第2話 触手だからって金目のモノを持っていると思うなよ


 村への道を歩いて行くうち、どうしようもなく臭い匂いがしてきた。いくつか可能性はあるが、どれにしてもろくなもんじゃなさそうだ。


「ミーアは戦闘とかできるのか?」

「できるわけないじゃないですか村娘なのに」

「聞いた俺がバカだった。なんかくるぞ」

「触手さんには襲われなかったけど山賊かモンスターに襲われるんでしょうか」


 いや、いちいち人間を優先的に性的に襲う動物がいたらおかしい。そんなんいたらとっくにその種は滅んでるだろ変態行為のせいで。だいたいなんで異種姦野外モノを見せつけられないといけないんだ。


「どうせ性的に襲うなら同種にしてほしい、異種姦モノとか見る趣味ないから」

「同種でもイヤですよ」

「なら適当にあしらっていいか」

「お願いします」


 おーおるわおるわ、エンカウントモンスター並みの扱いの山賊ってヤツらが。4人ほどの山賊が道を塞いでいる。


「おーお姉ちゃーん、こんな道を行くの危なくない?」

「俺たちがさぁ、送ってってやろーかぁ?」

「そのかわり、おかねちょっと出して貰えると嬉しいなー」

「お、お金なんてありませんよ」

「あっそー……だったら体で払ってくれると嬉しいなぁ」


 本当にこういうこと言うヤツらいるんだ……と俺は半分呆れている。


「おい、身体で払うって生殖行為しろってことか?」

「えっ?」


 山賊たちが露骨に俺のことを変な顔で見てくる。どいつもこいつも汚ねえ毛だらけで気持ち悪い顔面だ。毟るぞ顔面の毛を。


「おい、なんで触手がいるんだよ」

「ていうかなんで触手が喋ってんだよ」

「送っていくのは俺がやるからお前たちは要らない、じゃあな」


 俺は触手を左右に振った。山賊たちは呆れ顔である。


「あのな、触手がボディガードするっておかしいと思わないか?」

「そうか?お前らよりマシじゃないか?」

「なんだとぉ!?ナメてんじゃねぇぞ?」

「舐めるとかそんな高度な変態プレイは勘弁してくれ」

「ふざけんじゃねぇぞオラ」


 あっ、俺のことを突き飛ばしやがったな。上等じゃねぇか。一戦するしかなさそうだな。ミーアが俺の背後に回り込んだ。


 げっ!いきなり斧を振り下ろしてきやがった。蛮族か!俺は触手で振り下ろされた斧の柄を抑え込む。しばらく組み合うが、牛野郎の半分の力もあるかどうかだなこりゃ。そのまま突き飛ばし斧を取り上げる。


「動きも遅い、力もない。これでどうやってモンスターから守るんだよ……」

「なんてヤツだ……」

「まとめてかかれ!」


 山賊のリーダーみたいなのが指示を出してきた。三人同時に斧を振り下ろしてきたが……動きが単調すぎるだろお前ら。もうちょっと工夫しろ、って戦闘のプロでもない山賊にいうのも酷か。


「な、だから言ってるだろ。これでどうやって守るんだよって」

「うっせえな!」

「……こいつっ……!」


 山賊のリーダー格だけはなんか俺のことを把握できたようだな。奴が意識を集中しているようだ。何か技か魔法でも使うんだろうか?そっちがその気ならだ。


「「火炎球ファイア・ボール!」」


 俺と山賊のリーダーが同時に火球を放ち、そして相殺された。その間も山賊たちの斧は抑えている。……俺、強くね?


「触手が魔法まで使うだと!?最下級とはいえっ!」

「むしろお前が魔法使えるのが驚きだよ」

「ですよね」


 俺の後ろに隠れているミーアもそう思っているのか。しかしこのままじゃラチがあかない。こう着状態だからな。こうなったらだ。


「増やそう」

「何をですか?」

「何をだよ」


 ミーアと山賊のどちらにも答えず、俺は無言で触手の数を増やすことにした。一気に触手を山賊たちの足に巻きつける。三人の山賊を絡めててぶっ倒す。倒したまま引き摺り回して、そのまま山賊のリーダーに投げつけた。


「うわあああぁぁぁ!!!」


 さて、倒したはいいがどこかにいいものはないものか……お、あったあった。触手を伸ばしてツタを持ってきて、倒れ込んでいる山賊たちをぐるぐる巻きにする。動かなくなった山賊たちを触手でまさぐる。


「触手さん何まさぐってるんですか!?」

「めぼしいモノをもらおうかと思って。うん、これ銀か?ちょっとはあるな」


 いやらしいことをしているのでないのを見て、ミーアはホッとしているようだ。


「それにしてもお金奪うんじゃ山賊じゃないですか」

「いや、迷惑料だ。これくらいもらっても文句は言われる筋合いはないぞ」

「そういうものですか」

「そうそう」


 ミーアは最後は納得してくれたようだ。のびている山賊を尻目に、俺たちは再び村を目指すことにした。


「やれやれ。時間がかかってしまったな」

「仕方ないですよ」

「それにしても気になることがあるんだが」

「なんですか?」

「あいつら、ミーアに4人分の子供作らせる気だったのか?」

「はぁ!?」


 ミーアが露骨に嫌な顔をする。よほどあいつらが嫌だったのだろうか。


「順番で子供つくるとしたら大分時間がかかるんじゃないのか?人間って子供できるの早いのか?」

「1人作るのに1年近くかかりますよ、それだと4年はすぎると思います」

「やっぱりあいつらバカだ」

「……うーん、そういうものじゃないんですけどね……」


 思わせぶりなことを言うミーア。


「どういうことだ?」

「そもそもあいつら、子供できてもできなくってもいいんじゃないんですか?」

「じゃあ何のために繁殖行為するんだ」

「一時の快楽のためですよ」

「……繁殖行為する目的がズレていないか?」


 ミーアにため息をつかれた。何か変なことを言ったか俺。


「男が子供作ること最優先だったら、もうちょっと世の中良くなってますよ」

「違うのか」

「他の動物だとオスはやり捨てですし。個人差はありますが、一緒に育てる男もそれなりにいる人間の方がまだマシなのかもしれません」

「ふむ」


 なるほど。そういうことでいうなら、マシなオスの方とは話が合うかもしれないな。


「触手さんたちはどうなんですか」

「俺たち?オスメス一緒に卵を守るんだがな……」

「えっ?他の生物に産み付けるんじゃないんですか?」


 俺は触手を振って否定する。


「少なくとも俺の種はしないぞ。そういう種もいるのかもしれないが」

「そうなんだ……」

「俺を喋れるようにしたあの紫のやつって、やっぱりバカだったんだな……」

「バカだったんですね……」


 喋れるようにしてくれたので、ミーアと話せて色々良かったとは思うがな。しかしちょっと気になることもある。


「そういえばふと思い出した。俺の近縁種の中には俺たちのようにオスとメスが二体で守る種と、オスメスが数体群集して卵を守る種がいるんだよ」

「人間は前者に近いですね」

「まさかと思うんだが、山賊って群集して繁殖行為をして卵を守るのか?」


 冷たい目でミーアに手を振られた。


「だとするとやってることが理解できん」

「だから一時の快楽ですって」

「……とすると、アレか。たまに同性で繁殖行為をするヤツがいるんだが、それに近いのか」

「それも違うと思いますよ」

「でも俺他の同性の個体と一緒に繁殖行為するのとか引くんだけど……」

「触手さんの方がまともとか、世の中の方がおかしいんですよ……」


 確かにおかしいのかもしれないな。俺たちはそんなことを思いながら先を急ぐことにした。


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