王道の結末

 長蛇号がスヴォルド海域の狭い部分から抜け出ようとした瞬間に、エイリーク侯艦隊の中型船が二隻、長蛇号の前に出て行く手を阻もうとした。しかし長蛇号は巨大な船体で相手の中型船に乗り上げるようにして構わずに前進を続けた。その結果、二隻の中型船は敢えなく転覆し、長蛇号は海峡部分から広い場所へ出てきてしまった。

 エイリーク侯は最初の作戦が失敗しても諦めなかった。すぐに、自分が座乗する大型船を長蛇号の後ろに密着させ、長蛇号に続いて海峡を出ようとしていたオーラヴ王艦隊の後続船を封鎖することに成功した。

 エイリーク侯艦隊の各船は、長蛇号の両脇に密着して、長蛇号の櫂の動きを封じこめた。速度が落ちて潮に流される形になった長蛇号に対して、エイリーク侯自らを含め、海賊たちが次々と乗り込んで行った。

 長蛇号は巨大戦艦で、その戦闘力は、最初に前に出て呆気なく転覆させられた中型船を見れば明らかだった。だが、船は巨大でも、中に乗っているのは同じ人間だ。船に乗り込んでの白兵戦になれば、お互いに海賊行為によって腕を磨いてきた勇士同士である。単純に数の多いエイリーク侯の軍勢が優勢となった。

 長蛇号より先行して海峡を抜けたオーラヴ王艦隊の船の数は多かったが、旗艦長蛇号の危機に対して、方向転換して駆けつける動きが緩慢だった。

 小型艦中心の先行部隊を率いていた者がエイリーク侯に買収されていて、オーラヴ王を裏切ったのだ。オーラヴ王が直接率いているのは後ろの方の大型船十一隻のみだったのだ。

 オーラヴ王は裏切り者を憎んだ。かつて、ハーコン侯を裏切った者に対して褒美を与えず、それどころか処刑してしまったのは、誠実さのない裏切りを憎んだからだった。しかし今、部下の裏切りを憎んでも、不利な情勢は覆らない。

 先行部隊の救援を得られなかった長蛇号は、多勢に無勢で、多くのノルウェー兵が倒された。オーラヴ王もまた、角の付いた兜を被って剣と楯を駆使して奮闘していたが、自軍の完敗を悟った。

 エイリーク侯に自らの首級を渡すことを潔しとしなかったオーラヴ王は、舷側から海に飛び込んで、すぐに波間に沈んでいった。

 オーラヴ王の戦死をもって、このスヴォルドの海戦は連合軍の完勝となった。長蛇号は戦利品としてエイリーク侯が手に入れた。

 エイリーク侯は亡きオーラヴ王に代わるノルウェーの支配者として認証してもらうために、ノルウェー各地を回っているという。現在はオスロ峡湾に長蛇号を碇泊させて滞在しているらしい。

 が、長蛇号の底を潜って泳いで逃げ延びたオーラヴ王は、どこかに隠れ潜んでいて、虎視眈々と捲土重来の機会を狙っている。



「いやいやいやいやいや。おかしいわよね? オーラヴ王は戦死したと言った次の瞬間には、オーラヴ王は逃げ延びたとか言っているし」

「しょうがないだろう。噂で聞いたところでは、戦死説と逃亡説があるんだから」

「だからって両方を都合良く変な融合をする必要は無いじゃないのよ」

 賢者ソールレイヴの長い推測語りはアテになるものではなかった。だが、全く価値が無いわけでもない。

「でもちょっと待って。オーラヴ王の生死は不明だけど、失脚したのは間違い無いのよね? そして、新しい海賊王になったエイリーク侯は今、オスロ峡湾に居るの?」

「スヴォルドの海戦があってから、それほど間もないはずだから、ニダロスの方までは行っていないだろうね。すぐ近くのオスロ峡湾に行って、そこから地盤固めをすると考えるのが自然だろうね」

「だったら、今すぐ行けばエイリーク侯に面会することもできるんじゃない?」

 オップラン地方からローゲン川を下り、ミョーサ湖を越えて更に川を下ると、オスロ峡湾に出る。急げばすぐに行ける距離である。オスロ峡湾といっても広いので、エイリーク侯が厳密にどの地点に居るかは不明だが、オスロ峡湾の沿岸のどこかには居るだろう。すぐにオスロ峡湾を離れるとは考えにくかった。

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