりナメてると触手砲ぶち込むぞこのバカ!だいたいデキモノよりはマシだが触手生えてないメスに興味ねぇよ!」

「どさくさに紛れてぼくディスってる」


 エウロパめ、俺がディスるの当然だろあんな変な演技させやがって!


「触手生えてたら気持ち悪いだろこの触手め!」

「そこまでじゃ」


 凄い速さで始祖が俺たちの間に入り込んできた。そのままヴァンパイアを投げ飛ばす。凄いな……


「ヤベぇ、目で追いきれないかと思った」


 今の目で追いきれたのかよブレン。普通追いきれないからなこの人間以外め。触手の俺がいうのも何だが。


「うっ……始祖。何を……」

「その触手にも何もされとらんわたわけが!」

「あの演技で騙される人いるんだ……」

「触手の演技が迫真だったからじゃないか」


 迫真ってブレンお前な。しかし、たしかに始祖の演技力はなかったのは否定しないが。


「演技……触手の方に気を取られて全然気づかなかった」

「お前な」


 ヴァンパイアめ……それにしても俺の演技力には問題があったようだ。次はもっと分かりやすくしよう。看板を持って「演技中です」とか書いとくか?


「とにかく何にもされとらんからこれ以上暴れるでないたわけ」

「はっ。申し訳ない。……いつかシメる」


 ようやくひと段落できた。死ぬかと思った。ヴァンパイアがまだ俺をシメる気なのが困る。今の感じだと始祖はともかく、こいつと一戦しても簡単には負けるつもりはないが。そうだ、気になったことがある。


「ところで二人はつがいなのか」

「なっ……始祖、やはりこの触手シメましょう」

「何を言っておる。あながち間違いでもないではないか」

「はっ?」

「あんなことや、こんなことをしておいてじゃなぁ……」


 やっぱりそういう関係じゃないか。茹でたクラーケンみたいになってるヴァンパイアを見て、エウロパが冷たい目をしている。


「小さい子が好きなんだね……変態だ……」

「ちがっ!これでも始祖で1000年、我でも700年は生きている!」

「見た目的には小さい子が好きな変態じゃん」

「そういう関係では……でもあるといえばあるか。何しろわが一族も絶滅寸前ではあるからな。始祖に一番近いこの者で試してはおるのだが……」


 まぁ繁殖目的なら仕方ないな。ん?どうしたブレン。


「でも始祖、体格的に無理があるのではないんじゃないか?」

「それなら心配はいらぬ。4年に一度のモノは来とるわ」

「人間の50倍だよ!」


 繁殖の問題は種によって様々だなぁ……。少女好き趣味というわけでもないんだろうから逆にそれはそれで大変そうだな。


「ところでうぬら、はっきりいってやるが、弱いの」

「うっ」


 たしかに、ブレンですら目で追うのがやっとっていうのであれば、この先もっと強敵が出てきたら危ないかもしれない。


「妾が修行をつけてやろう。それを詫びの代わりにというのはどうじゃ」


 そっと逃げようとする俺を、ブレンが掴み馬が噛み付く。おいこらお前ら、まさか、まさかと思うけど修行受けるとか言わないだろうな?な?俺は修行とか勘弁だぞ!


「おい何考えてる本気で修行する気か!」

「当たり前だろうが。ほら行くぞ!」

「がんばれー」

「そしてそちらのミノタウルス娘にも魔法の修行をつけてやるわ」

「げっ、ぼ、ぼくも!?」

「当たり前じゃ。ほれ、まずはお前ら走り込みからじゃ!」


 何ということだ!俺は修行なんて勘弁だぞ!さっさと逃げだしてやる!


 ……そう思って何度も逃げ出そうとして、始祖にズタボロにされまくった俺を見て、ほかの三人はこんなことをいう。


「修行熱心にもほどがあるだろ」

「流石に我も引くわ」

「ぼく、そこまで頑張れないよ……」


 お前ら!俺のこれ修行だと思ってたのか!修行バカばかりか!体育会系って言うんだよな人間界では。俺は文化系だと思うんだが……。もう食欲すらわかない。疲れすぎて意識が朦朧としてきた。そのままベッドに秒で潜り込んで寝た。……俺ってベッドで寝るんだったかな?


 次の日以降も修行バカたちのの修行と、俺の逃走劇は続いていた。クソ、あの始祖、見た目に反して物凄く強いではないか。なんとか目を逃れて脱走しようとするが、捕まっては修行再開である。生物の動きかアレ?


 そしてそんな始祖の修行に真面目に付き合っているブレンたちもブレンたちだ。あいつら脳が筋肉でできてんじゃないか?人間界ではそういう連中のことを体育会系って言うらしいが、俺はどちらかといえば人間界では文化系だと思っている。何が何でも修行から脱走してやる!


 そういうことを繰り返しているうちに、ふと気がついてしまった。俺の脱走って、修行よりハードなことしてないか?


 無数に投げられてくる投石を避けつつ、異常な身体能力の始祖の打撃と魔法の雨をかいくぐり逃げ出そうとしては捕まる。そしてまた逃走しようとするも……あれ?普通に修行していた方が、ラクじゃね?


「触手、あの修行まだやる気なのか」

「熱心すぎるよ」

「ついていけんわ我は……」


 まだみんな修行だと思ってんのか?でも実質修行ってことになるのか?俺は何をしていたんだ?なんだろう、すごくバカなことをしてたような気がしてきた。





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