第2話 ゴブリンと戦闘

 まあ、ゴブリンと戦闘だといっても真正面から戦うなんてことはしない。

 いくらこの世界で強靭な肉体を持っているといわれているドヴェルグといえども12歳の身体ではゴブリンに勝つことは難しいと言わざるを得ない。


「さて、どうやって奇襲するか。」


 ドヴェルグという種族は総じて短躯で足が遅い種族だといわれている。そしてそれは事実である。

 そのため奇襲という敵に気付かれずに接近する行動はとても苦手としている。

 俺もドヴェルグの例に漏れず短躯であり足が遅い。

 故に俺は周りにゴブリンの気を逸らすことができるようなものがないか探すことにした。

 すると足元に転がっている石ころの中に松明を意味するルーン文字が刻まれているものがあることに気が付いた。

 多分、安全確認のために訪れたドヴェルグが明かり取りのために使用したものだと思われる。

 記憶によれば今は魔力が無くなっているため明かりはついていないが魔力を与えればルーンが起動するはずである。

 これを発動させてゴブリンと反対方向に投げれば音と光でゴブリンの気を引けるかもしれない。魔力を余剰に与えれば発動時強い光となって目眩ましにもなるだろう。

 とはいえ今試す訳にはいかない。

 魔力をルーン文字に与えれば光ってゴブリンに気付かれてしまう。なので投げる直前までルーン文字が機能するか試すことはできない。


「ぶっつけ本番でやるしかないか。」


 俺はもう一度岩陰からゴブリンの位置を確認した。ゴブリンは洞窟の奥に目を向けていたため俺にはまだ気付いていない。その後ルーンが発動しない一歩手前まで魔力を込め、ゴブリンとは反対方向に魔力を込めながら石を投げた。

 石が洞窟の壁にぶつかった音が洞窟内に木霊した直後、石を中心として魔法発動に不必要な余剰魔力が光となって辺りを覆い尽くした。

 その後光は収まっていき、松明程度まで光が収まるとそのまま洞窟内を照らしていた。

 俺は岩陰に隠れて光をやり過ごした後ゴブリンの様子を伺った。

 ゴブリンはちゃんと投げた石に目を向けていたようで、直視した光のせいで目が見えなくなっているようだった。

 また都合が良いことにハンマーがゴブリンの手から離れて地面に落ちていた。

 俺はこの絶好の機会を逃すまいと全速力でゴブリンに体当たりを喰らわした後、倒れたゴブリン目掛け棍棒でめった打ちにした。

 ゴブリンは弱いながらも生命力だけは高く、しぶといことで有名なので俺はゴブリンが完全に生き絶えていると確信できるまでゴブリンを打ち続け、顔どころか上半身の原型がなくなったところで止めた。


「さすがに死んだか。」


 上半身が肉塊と成り果てたゴブリンを見ながら俺はそう呟いた。

 そして俺は意外な程冷静な自分に気が付いた。ゴブリンを見つけた当初は緊張のあまり逆に冷静になってると思っていたが人型の生物をこの手で殺した今、冷静でいる自分に驚いた。

 転生したからなのか、それとも元からなのかはわからないが少なくとも不都合はないと思った。

 とはいえゴブリンとの戦闘で思いの外疲労してしまった--肉体的にではなく精神的に--ので今日はここまでで止めることにした。

 親父から渡された懐中時計で時刻をすると午後6時だった。

 寝るには早かったが、その分明日は早く起きられるだろう。



 翌朝、俺は寝不足だった。

 ゴブリンとの戦闘後、俺は夜営の準備と食事を終え眠りに就いた。

 精神的に疲れていたし、すぐに眠れるとばかり思っていたがなかなか寝付けなかった。それどころか殺したゴブリンの感触を思い出したせいで眠れる気分ですらなくなってしまった。

