【第二部】序章



 それから数日。季節は十月になった。経済大学でも、学祭のために、忙しく準備に追われていたのだ。俺はあの寒い一夜。結局終電を乗り逃して、ネットカフェで一泊したのだけれど、鏡を見ると、首に確かに残る違和感を感じていた。あれが夢でなければ、どうして?あけちゃんは音信不通になり、積極的にメッセンジャーを送り合ってた、あの淡い日々がまるで夢のように消えていった。




 「どうせ、お前は悪い女に引っかかったんだよ。元気出しな!またコンパ開いてやるからさ」


 健はケラケラと笑いながら俺の背中を叩いていた。しかし、何か引っかかる違和感。




 数日後。俺のアパートの部屋のポストに、「宛名不明の茶封筒、無地の便箋には滲んだような筆跡で、震えた手で書かれたような手紙」が投函されていた。新手の嫌がらせだろうか。そんなことを思い、手紙を丸めて捨てようとした。しかし、この筆跡はどこかで見覚えがあったのだ。




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昔々、ある所に可哀相な女の子がいました。女の子は小学一年で父親を亡くし、次いで母親を亡くしました。父親は大型トラックの運転手の飲酒運転に巻き込まれて亡くなりました。乱れたトラックは勢いをつけて軽自動車にぶつかったのが原因です。前方にいた父親は大型トラックの重みで運転席が、潰されてしまいました。母親は、最愛の夫の死亡事故に憤りを感じ、裁判沙汰を起こしました。しかし運転手関係者は大きな黒幕と繋がっていたのです。結局裁判は揉み消しが図られて無罪判決になりました。更に母親は、謎の幹部に拉致されて、性的暴行を受け、睡眠薬を飲まされて海に沈められてしまいました。なにも知らない女の子は「悪いおじさんたち」に引き取られ、なんにも知らされないまま、その幹部の一人として……今も生きているのです。


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 俺は、このとき身体が震え、止まらなくなった。父が殉職した話を聞くと、鏑木市の港で「睡眠薬を飲まされて、沈められた」という話を聞いているのだ。同じ凶行に遭っている、身元不明の手紙をくれた女性は誰だかは分からない。しかし、俺は滾(たぎ)る復讐心に身が寒くなった。




 そして、全財産と株券を全てアタッシュケースに詰めると、証券取引所まで走って行った――。

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