第7話 触手だからって洗脳が解けないと思うなよ



 気がついたら空気がある場所に入り込めていた。病み上がりのブレンには無茶をさせるが、繁殖相手を守るんだろお前は。キリキリ助けに行くぞ。


「ここは?」

「どうやらヤツのアジトらしい。なんとか助けないとな」

「あぁ。不意打ちを食らってしまったからな。しかしあんなのがもう一匹いるとは」

「むしろつがいなのかもしれないぞ」

「なるほど」


 とにかくあいつからエウロパを取り返さないといかんな。なんの目的で攫ったんだよあの白くて丸いのがついてる触手は。黙々と二人で歩いて行こうとする。不幸中の幸い地味に明るい。陽の光が入っているんだろうか?先にしばらく進んでいくと、開けた場所に出てきた。ここは一体なんなんだ?さらに先に進む。水音のようなものが聞こえる。ブレンが剣を抜いた。


「俺に考えがある。触手を伸ばして先を見てくるってのはどうだ?」

「大丈夫か?気づかれないといいんだが」

「音はしない。太さも細いからまず気づかれないと思う」

「わかった頼む、やってくれ」

「よしきた」


 触手を伸ばし、洞窟の先に何があるかを確認する。50歩先までは何もない。次だ。再び触手を伸ばす。ここにも何もない。……こういうことを数回繰り返しただろうか。突然、悲鳴が聞こえた。


「いたぞ!生きてはいるがマズいことになってるかもしれない!悲鳴が聞こえた!」

「マジかよ!クソっ!」


 俺とブレンは全速力で駆け出した。ブレンの方が早いな。俺も負けてはいられん。触手を鍾乳石に巻き付け、高速移動する。立体的な軌道で移動してゆく。


「触手!俺も引っ張れるか?」

「出来るぞ!来いっ!」


 ブレンの胴に巻きつきつつ、複数の触手で立体的な移動を行う。うぉ、スピード出すぎじゃね?ブレンの顔色も若干悪い。


「危なくないかこれ?」

「奇遇だな、俺もそう思ってきた」


 そのまま大空洞に飛び出す。ブレンが絶叫する。


「スピード!スピード落とせぇ!」

「ぶつかるぅ!!」


 しかし俺たちはなぜか壁に激突しなかった。代わりに弾力のある何かに激突した。助かった。


「きゃああああぁぁぁ!!!」


 エウロパが絶叫している。何かされてるのかくそっ!よく見ると服の結び目がほどけて肌があちこち見えそうになっている。ていうかなんか見えてる。


「ぶ、ブレン!?よくここがわかったね!」

「し、死ぬかと思った……」

「お前のせいだぞ触手」


 確かにちょっとスピード出し過ぎた。反省はしている。


「悪かった。だが……触手の怪物に打撃は与えられたぞ」

「そのようだな」


 それでも触手の怪物は服を脱がそうとしている。俺は思わずつぶやいた。


「なんで律儀に脱がそうとすんだよ。破いた方が早くないか?」

『……破くのに力が……』

「こっちの触手も喋った!っていうか触手も変なこと教えない!」


 悪かったエウロパ。でも破く気無いんだなこの触手。


「そこの触手野郎!エウロパを返せ!」

『……野郎では無い。わたしは水の女王、クラーケンクイーン』


 メスなのかこいつ。ブレンも拍子抜けのようだ。


「その水の女王が、エウロパの服なんで脱がそうとしてるんだよ」

「そうだよ、なんでぼくを脱がそうとしてるの」

『新たなる……生命の……揺りかごを……』


 おいこら何植え付けようとしてるんだよ卵とか。寄生虫かよ。


「仮に植え付けるにしても!植え付けるの別に人間でなくてもいいだろが!」


 何故か俺はキレていた。それはそうだろ、こいつのせいで触手が卑猥なことをする扱いされるんだから。


「触手!ちょっとクラーケンの額見て」


 服を脱がされつつあるエウロパが、クラーケンの額を指差す。なんだあの変な塊。変な触手みたいなのも出てるぞ?


「なんだあれ」

「おじいちゃんから聞いたことがあるけど、ある種の生物はその生き物の行動を変えるために脳を乗っ取ることがあるらしいよ。ひょっとしたら……」

「あれ潰したらクラーケンクイーンを止められるかもしれないな」

「でもうまく取らないと、ひょっとしたらぼくまで死にそうな気が」


 そのまま絞め殺されかねないな。ブレンにクラーケンクイーン倒してもらってもいいが、クラーケンの触手は切り離しても外れないとさっき本で読んだからなぁ……。


「エウロパ、どうすればいい?」

「ブレン、雷撃の魔法剣使える?」

「出来るぞ!それを当てるのか?」

「うん!触手!電撃を当てたあと引っ張り抜くの手伝って!」

「わかった!」

『……おぉのおぉれぇええ!』


 クラーケンクイーンがキレやがった。ブレンに巻きついたまま、鍾乳石にしがみつく。クラーケンクイーンが触手で殴りかかる。次々に触手で殴り付けてきやがる。直撃は避けるっ!