 そして寝よう、寝ようと考え事をしているうちにいつの間にやら朝になってしまったのだ。


「昨日は転生と予期せぬゴブリンとの戦闘であまり進めなかったから、今日進まないと明日洞窟を抜けられるかヤバいな。」


 朝の身支度を終えてから俺は洞窟の地図を見ながら、昨日どれ程進んだか確認したところ3分の1も進んでいなかったことが判明した。

 今日中に最低でも半分以上洞窟内を進んでいなければ明日までに洞窟を抜けることができない可能性が高かった。


 朝食と身支度を終え、洞窟をしばらく進みそろそろ昼飯を摂ろうかと思った頃、昨日聞いたことのある声が聞こえてきた。

 ゴブリンの声である。

 それも複数。

 しかも最悪なことに今いる場所は昨日のように隠れることができる岩陰などはない一本道であった。


 さて、どうしたものか。

 幸い向こうは遠くにいるようだし、まだ時間はある。ゴブリンたちがこっち気が付いて接近してくるまでに迎え撃つ準備ができればゴブリンの数によるが勝てるかもしれない。


 そうと決まれば後は早かった。

 まず、今の俺の所持品を確認した。

 今所持しているのは携帯食料、野営用の寝具、飲料水、地図、松明、救急箱、懐中時計、ロープ、棍棒、松明のルーンが刻まれた石、ゴブリンが持っていた石製ハンマー、親父からくすねた火酒。


 これらの所持品を活用して俺はゴブリンと戦わなければならない。

 飲料水と携帯食料と地図は役に立たないだろう。

 松明、棍棒、石製ハンマーは武器として活用できる。

 ルーンが刻まれた石は昨日と同じように目眩ましとして使えるだろう。

 ロープと火酒を活用すれば火炎瓶が作れるかもしれない。

 寝具は身体に巻けば多少の防具になるだろうし、懐中時計は胸ポケットに入れれば急所を守ることができる。寝具を設営するための釘は武器として使えるかもしれない。

 救急箱は言わずもがな。


 確認を終えた俺は次に、これらを用いて罠を作った。張ったロープで足を引っ掛ける罠である。これに少しでもゴブリンが引っ掛かってくれると戦闘も多少楽になると思われる。

 あとはゴブリンをこっちに呼び寄せれば戦闘の開始である。

 とはいえわざわざ呼び寄せる必要はなかった。罠を準備している音を聞き付けてゴブリンたちがこっちに向かってきていたからだ。


 こっちに向かっているゴブリンたちが目視で確認できる距離まで近付いてくるとその姿が露になった。

 まずゴブリンは総勢で8体だった。武器は石でできたハンマーはもちろんのこと

棍棒などの打撃武器が主体であるようだったが、8体のうち先陣でなにやらわめいているゴブリンだけは石でできた剣を武器にしていた。

 もしかしたらこの群れのリーダーかもしれない。


 ゴブリンリーダーは俺だけしかいないことを確認すると周りの7体のゴブリンたちに指示を出し始めた。

 するとゴブリンたちは手にした武器を振りかぶりながら一斉に俺に向かって全速力で向かってきた。


 俺はまず昨日と同じように向かってくるゴブリンたちにルーンが刻まれた石を投げた。

 石は昨日と変わらず洞窟内を光で包んだ後、洞窟で明るく照らしていた。

 俺は目を瞑って光をやり過ごした。光が収まった後ゴブリンたちを見ると向かってきていたゴブリンたちは全員目を押さえて立ち止まっていた。

 俺は昨日同様この好機を逃す訳はなく、ゴブリンたちに攻撃を加えていった。しかも昨日とは異なり棍棒ではなく石製のハンマーでゴブリンの頭をおもいっきり叩き割っていった。

 それによって俺は3体のゴブリンを瞬く間に戦闘不能にした。

 しかし、残りの4体は多少視力が回復したのか戦線に復帰して俺に攻撃を加えてきた。

 うち2体は進行方向にあったロープの罠に気が付かず、足を引っ掛け体勢を崩し転んでいった。

 罠に掛からなかったゴブリンは転んだ仲間に気をとられて無防備だったので先に殺し、罠に掛かったゴブリン2体を殺そうと顔を向けようとした時俺の背中に強い衝撃が走った。

 俺は痛みでうまく動けなかったがなんとか後ろを見ることができた。そこにはいつの間にかゴブリンリーダーが回り込んできた。俺が他のゴブリンに気をとられているうちに背後に回り込んだようだった。

 俺は死を覚悟した。前方にゴブリン2体、後方にゴブリンリーダー1体がおり、逃げられないと悟ったからだ。

 たが、天はまだ俺を見放していなかったようだ。俺が死を悟った直後、ゴブリンリーダーの目に矢が刺さっていた。それと時を同じくして背後からゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。


「おーい、トルゲ大丈夫か!」


 声がした方に顔を向けると武器と灯りを持った5人のドヴェルグの大人たちが手を振りながら俺を呼んでいた。

 一人は俺の親父だった。一番右にいたドヴェルグが弓を持っていたのでゴブリンリーダーを殺したのはこの人だろう。

 それはともかく


「大丈夫ー!助かった!」


 生き残れて良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る