【第四部】序章

 


 一週間くらいして「近江のおぼっちゃま」が会社に来なくなったことを聞いた。所詮、世間に甘いのだな。残念だ。そう思った。しかし、ここにはしっかりと掴み込んだ資金があった。


 二十億と言う出資は痛かったが、しかし、俺は手堅い資産を手に入れたのだ。アタッシュケースを撫でながら俺は言った。


「ひひっ、これであの会社も俺のものだ」


 俺は手にした「会社の登記簿と株式証券」を大切に金庫にしまった。そして、パソコンを立ち上げて、「株価のチャート」をじっくりと観察すると、なんと……どんどんと株価が下がっていく。俺は騙されたのか?いや、そんなことはない。しかし、ここで指を咥えていても、「株が塩漬け」になるだけだ。そう思って株を売りに行った。




**


 「ちっ、結局回収できたのは五分の一かよ……」


 株を売ると大損だった。まだ半分の資金がある……まだ二十億の資産が、俺には残っている。いや、あのガキに騙されるはずが……いろいろと考えていると、思い当たる節があった。


「あのガキは『警察官のオヤジ』のクソガキだったか。亜里沙(ありさ)め、しくじったな!」


俺は苛立って、そのまま殺し屋に依頼をした。




「……ちょっと頼みたいことがある。始末して欲しい奴がいるんだが。金ならいくらでも出す」


「……分かった、いつもの場所で落ち合おう」


電話を切った。そして、俺は「原因不明の目まいと動悸(どうき)」が止まらなくなった。最近幻聴も聞こえてくる。少し疲れたんだな。ちょっと休もう。

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