「いっ……てぇ!」

「触手!大丈夫!?」

「ブレンよ、何発もこんなの防げないぞ」

「その前に決着をつける!行ってくれ触手!」

「「おおおおぉぉぉぉ!!!」」


 何匹もの蛇がくらいつくかのような勢いで襲いくる触手をかわしつつ、ヤツの額にたどり着いた。


「ブレンっ!」

「分かってるっ!天地っ!雷霆ぇえっ!」


 雷撃の魔法剣がヤツの額に直撃し、電撃がヤツの額の寄生生物を貫く。のたうちまわる寄生生物を俺が抜こうとするもうまくいかない。


「ぬおおおお!」

「触手!ちょっと待ってて!」


 エウロパも何かを詠唱しているな。どんな魔法だ?


「はあああああ!アクア!ブレイかぁ!」

「おおおおぉぉぉぉ!!」


 水の魔法が寄生生物を包んでいる。俺は力いっぱい寄生生物を引き抜いた。そのまま放り捨てる。ブレンがそいつをタコ殴りにしてトドメを刺した。


「はあ……はあ……」

「やっ……」

「それ以上はいけない」

『……ん?わた、わたしは……何を……』


 クイーンが目を覚ましたようだ。


『きゃあああぁぁぁ!!ニンゲン!ニンゲンなんで!?』

「悲鳴あげたいのはぼくのほうだよ」

『しかもなんでニンゲンの服脱がしてるのわたし』

「いいから下ろしてくれるかな?」

『あっはい』


 ようやくエウロパが解放された。やっとだよ。思った以上に疲れた。


「ブレン!」

「エウロパ!よかった……って服!服着ろよ!前見えてる!」

「でも立たないんだよね」

「ピクリともしない……」


 ある意味安全だな。しかし安全かもしれないが繁殖できないから早く治さないとな、ブレンよ。


「服着るから後ろ向いてて」

「分かった」

『……ニンゲンたちよ……わたしの旦那が、ボロボロになっている……なんでか知っている?』

「急に港を襲ってきたんだ。やむなく反撃した」

『何故、そんな』

「……こいつにも額に付いているな」


 俺たちは触手なのに虫の息で、ズタボロになってるクラーケンのオスの額にも寄生生物を見つけた。服を着終わったエウロパとブレンにより寄生生物の駆除を行うことにした。これで旦那も正気に戻るだろう。


「回復魔法もかけたよ。ちょっとは良くなるよ」

『色々とすまないわね』

『感謝する』

「こっちこそ悪かった。でも襲ってきたのはそちらだからな」


 エウロパが多少の回復魔法を使えてよかった。さて、事情を聞いてみることにするか。


「それにしても……クイーンよ、何故エウロパを襲ったり卵植え付けようとしたりしたんだ」

『そもそも我らがニンゲンに卵産み付けるなんてありえぬのじゃが……あの紫の小鬼が、我に何かをしたのかもしれぬ』


 またあいつかよいい加減にしろよ。俺は触手で自分を指差す。


「俺もあいつの被害者だ。あいつのせいで喋ったり出来るが……」

「一歩間違えたら触手も俺たちの敵になっていたな」


 ブレンの言う通りだ。そうなったらミーアとかエウロパとかに何かすることになったんだろうか。……えぇ……気持ち悪い……できものっぽいのとかコブとかなんか毛とか触るのイヤだぞ。


「触手が敵になってたら怖いね……ぼくもどうなっていたか怖いよ」

「ブレンに至ってはブレンのブレンが立ち上がれないからな」

『被害があちこちに出ているわね』

『全くだ』


 本当だよ。早くあいつを始末しないと。


「これ以上被害が出る前に、あの紫の小鬼を倒さないといけないな」

「でもなんでその紫のヤツは人間を襲わせようとしているんだろう」

『それはわからぬ……そういえば、そちらの男が治る方法は、ひょっとしたらあるかもしれぬ』

「どういうことだクラーケンの旦那」


 そんなのあるなら真面目に助かるぞ。


『ここからはるか東の、美しい湖のそばに非常に巨大な図書館がある。その図書館は人間がこの世にいる前からあったともいう』

「おい!そこって俺の!?」

『そういえばその湖におぬしのような触手もいたな。見た目はともかく、非常に知性的な触手として、湖の賢者とも言われている』


 その呼ばれ方は知らなかった。さっき読んだ本にもあったな、森の賢者フクロウとか。


「実際賢いもんね触手は。人間並みだよね。デリカシーないとこあるけど」

「デリカシーのなさではエウロパとはそう大差ないと思……いたいいたい叩くな!」


 とにかく目的地は決まったな。ブレンと行くところは一緒ってことか。となると……

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